150.もぐらっ娘、モグレムを運用する。
「何から調べる?」
「まずは護衛としての適性検査を」
「おっけー。んじゃ、今回はパメラに協力してもらおうか」
ルシエラとともに調査をはじめて1週間。良い点も悪い点も含めてモグレムについていろいろとわかってきた。
まずは純粋な戦闘能力について。
「――うぉ、なんつー連係しやがんだこいつら!?」
これは申し分なし。
1対1だとあっさり返り討ちにされたけど、集団になると絶妙なコンビネーションを発揮。じわじわとパメラを訓練場の隅へと追いやった。
「そこまで! モグレム部隊、後退せよ!!」
「くっ、小さいエミカに寄ってたかってやられた気分だ……」
贅沢をいえば個としては多少不安が残る結果だったけど、チームとして動くよう命じておけば補えるはず。元々物量で守る作戦でもあるし、当初の方針に変わりはない。最初のテストは概ね満足のいく内容だった。
「おねーちゃん! わたしもわたしもー!!」
「あ、いやリリ、お姉ちゃんたちは別に遊んでるわけじゃ」
「わたしもやる~~!!」
「あー……なら、リリにも1体貸してあげる。でも、お姉ちゃんたちの邪魔は絶対にしないでね」
「わぁー♪」
「お返事は?」
「は~いっ!!」
さらに細かい調査を進めてるとリリがやってきた。ぐずられるのも嫌だったので、その場で新たなモグレムを召喚。遊び相手になるよう命令を出してリリには隅っこのほうにいってもらった。
――ドゴォオオン!!
背後からものすごい音がしたのはそれから少ししたあとだった。
「ちっちゃいおねーちゃん、こわれちゃった」
「「「…………」」」
リリの下に急いで駆け寄ると、その足元では頭部が潰れたモグレムが無残にも横たわってた。
ボディーの耐久性はモグラメタル防具と同じぐらいあると思ってたけど、まさかの強度不足か。
というわけで、ダンジョンの外層を使ってより頑丈(てか破壊不能)なモグレムも作ってみた。
「おー、赤黒いボディーが特別感あっていいね」
「かっこいいー!」
「命名。〝リーダーモグレム〟」
「なるほどな、赤単体白複数でチームを組ませるわけか」
ダンジョンの外層は他の素材と比べて在庫に不安があることもあって、とりあえず現状は通常モグレム20に対してリーダーモグレム1程度の割合で作っていく方針でまとまった(ちなみに略称は赤モグと白モグで決定)。
「このぐらいの広さでいい?」
「良」
戦闘能力と耐久性のテストを実施した翌日、私は家を増築。地下3階に訓練場の何倍もの巨大な空間を作った。
「んじゃ、じゃんじゃん召喚してくねー」
このスペースを使ってモグラサモンの限界を調べることになったけど、モグレムが1000体を超えたところでルシエラからストップがかかり調査は中止になった。結局、召喚可能な最大数は不明のまま。
ただ、とりあえず相当無理ができるってことはわかったので良しとした。
「いい? 怪しい人を見つけたら捕まえて、私の前まで連れてくるんだよ」
さらに翌日、赤モグ1白モグ4の合計5体で家の警備を実践させてみた。モグレムたちは決められたルートをしっかり巡回してそつなく仕事をこなしてくれてたけど、地下2階の廊下でイオリさんと出くわすと一変。
なぜか猛然と彼女を追いかけ回しはじめた。
「ぎゃあああぁー! なんなんすかこいつらは!?」
挙句、行き止まりで取り押さえてロープでぐるぐる巻き。モグレムたちは身動きのできなくなったイオリさんを担ぎ上げると、どこか得意げに私の前まで運んできた。
「うぅ~、ご主人様ぁー! 助けてくださいっす~!!」
「ちょ、また!? だからこの人はウチのメイドさんだってば!!」
そのあと何度注意してもモグレムたちはイオリさんを捕縛し続けた。
ルシエラにも相談したけど、結局この件については原因もわからず。ただ幸い、気配を消すとある程度やり過ごせることがわかったので、イオリさんには申しわけないけどモグレムたちとすれ違う時はコソコソしてもらうようお願いした。
「どちらにせよ問題としては軽微。現段階では放置を推奨」
「んー、なんにしてもまずは原因がわからないとだよね……」
イオリさん冤罪問題はとりあえず一時様子見で対処。
別件で無視できないほどの大きな問題にぶつかったのは、さらにその数日後のことだった。
「やっぱ最初に召喚したのから止まっていってるっぽいね」
「しかし予想はしていた。抜本的な対策が必要」
活動限界に達したのか、その日から突然動きを止めるモグレムがちらほらと出はじめた。
もちろん一度取りこんで召喚し直せば復活(?)するけど、その度に停止してるモグレムたちをいちいち回収しに回るのも正直手間。扱う数を考えればもっと効率よく運用しなければだった。
「回収専用のモグレムを作るとかどうかな?」
「回収専用のモグレムが活動を停止した場合は?」
「回収専用のモグレムを回収するモグレムを作る?」
「根本的な解決に至らず」
「だね……」
「仮説段階ではあるが、私に案あり。ぜひ試したい」
厄介なことになりそうだと思ったけど、研究熱心なルシエラのおかげであっさりと問題は解決した。
「この格納庫一面に魔力土を撒いてほしい」
「いいけど、地下農場ならこの上にあるよ?」
「否。作物を育てるわけではない」
指示されたとおり増築した地下3階の床全体に魔力土を敷き詰めてから、その上に動かなくなったモグレムを運んで寝かせる。やったことはそれだけだった。
そのまま待つこと数ミニット。やがてモグレムは自力でむっくり起き上がると、再び元気に活動をはじめた。
「ゴーレムの原動力は魔力。モグレムがエミカを模した存在ならば、その爪には特性が一部引き継がれていると考えた」
つまり魔力土に含まれてる魔力を爪から取りこんだってことらしい。
しかも寝てる状態でそれができたってことは、活動中も普通に魔力の補充ができるってこと。
予め「魔力が尽きかけたら格納庫に戻って休め」って命令しておけば、魔力栽培同様に私がすることは減った土を足すだけでよくなる。再召喚の必要も一切ないし、これなら負担なくモグレム部隊を運用できそうだった。
「でも、さすがに1000体も家の守りに必要ないね。せっかくだし防壁の見張りも任せてみようか?」
「賛成。素晴らしき有効活用」
門や柵周りに配置したとしても50体あれば十分。会長にも一言お伺いした上で余剰戦力は街の外周の監視に回すことが決まった。
1000体以上のモグレムを引き連れて防壁まで進軍したのはちょっとした騒ぎになったけど、無事1体も迷子になることなく到着。その場で街の安全を守るよう、私は若干芝居がかった感じでモグレムたちに号令をかけた。
「――諸君たちの奮闘に期待する!」
と、そんなこんなで外壁と同時に我が家のほうでも本格的な運用を開始。
モグレムたちは警備任務含めて掃除なんかのお手伝いも兼務してくれた上、家族の外出時には戦力を的確にわけて護衛に当たるなど、私が指示しなくてもすべてに臨機応変に対応してくれた。
「ひとまずは安心できそうだね」
街の守りと家の守り。
二重の防壁が正常に機能しはじめたことで、張り詰めてた私の心にもいくらかの余裕が生まれた。











