149.もぐらっ娘、ゴーレムを召喚する。
「うぅ、ひどい目に遭った……」
「それは私のセリフ。完全に巻きこまれ事故……」
長いお説教を終えると、シホルは調理場のほうに戻っていった。
気づけばもう夕暮れ時。そろそろ店チームのメイドさんたちやミニゴブリンたちも帰ってきて、たくさんの手料理が大広間のテーブルにずらりと並ぶ頃だ。道連れにしてしまったお詫びもこめて、せっかくなのでルシエラには晩ごはんを食べていってもらうことにする。
「それにしてもまいったな。お金が無制限に使えないってなると、やれることも限られてきちゃうよ」
「しかし、エミカ妹の主張はもっとも。安全とコストの問題は不可分の関係」
「ん~、でもなぁ……」
地下1階の私の部屋に移って再度ルシエラと話し合うも、議論はすぐに行き詰まった。
妙案が浮かばず、終始唸りっきり。こりゃダメだ。今日はあきらめてまた明日改めて考え直そう。
どうにもならずそんな先送りの結論を出しかけたところだった。
――コン、コン、コン。
不意にノックの音が響いた。
「ん? はーい。ちょっと待ってね」
内側からドアを開けると、ミニゴブリンのモモリンが立ってた。
「キー」
「あ、お茶持ってきてくれたの? ありがと~」
小さな配膳台を押して中に入ってくると、彼女は2人分のティーカップに静かに紅茶を注いでくれた。自分の仕事を終え、そのまま礼儀正しく一礼して部屋を出ていくモモリン。
晩ごはんの準備で忙しいはずなのに、ほんと気が利く子だ。改めて倒さず仲魔にしてよかったと思う。
「……ん、仲魔? あっ、そうだよ! この手があった!!」
忠実なモモリンを見て、そこではっと思いつく。
人や精霊がダメならモンスターに警備や護衛をしてもらえばいいじゃん、と。
「強いモンスターなら相当頼りになるでしょ、どうかなルシエラ!?」
「残念ながら、その方法はすでに私のほうで検討済み。実行には大きな問題が2つ」
「え、マジで……?」
「マジ。1つ目の問題は屈強なモンスターほど使役が難しいこと。運良くテイムできたとしてもその後の管理も厳しく、それに伴うリスクも高くなる」
「えっと、もし仲魔にできてもすぐ野生化しちゃうってこと?」
「肯定。2つ目の問題は魔物飼いのスクロールも精霊召喚術ほどではないにしろ高額であること。前述した1つ目の理由によるテイム成功率を踏まえればやはり膨大な量のスクロールが必要となる。結果、またエミカ妹が大激怒。怖い」
「……」
なるほど、結局またコストの問題に引っかかっちゃうわけか。
ならこの方法もダメだね。
「あー、せっかく妙案だと思ったのになぁ……」
これまで倒したモンスターの中でならミノタウロスなんかちょうどいいかなって思ってたんだけど。あ、でもボスモンスターってテイムできなかったりするのかな? できないなら王都のダンジョンで戦ったあのゴーレムみたいのでも――って、もうこんなこと考えてもしょうがないか。
さっさと別の方法を考えないと……ん、あれ?
なんだろ、この違和感は。
今、なんか私、すごいことを――
「――あっ」
ふと、小骨が咽喉の奥に刺さったような妙な引っかかり。
次の瞬間、それはたちまち閃きに変わった。
「そっか、ゴーレム!」
普通のモンスターは無理だけど、身体が土や鉄でできたゴーレムならモグラの爪で作れるかもしれない。
それにさっきの精霊召喚術みたいに召喚した時点で契約が成立するなら、テイムのスクロールも不用。使役に関するコスト面の問題も一気に解決するはずだ。
「……なるほど。盲点。そもそもゴーレムとは命令で動く泥人形のこと。モンスターであってもその存在自体召喚術の一種と考えても差し支えはない。やってみる価値あり」
ルシエラからもゴーサインをもらったのでさっそくイメージを膨らませる。
ま、ゴーレムの製造方法なんて知らないけど、ダメで元々だ。モグラの爪の力を信じてここは無茶ぶりしてみよう。
「むぅ~、ゴーレム、ゴーレム……出でよ、ゴーレム――!!」
――ボンッ。
モグラダブルリリースで最大の高さを出しつつ、クリエイト。直後、異様に手足の長い土色のヒト型が出現した。
「おお、出た!?」
「エミカ、何か命令を」
角張った身体に、天井に届きそうなまでの背丈。
イメージしてた屈強なゴーレムとは違ってなんかかなりひょろっと体型だけど、ゴーレムとして念じて出したからには本物のはず。
私は試しに召喚者として簡単な命令を出した。
「ゴーレム、歩いて!」
――ゴゴ、ゴゴゴゴ。
ゆっくりと、長い手足が動く。
1歩、2歩とゆらゆら前進。すごい、これほんとにゴーレムだ。私のいうことちゃんと聞いてくれてるよ。
「そこで回れ右、ついてきて!」
さらに命令を追加して、もっと広い場所に連れ出すべく私は部屋を出る。扉を開けて廊下で待機。少しすると遅れてゴーレムはやってきた。
――ゴンッ!
――ガガ、ガガガッ、ガリガリガリ……シュ~ン。
「……あ、あれ?」
でも、そこで問題発生。
ゴーレムは自分の身体よりも低い扉口に引っかかると、そのまま廊下に出ることなく動きを止めてしまった。
「いや、しゃがまないと潜れないよ? って、おーい?」
「知能レベルに問題あり」
「うっ、たしかに……それに動きがノロノロなのもちょっと気になる……」
「提言。固定観念に縛られる必要はない。召喚時のイメージを一新するべき。その上でエミカが思い描く独自のゴーレムを作り上げればいい」
「私独自のゴーレムか……なるほど。わかった、やってみるね!」
ルシエラの助言を受けて、入口を塞いでたゴーレムを撤去。室内に戻ると、私はさっそく新しいイメージの構築に取りかかった。
欲しいのは強くて機敏で機動力があって、命令にも臨機応変に動く、そんなゴーレムだ。それと家を出入りするわけだから、さっきみたいに大きいと邪魔になってしまう。なので背丈はある程度小さめに。造形も強そうってよりは愛着がわく感じで。
大体のイメージを決めたところで再度召喚。
こうして私独自のゴーレムが爆誕した。
――ポンッ。
「こ、これは――!?」
膨れた手足に、伸びた爪。
そして、ずんぐりむっくりの真っ白なボディー。
てか、なんかこれどっかで見たことあるような? なんて思ってたら完全にモグラきぐるみーを装着してる時の私だった。
「え、なんでモグエル……? しかも、なんかちっこいし……」
いや、たしかに小さくてかわいいイメージではあったけど、これじゃさっきのゴーレムの半分ほど。人よりも小さいし。
「推察。エミカの理想のイメージを体現した結果」
「えー、これがぁ……?」
納得できない部分はあったけど、こうなってしまったものはしかたない。
ルシエラの助言を聞いてもう何体か召喚した上で、私はゴーレムたちをその場に整列させたり、そのまま廊下を行進させたりしてみた。
「おー、今度は動きも素早いし、曖昧な命令にも対応してくれてるね」
「現状は合格点。しかし実用に沿うか、今後より綿密な調査が必要」
そのあとさらにルシエラと話し合った結果、
ゴーレムを召喚する技を〝モグラサモン〟
モグエル型のゴーレムを〝モグレム〟
と、それぞれ名づけた上で、明日から本格的な性能検査をすることになった。











