幕間 ~終焉の解放者14~
「は? 壊滅ってどういうことよ?」
王国辺境北方地区。
シュテンデルート城内、執務室。
アレクベルから報告を受けたジーアは愕然とした。
『それが……突然現れた謎の人物にアジト含めて何もかも滅茶苦茶にされたそうです』
「突然現れたって地下333階に? いや、どうやってよ?」
『わかりません。俺もダリアさんからそう報告を受けただけなんで……』
「……」
モコと同系統の天賦技能を持つ者の犯行か。
少なくとも現状で断言できることは、通りすがりの冒険者という線は限りなく薄いということ。おそらく闖入者は勧誘対象となんらかの繋がりを持つ人物だろう。方法は不明だが、仲間を取り戻しにやってきたのだ。
そのあとアレクベルからより詳細な報告を受けたジーアは、即座に一つの決断を下した。
「勧誘は中止。この件からは完全に手を引くわ」
あの双子やダリアを退け、アジトを破壊。その上で勧誘対象を連れて楽々逃走。
疑う余地はなかった。間違いなく相当な実力の持ち主だ。
「正直、戦力はもう十分だし、これから私たちは裏で国を操っていかなきゃで大忙しよ。これ以上不確定要素に構って時間を無駄にするわけにはいかないわ」
『でも、相当執着してる感じでしたし、ダリアさんが納得しないんじゃ……?』
「なら説得はあなたが適任ね、アレク」
『えっ?』
「頼んだわよ。じゃ、私はやることがあるから」
こめかみから指を離して一方的に会話を終えるジーア。すぐにアレクベルから何度も呼びかけがあったが、彼女がそれに答えることはなかった。
(冗談じゃないわ。これ以上、計画を乱されてたまるもんですか……)
当初は小国の代表者たちに取り入り、その信用を得た上でシュテンヴェーデル辺境伯にまで辿り着く予定だった。しかし、王子の誘拐が失敗に終わり代表者たちとは決裂。結局は刹那的な力技で城を落とす結果となってしまった。
「どうしたよ? またなんか問題発生か?」
「勧誘に失敗してアジトが壊滅したそうよ」
「……は? マジで!?」
「マジよ。しばらくあっちは使えないでしょうから、さっそく城にアジトを移さないとだわ。すぐに取りかかるわよ」
隣にいたユウジに簡潔に情報を共有後、ジーアは床に横たわる死体に向けて立ち上がるよう命令した。
「あ、ぁっ……」
生きる屍と化した青白い顔のシュテンヴェーデル辺境伯がむっくりと起き上がり、その場に直立する。さらに幾つかの命令を下して、ジーアは自らの能力が正しく機能していることを確認した。
「異常なし。これで侵略の第一関門はクリアね」
「次はここ辺境北方と小国の合併か」
「その前に王国からの独立が先でしょ。パープルもそれで――って、あれ? パープルは?」
「あいつならさっき部屋から出て行ったぞ」
「……は? ちょっと、見てたのになんで止めなかったのよ!?」
「いや、知らねーし」
同時刻、終焉の解放者の首領であるパープルは、シュテンデルート城で一番高い塔の頂にいた。
意識的に目指してきたわけではない。足の向いた方向に進んだ結果、自然とこの場所に辿り着いていた。
「……」
眼下には白いシュテンデルートの街並み。美しい景色を見下ろしながら、彼女は王国を滅ぼす足掛かりを得たことを静かに実感していた。
神々の恩恵を独占する大陸の覇者。世界の害悪を潰すため、遥か西の地から旅を続けてもう何年もの月日が流れていた。
すべてのはじまりは幼い妹の死。
妹は飢えて死に、その生涯を閉じた。
一方で自分は力を得て生き残った。
いや、生き残ってしまった。
〝絶望を穿つ紫〟――
パープル・ウィスパードはあらゆる過去を思い出す。
自分たちを捨てた両親のこと。
抗えなかった運命のこと。
人として育ててくれた恩人のこと。
残酷でふざけた世界のこと。
そして、これまでの旅路のこと。
「必ず、遂げる――」
パープルを突き動かしているのは最早、復讐心でもなければ義侠心でもなかった。
生き残ってしまった意味。
ただ、それだけを求めて。
そんな彼女の旅は、いよいよ終着に向けて動き出そうとしていた。
――数週間後。
新しい年を目前に控えた歳晩。
シュテンヴェーデル辺境伯が自治領の分離独立を宣言すると共に、小国との統合を発表。ここに大陸内に新たな国家が樹立された。
新国家名は――〝救国〟。
救国は王国を敵性国家と認定し、両国は年明けを待たず事実上の戦争状態へと突入した。
【ご連絡】
予告したとおり今話で今章終了となります。
なんというか色々苦戦したというか苦戦しかない章でした……。
最後まで付き合って支えて下さった皆様に心より感謝申し上げます<(_ _)>
そんでもって次章ですが、毎度毎度のことながらお時間をいただくことになるかと。できれば四月の頭には再開したいところですが、どうなるかちょっと先が読めない状況なので、どうか気長にお待ちいただければ幸いです(内容に関しては現状、のんびり編みたくエミカ視点中心の話になる予定)。











