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幕間 ~終焉の解放者12~


 終焉の解放者(リベレーターズ)のアジトである氷壁ダンジョン最終階層ではパメラとレオリドスによる壮絶な一騎打ちが続いていた。

 〝いでよ、我が大剣(マテリアライズ)〟と〝獣王変化(ライオンキング)〟――両者共に接近戦特化型の能力。

 戦闘は必然的に正面からのぶつかり合いとなった。


「おらっ!」

「――ッ!?」


 パメラの大剣が完全なる獣人と化したレオリドスの横腹を打ち、吹き飛ばす。巨体は冷たい床を何度も跳ねるように転がり、最後には神殿の柱へと激突。轟音が周囲に響き渡る中、氷で築かれた建物の一部がガラガラとさらなる地響きを立てて崩れ落ちていく。


「ぐっ、く……」


 氷の残骸に埋もれ満身創痍のレオリドス。その場から両手をついてなんとか起き上がるも、その両足は今にも折れそうなほどにグラついていた。


「こんだけぶっ叩かれてまだ立つのかよ。マジで体力馬鹿(タフ)だな」

「ヘッヘ、まだまだ……お、俺様は闘れるぜ……」


 戦いがはじまってすでに一アワ近くが経過していたが、戦況は終始パメラが圧倒していた。

 どれだけ超人的な速度で突進しようとも、大剣で捌かれ弾かれる。前日のマストンとの戦いによる疲労があったのも事実だが、レオリドスの最大の強みであるスピードがパメラの前ではまったくと言って通用していなかった。


「何度やったって同じだぞ。いい加減もう寝とけよ」

「な、何言ってやがんだてめぇ……こっからが、本番だろっ……」


 再び相対する両者。

 次の瞬間、レオリドスが先に仕掛ける。だが、予告されたとおり結果は同じものとなった。

 放たれた連続蹴りを受け流すパメラ。直後、容易く間合いに入り込み、全力の一撃を叩き込む。大剣で殴打されたレオリドスは吹き飛ばされ、神殿の柱に轟音と共に激突。そのまま再び氷の瓦礫の下敷きとなった。


「クソ……マ、マジで……強ぇ……」


 不屈の闘志を持った完全なる獣人も、度重なるダメージについにそこで意識を失った。


「やっと落ちたか……」


 勝利を喜ぶことなく、パメラはすぐに次の標的へ視線を向けた。魔法陣から少し離れた位置にある氷でできた階層の壁際。大柄な男と小柄な少女――ラッダとゴルディロックスは何やら小声で話し合っていた。


「ゴルディロックス、お主は今戦えまい。次の相手は拙僧が仕ろう。もしもの時はアレクベルに救援を頼め」

「わ、わかったの……」


 ラッダは歩き出すと、神殿の正面で佇んでいたパメラと向かい合った。


「レオリドスに勝つとは恐れ入った。拙僧はラッダと申す。お主、名は?」

「は? なんだよ、あの双子の仲間なのにオレの名前も知らないのか?」

「所詮拙僧らは個と個の寄り集まりに過ぎぬ。徒党であっても己の任務外の事案にはそこまで興味がないのでな」

「だからってまたわざわざ一騎打ちかよ。てか、それってチーム組んでる意味あんのか?」

「ある。個では為せないことも群では為せる。すべては己という人間の限界を超えるためだ」

「ふーん。よくわかんねーけど、ただの仲良しグループじゃないってことか。まー、お前らが仲間同士で何考えてんのかなんてどうでもいい。なんだろうと叩き潰すことに変わりねーしな。おら、そろそろかかって来いよ」

「素直に了承したいところだが、このままはじめるのは些か公平性に欠けるというもの。拙僧はすでにお主の天賦技能(ギフト)をこの目にしたが、お主は拙僧の力を知らぬ。よく見ておけ――」


 そこでラッダは己の全身を硬質化させると、〝破壊神(ステゴロ)〟の能力について説明を行なった。


「お主やレオリドスと同じ接近戦特化型の天賦技能(ギフト)。しかし、その中でも防御により重点を置いた力と言えるだろう」

「いいのか? わざわざ敵の前で自分の特技をペラペラ喋るなんざ三流のやることだぞ」

「己の信念を曲げ、ただ利だけを欲することを一流と呼ぶならば、拙僧は三流で構わん」

「……そうかよ。まー、嫌いじゃない考え方だ。あ、オレの名前はパメラな。パメラ・ファンダイン。んじゃ、お互い晒し合ったところではじめるか」

「うむ。いざ尋常に勝負――」


 直後、パメラはレオリドスの時とは打って変わって積極的に前に出た。光の大剣を横に薙ぎ、まずは様子見の一撃を放つ。


「――くっ、硬ぇ!」


 鋼の身体になったラッダをわずかに押しやったもののダメージを与えた感触はない。その後も徐々に斬撃の威力を高めて相手を滅多打ちにするもほぼ効果はなかった。


「ちっ……」


 一連の攻撃を終えると、パメラは一度間合いを取るため背後に飛び退いた。


「なぜ端から全力で来ない?」

「うるせー。オレの勝手だろ」

「今その剣を受けて確信したが、やはり得物自体に重量はないようだな。軽々振り回せるのも道理である」

「おっさん、さっきの獣人より厄介だな」

「拙僧はおっさんではない」


 攻撃が通じない中、相手はさらにこちらの分析を進めている。そして、いつまた例の双子が戻ってくるかわからない。

 現状を踏まえ、パメラは出し惜しみをやめた。


「できれば最後まで取って置きたかったが、そんなことも言ってらんねーか……」


 その場で大剣を水平に構えると、パメラはその内部に封じられた魔力を一気に開放した。

 煌びやかな白い霧が剣身から溢れ出していく。直後、圧縮された魔力が光の塊となって周囲を眩く照らした。


「な、なんだ……その膨大な魔力は……」

「悪ぃけど、この取って置きで幕引きにさせてもらうぜ」


 それは過去の竜退治における苦い経験からパメラが独自に編み出した技だった。自分の大剣は近距離では無類の強さを誇るが遠距離ではまったくの無力。ならば、通常は回復に使っている剣内部の魔力をどうにか攻撃に転化できないものか。

 試行錯誤と絶え間ない修練の末、パメラはこの技を完成させた。



「――光刃斬(スラッシュ)!!」



 真横に剣身を薙ぐと同時だった。

 巨大な光の刃が飛び出し、それは瞬く間にラッダを呑み込んだ。驚愕の声すら上げる間もなく、まともに光の斬撃を受けた彼はレオリドスと同じように背後の神殿まで一瞬で吹き飛ばされていく。


「あ、ヤベ――」


 パメラによって放たれた光の刃はラッダを戦闘不能に追いやると共に、神殿に巨大な亀裂を刻み込んだ。直後、連鎖的に至るところで瓦解がはじまり、やがて美しかった氷の殿堂は見るも無残な姿へと変わり果てた。


「……やりすぎたな。まー、あの連中の頑丈さを考えりゃ死んではねーだろうけど」


 光刃斬(スラッシュ)は大剣に宿った魔力をすべて引き換えにするため加減が利かない。また再度使用するにはモンスターから大量の魔力を集めなければならず連発もできない大技だった。


「やっぱ問題が多いな、この技。せめて何発かに分けて撃てりゃ使い勝手もよくなるんだが」


 ブツブツと呟きながらパメラは最後に一人残った少女――ゴルディロックスの下へと近付く。そしてボロボロのぬいぐるみを抱えたまま震えている彼女に、戸惑いつつも声をかけた。


「……で? お前はどうすんだよ?」

「くまさん……た、助けて……」

「クマさん?」


 少しして抱いているそれのことかと気づく。彼女が胸に抱いているクマのぬいぐるみは脚部と腹に大きな穴が開いており中から白い綿が飛び出していた。


「うわ、ボロボロじゃねーか」

「う、うぅ……くまさんは杭を打たれて怪我しちゃったの……。だ、だから、ゴルディーは戦えないの……」

「そうか、ぬいぐるみに杭を。酷いことする奴もいたもんだな」


 よくわからないが、とりあえず交戦の意思がないことは確認できた。いや、そもそもこの怯えようである。戦闘員ではないのかもしれない。


「てか、このパターンは考えてなかっ――ん?」


 どう対応すべきか迷っていると、そこで突然背後の黒い魔法陣が輝きを放ち明滅を繰り返した。

 次の瞬間、パメラの瞳には双子と共に黒いベールで顔を覆い隠した不気味な死神の姿が映る。


「お、新手か。ちょうどいいタイミングだな」


 それがただの敵ではないことに、彼女はまだ気付いていなかった。


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