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幕間 ~終焉の解放者10~


 王国辺境北方地区。

 その中心を担う都市――シュテンデルート。

 代々この辺境一帯を統治してきたシュテンヴェーデル家が心血を注ぎ作り上げてきたこの街に、終焉の解放者(リベレーターズ)のメンバーであるダリアは潜伏していた。



「ふぁ~、よく寝た……。ん? あれ、ここは……」



 すらりとした艶かしい四肢に、()()()()()()()()()()

 そして、ところどころ白髪の混じったオレンジのロングヘアー。

 窓から射し込む朝日に目覚めたダリアは裸のままキングサイズのベッドから這い出ると、そこで床に転がる男の死骸を見つけ昨夜のことを思い出した。


「あー」


 恐怖に見開かれた目に、外れんばかりに限界まで開いた顎。

 よほど恐ろしいものを見たのだろう。髭を蓄えた初老の男は壮絶な死に顔を浮かべたまま息絶えていた。


「そうだった。昨日はこの家に〝お邪魔〟したんだっけ」


 作戦の中止を受けてお預けを食らったダリアは昨夜、湧き上がる欲求と衝動を抑え切れず、偶然通りかかったこの貴族の邸宅へと忍び込んだ。

 そして家主とその家族と使用人、中にいた者たちを一人残らず殺害。広い邸宅を占拠し、満足した彼女はここで一夜を明かしていた。


「結局、あのあとアレク君から進捗もないしー」


 音信不通の双子とまた連絡が取れ次第、アレクベルから連絡がくることになっていたが依然音沙汰がない。今日もここで待機となれば、訪問者によっては家の者の不在を訝しむ者も出てくるだろう。しっかり対処しなければ。


「――っと、まずは着替え着替え」


 今後のことを考えながら死骸の横に脱ぎ散らかしてあった衣服を一枚ずつ身に着けていく。下着に喪服用のドレス。黒く透けたレースの布でその不気味な双眸を覆い隠し、さらには黒いベールを被る。

 着替えを終え、ベッドの傍に立てかけておいた大鎌を軽々拾い上げると、ダリアは寝室を出た。小腹が減っていたのでとりあえずそのままキッチンへと向かう。


『――ダリアさん、聞こえてますか?』

「あ、はいはい~。聞こえてるよー♪」


 食料棚を物色している最中、不意にアレクベルから連絡が入った。ダリアが快く応じると、彼は行方不明になっていた双子が先ほどアジトに戻ってきた旨と、休止になっていた任務の再開を告げた。


「私が推薦した子はー?」

『説得してなんとか連れてきたみたいですよ』

「……そう。それは何より」

『あの、ダリアさん。ロコちゃんたちをそちらへ向かわせたいので潜伏場所を教えてください』

「あー、ええっと、ここはね~」


 シュテンデルートでも限られた富裕層のみが暮らす地区。ある程度の場所と、目印になりそうな邸宅の特徴をダリアは伝えた。


『え、どうしてそんな場所に?』

「だって~、アレク君が作戦中止とか言ってお預けするからー。年上を焦らして弄ぶとか本当いい趣味してるよね~」

『……はい? いや、俺はただジーアさんの命令を伝えただけで、ダリアさんのこと弄んだわけじゃないですから……。というか、そもそもなんの話ですか?』

「えへへ、欲望の捌け口の話」

『よくわかりません……。とにかく、ロコちゃんたちに居場所を伝えておきますんで合流したら作戦の遂行をお願いします』

「はいはい、任せて~♪」


 双子を待つなら表の入口から近い場所にいたほうがいいだろう。物色を終えるとそう判断し、ダリアは鼻歌交じりに玄関側の広間へと向かった。


「……おやおや?」


 その途中、何かを引き摺ったような跡を見つけた。血痕が廊下の奥まで途切れ途切れの線となって伸びている。辿ると、曲がった角の先で若い女中が壁に背中を預けて座っていた。

 高揚していたせいで多少記憶が曖昧だが、状況を見る限り昨夜の被害者の一人であることは間違いなかった。


「あ~、死に損ない発見ー♪」

「……はぁ……、ぁ……」


 目は虚ろで、息も絶え絶え。両足は共に足首から先が切断されていて、そこから流れた大量の血が廊下の床に大きな血溜まりを作っていた。

 もう逃げるどころか、悲鳴を上げる気力すら残っていないようだ。女中はダリアの存在に気づいても身じろぎ一つしなかった。


「あらら~、その状態でまだ生きてるとか運悪すぎー。よほど神様に愛されてないんだね、可哀想に。まー、今すぐ何も感じられないようにしてあげるからさ、せいぜい感謝しながら死んでいってね」

「……た、助け……、て……」


 口角を歪めながら大鎌を振り上げた瞬間だった。そこで女中は最後の力を振り絞ると、ダリアに懇願しその手を伸ばしてきた。


「えー、死に損ないのくせにわがままだな~」


 助けてやるメリットは何一つない。本来なら有無を言わさず止めを刺している場面である。

 だが、双子がくるまでまだかなり時間はあった。暇潰しには丁度いい。ダリアは自らの天賦技能(ギフト)を使った余興を楽しむことにした。


「それじゃ、あなたの恐怖で私を満足させてみせて。それができたら見逃してあげるからさ」


 ベールを上げて目隠しを外すと、ダリアはその深淵のような真っ暗な瞳で女中の顔を覗き込んだ。


「――っ!? あ、あ”あ”ああああぁぁぁっ~~!!」


 互いの視線が交差した直後だった。突如発狂すると、女中はガタガタとその身を震わせた。


「ほら、もっと私の目を見て……」


 〝夢魔の右眼〟が深層に潜むさらなる恐怖を呼び起こしていく。同時、そのイメージは〝至福の左眼〟を通じてダリアの脳内にも流れ込んでいた。



 痛い、暗い、寒い、悲しい――



 死に対する畏怖の念。

 そして、それはどこにでも転がっている、あまりにありきたりな恐怖のイメージだった。


「――はいダメッ、普通ー」


 これ以上見る価値なしと判断したダリアは大鎌を持ち上げると、女中の脳天を真っ二つに砕き物理的にイメージの共有を終わらせた。


「あ~あ」


 鮮血をビチャビチャと噴き出しながら、事切れたそれがよりかかっていた壁から静かに崩れ落ちていく。

 大鎌を一閃し、こびりついた血と脳漿を振り落とすと、死神は再び広間に向かって歩き出した。


「せっかくチャンスをあげたのにな~」


 ダリアの天賦技能(ギフト)――〝双眸恐怖症(この世で最も恐ろしい)〟は、対象者が抱く最大の恐怖を本人に強制的に()()()能力である。

 六年前、身内に両目を抉られたのち放逐された彼女は、奇跡的にこの天賦技能(ギフト)に目覚めた。以来、右目で他人に恐怖を与えつつ、左目でその恐怖を追体験することは彼女にとって意義のあるライフワークとなっていた。


「やっぱ死に損ないはダメだね~。この世で最も恐ろしいことがただの〝死〟だなんて、そんなの子供でも思わないのに」


 死に直面した人間はどうしても生への執着に捉われる。

 目の前の最大の脅威が死であるならば、それを避けたいと願うのは生物として当然の本能だろう。

 しかし、そのようなありふれた恐怖ではなく、誰もが心から絶望し嘆くことのできる真の恐怖をダリア・()()()()()()は追い求めていた。


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