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幕間 ~竜殺しの休日5~


「ふぅ~、楽しかったわ。やっぱ若い子はいいわねー」

「……」


 会長室で待つこと1アワほど。

 やがてイドモ・アラクネは戻ってきた。やたらとスッキリした顔をしているのが気にはなったが、触れずにおく。


「奴ら白状したのか?」

「ええ、洗いざらい話してくれたわよ」


 オレが成果を尋ねると、イドモ・アラクネは双子の所属する終焉の解放者(リベレーターズ)という謎の組織について語った。

 曰く、メンバーは11人の少数精鋭。全員が天賦技能(ギフト)を有しており、現在は王国と国境を接する小国(シュネー)にあるダンジョンを根城にしているという。


「パープル・ウィスパードという首領はあなたのような力を持つ子を集めて、どうもこの世界を変えようとしているみたいね」

「……世界を変える? どういう意味だよ」

「そのままの意味よ。自分の理想の〝形〟に作り変える」

「たった11人で世界を征服するってことか? イカれてやがる」

「あながち不可能とも言えないわ。メンバーが持つ天賦技能(ギフト)によっては可能性は無限大よ。それに、()()()()()()()()()()()()()()

「……」


 どこか意味深な言葉に思わず否定を忘れた。

 そんな連中の仲間に? 馬鹿げてる。

 オレは苦笑しつつ本題に入った。


「そいつらが身の程知らずの集団だってことはよくわかった。それで、あんたはこれからあの双子をどうするつもりなんだ?」

「それは私が訊きたかったことよ。これからあなたはどうするつもりなのかしら?」

「……は?」


 質問を同じ質問で返され戸惑う。あの双子らの処罰はこの街の有力者で決めることだ。オレに問うことではない。

 質問の意図を訊くと、イドモ・アラクネは机の上に腰かけ足を組みながら答えた。


「たとえあの双子を処刑したとしても、その仲間たちはまたこの街にやってくるわ。だって、連中の目的はあなたそのものなんだから。これはもう街の問題というよりはあなた個人の問題よね。だから訊いたのよ、どうするつもりなのかしらって」

「……」


 淡々と説明を受けて理解する。あの双子はオレの客。イドモ・アラクネの主張はもっともだ。

 だが、だからといってどうしろというのか……。


「奴らを説得しろとでも? あの双子、聞く耳なんて持ってないぞ。さっきだって断ると同時に実力行使だったしな」

「力には力で対処すればいいだけじゃない。幸い、あなたにも力はあるでしょ? それにこのままだとモグラちゃんやその周囲にも被害が及ぶかもしれないわ。その辺のところ、あなたはどう考えているのかしら?」

「……」


 正直、今この場でエミカたちのことを持ち出されるとは思っていなかった。

 たしかに、このまま放置しておける問題ではない。先ほどのシホルのように連中が人質を取る可能性は十二分に考えられるのだから。


「ああ、勘違いしないでね。別にあなたを責めてるわけじゃないのよ。ただ、今後のことを当事者でない私が決めていいものかと思っただけ。あなたがどうするかはあなたの自由だし、あなたが決めることよ」

「オレは……」


 結局どうするか、即答はできなかった。それでも、何もしなければエミカたちにいずれ迷惑がかかる。その点だけは明白だった。



「とりあえず明日の朝まであの双子はこのまま地下に留置しておくわ。それまでにどうするか決めて頂戴――」



 それからどうやって帰ったのかはあまり覚えていない。イドモ・アラクネの言葉を反芻しているうちに気づけばエミカの家の前まで戻っていた。

 そう、オレの家じゃない。

 ここはエミカと、その家族が住む家だ。


「パメラさん、おかえりなさい! その、さっきの2人は……?」

「ああ、大丈夫だ。もうまったく問題ないから心配すんな」


 帰宅するなり駆け寄ってきたシホルに対して気丈に振る舞い、オレはいつもどおりその日を過ごした。

 晩飯を食い、風呂に入り、自室へ。

 夜、1人求められた答えを考え続けた結果、オレは未明頃にエミカの家を出た。

 そのままギルドに向かい、建物裏の窓を割って侵入する。

 目指す先は地下室。

 狭い隠し階段を下りると、双子は昨日最後に見た時と同じように向かい合った状態で椅子に縛られていた。

 ぐったりとした様子の2人にそのまま近づく。気配を察したのだろう。先にロコと呼ばれていた姉のほうがオレに気づいた。


「あ、あんた……!?」


 目が合うなり双子の片割れは警戒心をあらわにした。それでも、オレが大剣の切っ先でロープを切断してやるといくらか殺気を弱め、こちらに心を許す。

 オレはもう一方のモコのロープも切り、自由にしてやったあとで2人に話を持ちかけた。


「お前らのボスに会わせろ」

「……それって、私たちの仲間になるってこと?」

「ああ、お前らを尋問した女から終焉の解放者(リベレーターズ)のことを聞いてな。興味がわいた」

「何よ、それなら最初から大人しくついてきなさいよね」


 心変わりを疑われるだろうとは思っていたが、双子がこちらを怪しむことは一切なかった。

 自分たちの仕事さえ果たせればあとはなんでもいい。そんな様子だった。


「そうと決まればこんな危険な街とはおさらばだわ! ほらモコ、アジトに帰るわよ!」

「う、うぅ……」


 ふらふらとした危なげな足取りで立ち上がると、弟のほうは白い石を取り出してまた地面に正円を描きはじめる。昨日も見覚えがあると思ったが、その図形はダンジョンにある転送の魔法陣そっくりだった。


「モコの天賦技能(ギフト)――〝まる描いてポン(マーク&テレポーター)!〟よ。どんなに距離が離れてても描いた白い円から黒い円へ一瞬で移動できるわ」

「オレもか?」

「もちろん。モコが飛ぶ時に魔法陣の中にいれば一緒に転送可能よ」


 姉は物を飛ばす力で、弟は人を飛ばす力か。

 たしかにこんな便利な天賦技能(ギフト)を持った奴が大勢いれば、小さな国1つぐらいなら本当に支配してしまうかもしれない。

 やっぱ、こいつら危険だ。

 到底、野放しにはできない。

 オレはそこで当初の考えを大幅に改めた。


「描けた」

「それじゃ、私たちのアジトに案内するわ。白い円の内側に入って」

「ああ、わかった……」


 地下室いっぱいを使って描かれた魔法陣の中に足を踏み入れる。次の瞬間、周囲が白い光で満たされたかと思えば、オレはもう別の場所にいた。

 足元には黒で描かれた巨大な魔法陣。

 目の前には氷でできた美しい神殿が見える。

 どうやらここがイドモ・アラクネが言っていた連中の根城のようだ。


「ん、氷のダンジョン……? おい、もしかしてここって……」

「ええ、そうよ。氷壁ダンジョン最深――地下333階層。私たちにとってはとても縁深い場所でしょ」


 なるほど、人類が20年前に攻略したダンジョン。

 神々の恩恵として天賦技能(ギフト)持ちが生まれるきっかけとなったその最終階層か。


「――あ、アレクベル聞こえてる? うん、大丈夫。いろいろあったけど今パメラって子をアジトに連れてきたところ。……うん、わかった。それじゃ、先にラッダたちの回収に向かうから」


 突如こめかみに指を当てて独りしゃべり出したかと思えば、双子の姉は弟の腕を引っ張って黒い魔法陣から隣にある白い魔法陣のほうへ移動していく。


「仲間を迎えに行ってくるから、ちょっと留守番してて――」


 こちらの返事を待たず、直後ドワーフの双子は白い輝きとともに消え去った。


「……相手は最大で11人か。こりゃ、久々に大暴れしねぇとな」


 残されたオレはこれからはじまる激しい戦いに備え、静かに大剣を出現させた。


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