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幕間 ~竜殺しの休日2~

 誤字報告ありがとうございますm(_ _)m



 最悪だ。

 今日、エミカの家にあの姉がやってきた。

 気配を感じ取った時にはすでに遅く、逃げ道は無し。咄嗟にメイド服に着替えて従順な女中を演じてなんとかやり過ごしたが、寿命が縮んだと確信できるまでにオレは著しく精神を消耗した。

 もし、あの場でオレの普段の生活が大っぴらになっていたら……。

 考えただけでも背筋が凍りつき、肩がガタガタと震える。


「そもそもこの家……地上への移動経路が1ヶ所しかないのが問題なんだよ。あの姉の件を抜きにしてもよ、万が一火事でも起きたらどうすんだ? 大広間(ここ)が火元だったら逃げられねーじゃねぇか」

「あー、それなら大丈夫だよ。掘った穴の壁や天井には引火しないから」


 その日の夕食中、オレが不満をブチまけるとエミカは地下部分のとんでもない安全性をさらりと説明しやがった。火の魔術を連発しようが吸収されるようにかき消され、一切炎上しないそうだ。

 マジでありえねぇ。こいつ、自分の発言がどんだけ非常識なことかちゃんと理解してんだろうか。


「まー、してるわけないよな。エミカだもんな……」

「ん、何の話? あ、でも水攻めとかされたらピンチかも。緊急用の脱出口はやっぱ作っておいたほうがいいかな?」


 水攻めされるってどんな状況だよ、とは思ったものの今後オレの命の保証にも直結する話だ。反対はしないでおいた。


「竜退治の話でパメラがティシャさんを恐れる理由はよくわかったけどさ、血の繋がった姉妹なんだし、これからはもっと積極的に話し合ってみたら?」

「……」


 夕食も食べ終わり一息ついていたところだった。突然エミカにそんな提案をされ、オレは思わず閉口してしまった。

 しかし、こいつのことだ。特に深い考えがあっての発言ではないと思う。

 そもそも家族が良好な関係を築くのは自然なことで、それがキングモール家にとっての常識であり世間の良識でもある。問題があれば話し合えというのはこれ以上ないもっともな意見だろう。

 ただし、その常識や良識が()()()()()()()()()()()()()でも通じればの話ではあるが。


「まー、そのうちな……ごちそうさん」


 返事を濁して席を立つ、そのまま大広間を出て左手前の自室へ。

 きっと竜殺しの逸話を含めて色々と話をしたせいだろう。

 精神的な疲れからベッドに倒れこんだオレは静かに浅い眠りに入ると、そこで幼少時代の記憶を夢に見た。今では到底考えられない話ではあるが、まだあの姉に溺愛されていた頃のことだ。

 当時、長女であるティシャ(その時代はまた別の偽名を名乗っていたが)はオレを含めた多くの妹たちを可愛がり、甲斐甲斐しくその面倒を見ていた。

 たとえ妹の誰かが煩わしい悪戯をしかけたとしても、激怒することなくすべてを笑って許す。女神か天使かと錯覚するほどに、あの姉は今とはまるで違う存在だった。

 それが変わったのは……いや、変えられてしまったのは――



『――ねえちゃん!』



 夢の中で、幼いオレはその背中にくっつくようにしてよちよち歩いていた。

 場所は実家の屋敷の庭。距離が開くとあの姉はわざわざ立ち止まり、オレが追いついてくるのを笑顔で待つ。

 それを何度か繰り返したところで、オレは不意に眠りから覚めた。


「ちっ、夢にまで出てきやがった……」


 幼少期のたわいのない内容ではあったが、今との落差を考えれば心が休まるはずもない。なんだか妙な汗もかいたのでオレは露天風呂に向かった。

 時刻は真夜中。

 もうメイドたちもミニゴブリンたちも寝ただろう。

 そもそもこんな時間に風呂に入る奴はいない。

 しかし服を脱いで浴場に入ると、そこには騒々しい4人の先客がいた。


「くぁ!? や、やめろっす……放すっすよ、この変態双子っ!!」

「あらあら、もう音を上げているわよ、トロン」

「あらあら、さっきまで威勢はどこにいったのかしらね、トラン」

「あはー♥」

「……」


 脱衣所の引き戸を開けると、湯船の縁でイオリが同じメイドのトランとトロンに襲われていた。


「あっ! そこは本当にダ、ダメなとこ……ひゃん!」

「あらあら、イオリってばだらしない」

「あらあら、イオリってばはしたない」

「あはー♥」

「……」


 何があったのかは知らないというか知りたくもないが、豊満な双子に左右から挟まれ、密着された状態で身動きを封じられているイオリ。どうやら湯船の中で身体をくすぐられているようだが、立ちこめる湯気で何をされているかまではよく見えなかった。

 まー、とりあえず見なかったことにしてここは立ち去るか。


「――あ、パメラだー♪」


 しかし、そう決断した瞬間だった。最近エミカが家に連れてきた妙な奴に見つかった。サリエルとかいう金髪の女だ。


「パ、パメラ様~! この双子なんとかしてくださいっす!!」


 たちまちメイドたちにも気づかれ、バチャバチャと湯船で暴れるイオリがオレに助けを求めてきた。

 ちっ、さすがに無視できる状況でもなくなった。なので一応確認だけはしておくことにする。


「お前ら、風呂場で何してんだ?」

「パメラ様、このような体勢でお答えする無作法をどうかお許しください」

「右に同じであります」

「構わんから状況を説明しろ」

「はっ。先ほど入浴にきたところ、このイオリめがご主人様のお客様であられるサリエル様に卑猥な行為をしているのを目撃しました」

「よって我々が現行犯で取り押さえ、こうして罰を与えている次第です」

「おっぱいが大きかったからちょっと触らせてもらってただけっすよ! あとちゃんとご本人から了解もいただいたっす!!」

「あはー♥」

「そうか、邪魔して悪かったな。オレのことは気にせずに続けてくれ」

「「はっ」」

「え? ちょ、助けてくれないんすか!? この薄情者ぉ~~!!」

「まぁ、パメラ様に向かってなんて口の利き方……。これはもっとキツイお仕置きが必要なようね、トロン」

「ええ、もっと過激な罰を与えましょう、トラン」

「ひぃ! も、もうやめ――嫌あ”あ”あああぁぁっ~~~!!」


 イオリの絶叫が木霊する中、洗い場の腰かけに座り自分の身体と髪を洗う。


「ん?」


 途中、不意に視線を感じたので顔を上げると、例のエミカの知り合いが隣でオレのことをジッと見ていた。


「……なんだよ?」

「えへへ♪」


 はにかみ笑いを浮かべると、サリエルはぐいっと顔を近づけてきた。そしてクンクンと犬のように鼻を鳴らす。


「マジでなんだよ!?」

「あー、やっぱりだー! 変わった匂いがすると思ってたんだぁ~!」

「はぁ?」


 もしかしてこいつ、オレが臭いって言いたいのか? いや、今洗ったばっかだし。てかそもそも臭くねーよ!


「パメラは()()()()()()()なんだねー」

「……力に選ばれた子?」

「うん♪」


 意味がわからずオレがきょとんとしていると、サリエルは突然駆け出しそのまま湯船のほうに飛びこんで行った。

 いや、補足とかないのかよ。あと風呂場で走んな。


「なんなんだあいつ……」


 少しして頭を洗い終えたところで、もしかするとさっきのは天賦技能(ギフト)のことかと思い当たったが、振り返るともう浴場にサリエルの姿はなかった。いつの間にか栗色髪の双子もいなくなっている。どうやらオレが髪を洗っているあいだ一緒に出ていったようだ。

 まー、別にいいか。

 これでゆっくり風呂に浸かれるってもんだしな。


「う、うぅ、ひぐっ……! 汚れちゃった、汚れちゃったっす……私、もうお嫁にいけないっすよぉ~~!!」

「あの双子に何されたんだよ、お前……」


 ただし、まだ一番騒々しい奴が残ってはいたが。


※行なわれたお仕置きは〝甘噛み〟レベルですのでごあんしんください。


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