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141.完了


 祠を出ると、私は信じ難い光景を目の当たりにした。


「――えっ!?」


 暗黒土竜の魔眼についてる光石。

 その明かりに照らされて、地面に倒れてる大勢の人たちの姿が浮かび上がる。

 近づいて確認するまでもなかった。王立騎士団に2つの冒険者パーティー。入口に残った守備隊のみんなだ。


「そ、そんな……!」


 地面に突っ伏してる一団の下へ、急いで駆け寄る。幸いなことに誰もケガしてる様子はない。ただ、どれだけ大声で呼びかけても強く揺り起こしても、誰1人として目覚める気配はなかった。

 どうやら、みんな昏睡状態にあるらしい。



「「「――お~い!!」」」



 想定外の事態に唖然としてると、遠くのほうからランタンを持って手を振る複数の人影があった。

 近づいてみると、レコ湖のほとりで別れた御者さんたちだった。繋ぎ止めた馬の世話をしてたところ、彼らは例の竜を目撃したそうだ。


「大きなドラゴンが突然空から現れたかと思えば、そのまま祠のほうにまっすぐ向かっていったんだよ!」

「我々が駆けつけた時には護衛の方々はすでにこの状況でして……」

「みんなただぐっすり眠ってるだけなんだが中にはケガ人もいてな。たった今、20名近い負傷者を全員馬車の中に運び終えたところだ」

「ただ、俺たちじゃ気休め程度の治療しかできない」

「お嬢さんも冒険者だよな? 回復の魔術は使えないか?」

「……」


 無言で首を振る中、私は守備隊までもが襲撃されてた事実を知り困惑した。

 これで助けを呼ぶ選択肢は消えた。それどころかさらに増えた負傷者を手の足りない中どうにかしなきゃいけない。

 もういっそのこと、シンプルに王都まで戻って直接助けを呼ぶ?

 いや、それだと往復に時間がかかるし、事情を説明するのに手間取ったりしたら最悪だ。

 マストンさんのことを考えればもう一刻の猶予も許されない。

 延命のためにも今すぐ治癒魔術の熟練者(エキスパート)が必要だ。

 しっかり考えなきゃ。ここで私が選択を誤れば、救える人を殺すことになってしまう。


「でも、どうすれば……こうして考えてるあいだにも時間は……」


 頬を伝い、すっと一筋の汗が流れ落ちていく。

 何か思いつきそうな気はしたけど、焦りの中でちゃんと考えがまとまらない。

 やっぱここでうだうだ考えてるよりはなんでもいいから行動に移るべきか。


「あー、もう!」


 焦燥に追い立てられ、それしか手はないと判断して湖のほうに顔を向ける。

 その時だった。



「――エミカ様っ!!」



 遠くの闇から私を呼ぶ声。

 突如、すさまじい速さで接近してきたそれは私の目の前を突っ切ると、しばらく通りすぎたところで土埃を巻き上げながら急停止。御者さんたちが驚愕する中、私も突然のメイドさんの登場にマジで驚いた。


「ティシャさん!?」


 なんでここに!?

 だけど、これぞ天の助け。

 急いで彼女に駆け寄ると、私は大雑把ながら襲撃を受けてからここまでのことを説明した。


「やはり虫の知らせに従って正解でしたか」

「王子様とリリも無事ですけど、襲撃者にやられて深手を負った人がいっぱいいます。ティシャさん、回復の魔術は……?」

「お役に立てず申しわけありません。生憎、治すのは」


 首を横に振ると、ティシャさんはそこで倒れてる守備隊のみんなを一瞥した。


「この方々は眠らされているようですね。範囲と人数を考えますと、ドラゴンのブレス攻撃によるものと愚考いたします」

「負傷者を優先に助けないと……ここの人たちはしばらくこのままでも大丈夫ですか?」

「はい、問題はないかと。どれだけ強力な作用であろうと屋外ですし、ただの睡眠ガスならば時間さえ経てば必ず覚醒するはずです」


 よかった。

 これで1つ懸念がなくなった。

 でも、なんだろ……今、一瞬何かが引っかかったような?



 ()()()()()()()――



「――あ、そっか!」

「エミカ様、いかがなされましたか?」

「ティシャさん! これから私かなり謎の行動しますけど、とりあえずみんなを助けるため力を貸してください!」

「はっ。承知しました」


 まずはティシャさんに頼んで、馬車に運ばれた負傷者の中で比較的軽傷の人を連れてきてもらい、昏睡してる守備隊のメンバーから治癒魔術を使える人をピックアップ。

 そのあいだ私は手頃な場所の地面を掘り、地下に小部屋を作製。

 御者さんたちにも手伝ってもらった上、ピックアップした守備隊メンバーを部屋へと運ぶ。

 あとはティシャさんとともに私も地下室に入り、内側からしっかりと密閉。

 小部屋はモグラショートカットで掘った。

 だから今この部屋はモグラストレージ状態にある。

 外では、時間がものすごいゆっくりと流れているはずだ。


「それは、もはや魔法の……」

「へ?」

「……いえ、なんでもありません。忘れてください」


 モグラストレージの効果について説明すると、ティシャさんは一瞬絶句して息を呑んだけど、すぐに平常に戻って話題を変えた。


「では、ここに運んだ10名の方が覚醒するまで我々は待機していればよろしいのですね」

「それなんですけど、私はこの時間を活用してこっから王都までの地下道を掘ってきちゃおうかと。全部モグラショートカットで掘っちゃえば、モグラストレージ状態も維持されますし」

「ならば私もお供させていただきます」

「あ、いや、ティシャさんはここに残っててほしいです。寝てる人が目覚めた時パニックになったら可哀想ですから」

「なるほど、了解しました。それでは目覚められた方には私から経緯の説明を行なわせていただきます」


 運んだ人たちをティシャさんに任せて、私は北側のレコ湖方面に向かうため小部屋に坂道を掘って下った。1人用の狭い通路だけど、地下道の入口はあとで別に作っちゃえばいいわけだし気にせず進む。

 予定の地点に到達したところで暗黒土竜の魔眼で方向を確認しつつ、王都までの穴を掘った。幅は馬車が2台走れる程度。補助系のスクロールがないぶん、これまでより時間はかかったけど、通常1回掘るあいだに64回も掘れるわけだから余裕を持って進められた。

 やがて、王都に到着。

 このまま出口を作るとモグラストレージ状態が解除されてしまうので、王都の外壁手前まできたところで私は地下道を引き返した。

 作業を終えて小部屋に戻ると、タイミングのいいことに最後の1人が目覚めたところだった。


「半分は守備隊の負傷者を、もう半分は祠の負傷者の治療をお願いします!」


 王子様とリリのことも心配だったので、ティシャさんにも祠の近道から鍾乳洞へ向かってもらった。

 そのあいだ私は湖のほうで入口を作り、さっき掘った穴と手早く連結。

 御者さんたちの操る早馬に乗せてもらって地下を進み、王都側の出口も作って地下道を完成させておく。

 王都への報告と支援要請を複数の御者さんにお願いしたあと、そのまま私は湖側に戻って負傷者の搬送を手伝った。

 まずはマストンさんを筆頭とする意識のない重体者。

 順次、馬車に乗せて送り出していく。

 そうしてるうちに王都側から続々と救援隊や護衛隊が到着。

 なんとかすべての重傷者を送り出せたところで、私も王子様とリリたちと一緒に王都へ戻ることになった。


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