幕間 ~終焉の解放者7~
連日更新ですが今話もちょい短め。
『ラッダさん、ヤバいです! ジーアさんマジでブチ切れてますよ!?』
「……だろうな」
『だろうなじゃないですよ! 伝えるこっちの身も少しは考えてください!!』
「すまんが、すでに撤退は決定事項だ。ジーアにはそちらに戻り次第、拙僧が直接弁明しよう」
『絶対ですからね! あとお願いですからできるだけ早く帰ってきてください! 誘拐失敗でなんかものすごい不穏なムードですから!!』
「了解した。善処する」
クランの連絡役であるアレクベルの天賦技能――〝どこでも脳内通話〟で会話を終えると、ラッダは嘆息しつつ空を飛ぶ翼竜の背の上に腰を下ろした。
任務の結果を受けて、これより小国側はパープルを筆頭とする自分たち実行役の口封じに動くだろう。相手は保身を第一に考える連中だ。もう修羅場は避けられそうになかった。
「見事に盤上を引っ繰り返されたな……」
そうぽつりと漏らしてから、ラッダは未だに隣で意気消沈している仲間に向けて続けた。
「ゴルディロックス、いい加減落ち着いてきた頃合いだろう。そろそろお主を打ち破った者について教えてくれぬか?」
「……お、女の子だったの。オーバーオールで、赤い髪……土の魔術みたいなの使ってきた……」
「王子を連れて逃げた娘だな。だが、とても信じらんねぇ。そんな手練れにはまったく見えなかったぞ?」
「見た目で判断はできぬ。それに護衛としてあの場に参加し、ゴルディロックスのクマを正面から打ち倒したのだ。さぞ名のある武芸者に違いない」
「いや、だからよ、それにしちゃマジでなんも感じなかったって話だ。ほら、強ぇ奴ってのはこう面と向かってるだけでもわかるもんだろ? 全身の毛が逆立ってビリビリくるっていうのか。ほら、たとえばよ、たとえば……おっ! そうそう、そうだ! 丁度こんな感じだぜっ!!」
「……何がだ?」
脈絡なく突然テンションを高めるレオリドスに困惑するラッダ。だが直後、彼も急速に接近してくる異様な気配に気づき声を荒らげた。
「――なっ!? なんだこれは……マカチェリー!!」
「わかってるわ! 目標捕捉、前方西側地上! この距離でも殺気ビンビンよ!!」
「クソ遠くてぜんぜん見えねぇぞ! 相手はどんな奴だ!?」
「女よ!」
「女ぁ?」
「そうよ! 黒髪でメイド服姿の地味な――あ、気を付けて! こっちに向かって何か投げたわ!!」
四人全員が翼竜の首元に集まり、身を乗り出すようにして眼下を見下ろしていた。マカチェリーがまーちゃんを方向転換させようと慌てて手にした鎖を引く。
同時、煌めく一点の小さな光。
神速の矢の如く、しかもそれは正確無比に終焉の解放者を強襲した。
「下がれっ――!!」
ゴルディロックスを背後に押しやり、ラッダが盾となる。次の瞬間、鋭く放たれた何かが彼の掌を突いた。
「――っ!?」
能力を使っても片手だけでは防ぎ切れない。
信じられないことではあったが脅威を感じると同時理解する。
「ぬ”うっ!!」
もしそれが右手を貫けば、突き刺さった角度から次は頭部へ至っただろう。ラッダは即座に左手を重ねると、両手で攻撃を食い止めることに成功した。
硬化した掌から赤い血液がボタボタと流れ落ちていく中、串刺し状態の両手を引き剥がすようにして先に左手を自由にすると、ラッダは続いて右手に残っていた得物を勢いよく引き抜いた。
「なんと……」
何が飛んできたかと思えば、それはなんの変哲もない物だった。
「……普通のナイフなの」
「ああ、しかもただのテーブルナイフだ。素材はおそらく銀製だろう」
「銀だと? 硬化が間に合わなかったのか?」
「否、拙僧の〝破壊神〟は確実に発動していた」
「おお、マジかよ! 面白ぇじゃねぇーか! 今すぐ殺りに行こうぜ!!」
「ちょっと馬鹿言わないで頂戴! あんな化け物相手するとか命が幾つあっても足りないわよ!!」
「あ、おいオカマ、なんで方向変えてやがんだ! まさかこのまま尻尾巻いて逃げるつもりか!?」
「当たり前でしょうが、少しは冷静になりなさい! もしさっきの攻撃が天賦技能によるものだとしたら相手は間違いなくパープルレベルのヤバい能力者よ!!」
「マカチェリーの言うとおりだ。このナイフを能力で飛ばしたとなればロコの力と同質かそれに近いものだろう。しかし、あまりに威力と射程が段違いだ」
「ゴルディーも同感なの。早く帰りたいし、戦いたければ虎さんが今すぐ一人で行けばいいの」
「この高さから飛び下りろってのか!?」
「そうよ! どうせ戦っても結果は同じなんだから一緒でしょう!」
「うむ。むしろそのほうが手っ取り早いとまで言えるな」
「ぐっ、てめぇら!」
「はいはい、もう文句も吠えるのもあとにして頂戴! 戦略的撤退よ!!」
結局、マカチェリーの指示の下、翼竜は南の方角に転進。尋常ならざる存在への接近を避け、大きく迂回する進路を取った。
一方、その地上では――
「まさかドラゴンが出てくるとは。ここは愚妹を連れてくるべきでしたか」
別働隊と合流すべく夕闇の空を往く終焉の解放者。
しばし威嚇するように離れていくそれを睨み付けたあと、ティシャーナは再び祠を目指し駆け出した。
軽いネタバレになりますがあえて混乱を避けるため言いますと、ティシャは二十歳を超えているので天賦技能は持ってません。
なので全部腕力オンリーの投擲という……(ひぇ)
今後ファンダイン家に焦点が当たる際、彼女の設定なんかにも触れていくことになると思います。しゅっごい先の話になりそうですガガガ。











