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幕間 ~終焉の解放者6~

 誤字報告いただきありがとうございますm(_ _)m



「よっと」


 血に塗れた腕を勢いよく引き抜くと、レオリドスは崩れ落ちたマストンの足首を掴み、彼の身体を引き摺った。

 そのまま鍾乳洞の壁際へ。

 決着が付いた今も尚、必死に肉体言語(ボディランゲージ)メンバーの治療を試みている神官たちの下へと進む。


「おい、てめぇら」

「ひっ」

「嗚呼、神よ……」


 神官たちは近付いてくる猛獣の姿を見て死を覚悟したが、レオリドスは彼らに声をかけると同時、すぐに天賦技能(ギフト)を解除した。


「治せ」

「は、はい……」


 通常の姿に戻ったレオリドスに恐る恐る神官の一人が近付いていく。

 マストンの風の刃を受け、無事な箇所を見つけるのが困難なほど無数の裂傷を負った身体。

 それを命じられるまま癒そうと神官が回復の魔術を唱えた時、レオリドスは声を荒らげた。


「ちげぇ!」

「……え?」

「俺様じゃなく、こいつを治せって言ってんだ」


 虫の息のマストンを神官たちの前に乱暴に転がすと、レオリドスはそれ以上何も言わず踵を返した。


 命をかけた()()

 それを心から願う一方で、強い相手とならば可能な限り気の済むまで殺し合うのが彼の理想(スタイル)でもあった。


(敗北は人間を強くする最高の糧だ。さっきの奴となら次はもっと面白ぇバトルが期待できる)


「……ま、どのみちあの深手じゃ助かる見込みはほぼねぇが」


 マストンと戦っていた場所まで戻り、惜しむように呟くレオリドス。その時、また洞窟内に衝撃が響いた。


「……ん? おう、ようやくそっちも終わったか」

「うむ」


 レオリドスが顔を上げると、最後の一人となった護衛(グリフ)を片付けたラッダが悠々と歩いてきていた。


「サシの状況から随分時間かけたじゃねぇか」

「途中から一切相手が攻めて込んでな。巧みに決着を引き延ばされたわ。武具の性能もあり手間取ったが、奴らにあと少し力量があれば拙僧もこの肉体に傷を受けていたかも知れぬ」

「そっちの連中もハズレじゃなかったわけか。チッ、それなら俺様が六人全員まとめて相手すりゃよかったぜ」

「もう済んだことを一々愚痴るな。それより、今は早くゴルディロックスを追わねば」

「……あ? あー、そういやそうだったな」


 ラッダに促され、レオリドスは気の乗らないまま鍾乳洞の奥へと進んだ。

 あとは、小さな子供一人を攫って帰るだけ。

 王子が逃走した際、その傍には神官の幼女と一般人と思しき赤い髪の少女だけだった。相手の戦力はもうほぼゼロというより、完全にゼロである。すでに現時点で自分の仕事は終わったとレオリドスは考えていた。


「てか、クマ娘の奴どこまで王子(ガキ)を取り逃がしてやがる」


 鍾乳洞をだいぶ進んだものの、未だに巨大なぬいぐるみの姿も影も見えてこない。そんな状況を二人が訝しみはじめた頃、ふと妙な物音がした。


「……なんだ?」


 立ち止まり、口を噤んで耳を澄ます。

 聞こえてきたのはシクシクと、すすり泣く声。

 苔の明かりを頼りに近付く。するとそこには地面に蹲り泣いているゴルディロックスの姿があった。


「クマ娘!?」

「何があった?」

「う、うぐっ……ゴルディーのくまさん、くまさん……うぅ」

「げっ、マジかよ……」

「こ、これは……」


 両足は吹き飛んだように千切れて損壊。

 そして、腹には大穴。

 彼女が大事そうに抱えているぬいぐるみの有り様を見て、二人はすぐに状況を察した。


「だが妙だぜ。王子と一緒に逃げた奴の中にクマ娘のデカブツを殺れるような奴はいなかったぞ。まさか奥の方に別働隊が残ってやがったのか?」

「ゴルディロックス、王子たちはどこへ行った?」

「うぅっ……あ、あっち……」


 涙ながらにゴルディロックスが鍾乳洞の奥地を指差すと同時、レオリドスは彼女を脇に抱えて走った。ラッダも一瞬遅れてあとに続く。三人はあっという間に鍾乳洞の最奥へと辿り着いた。


「誰もいねぇぞ……」

「待て、そこの壁を見ろ!」

「あ? げっ、穴開いてんじゃねぇか!?」


 エミカが作った地上への階段を見つけると、大男二人はゴルディロックスを連れ、狭い脱出路を身を縮こませながら進んだ。


「まんまとやられちまったな……」

「……」


 やがて黄金色に染まる草原に出たところで、彼らはターゲットを取り逃してしまったことを痛感した。


「てかこのハゲ、抜け道あんじゃねぇーかよ!」

「む、むう……」


 周囲を見渡すも一切の人影はない。平地故に視界はよく通るが、北側には鬱蒼とした森がある。もしあそこに逃げ込まれたとすれば、正直追うのはかなり厳しい状況だった。


「――アレクベル、拙僧だ。イレギュラーがあり王子に逃げられた。直ちにマカチェリーに祠から東側の草原一帯を調べるよう伝えてくれ」


 すぐに仲間の天賦技能(ギフト)経由で連絡を取り、マカチェリーに空からの捜索を頼んだが結果は空振りに終わった。


「ダメね、どこにもいないわ」

「そうか。ならばやはり森に逃げた可能性が高いか……」

「あ、そういえばさっき一瞬だけ妙な視線を感じたのよね。もしかしてあれが王子様だったのかしら?」


 周囲は徐々に夜の帳が下りはじめ、確実に暗くなってきている。日没が迫りつつある中、まーちゃんに乗るマカチェリーと合流したラッダたちは撤退するか否か相談をはじめた。


「もう逃げられちゃったもんはしかたないわよ。そもそも祠に抜け道がないって情報は小国(あちらさん)からの提供でしょ? それが間違ってたんだからこっちが文句言われる筋合いなんてないわー」

「俺様も撤退でいいぞ。クマ娘のデカブツを殺った奴は気になるっちゃ気になるが、まー、今回は十分楽しめたしな」

「うぅ……ゴ、ゴルディーも、帰るの……。くまさん、治す……う、うぅ……」

「決まりか。――聞こえるか? 拙僧だ」


 ラッダはこめかみに指を当てて再びアレクベルに連絡を取ると、任務が失敗に終わったこととこれより撤退する旨を伝えた。


「それじゃ、皆さっさとまーちゃんに乗って頂戴~。双子とも合流しないと帰れないし飛ばすわよー」


 四つの人影を乗せて力強く羽ばたくと、翼竜は沈みゆく夕陽の中へ飛び去った。


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