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幕間 ~終焉の解放者3~



「みんな下界を見て! おほっ、いい男だらけよぉ~~!!」



 翼竜の首に股がる黒い甲冑姿の男――マカチェリーが歓声を上げる。

 竜騎士(ドラゴンライダー)である彼が見下ろす景色の先には、祠の入口前で待機する大勢の守備隊の姿があった。


「……見ろって言われても、ゴルディーには全然見えないの。人が豆粒以下なの」


 継ぎ接ぎだらけの熊のぬいぐるみを胸に抱いた少女――ゴルディロックスがひょっこりと顔を出して雲間を覗くも、集団を捉えることはできなかった。

 普段から景色を眺めている頻度の差だ。彼と彼女とではそもそもの視力が違い過ぎた。


「ヘヘ、男だろうと女だろうとなんだって構わねぇさ。骨のある連中ならな」

「レオリドス。もしやお主、全員を一人で相手にする腹積もりか?」

「あ? もちろん俺様はそのつもりだぜ。立ち向かってくる奴は全員ブッ殺確定だ」

「馬鹿者め。護衛は百名以上いるとの情報だ。今回そのすべてをまともに相手にしている暇など到底ない。マカチェリー、入口前の連中は貴様に任せる。方法はなんでも構わん。迅速に無力化しろ」

「はいはい、まったく人使いが荒い高僧様ですこと。それじゃ、さっそくはじめるわよ。みんな、くれぐれもまーちゃんから振り落とされないようにね」


 翼竜の背中に仁王立ちする黒い袈裟を身にまとった大男――ラッダに命じられて、マカチェリーは()()の首に巻き付けてある鎖の手綱を引いた。

 本来であれば誇り高い竜が人に付き従うことなどありえない。

 一流のテイマーであろうとも厳しい条件の中、使役できる場面はひどく限定される。



「――行くわよっ、まーちゃん!!」



 しかし、マカチェリーが有する天賦技能(ギフト)――〝竜の飼い方・上級編(超ドラゴンテイマー)〟は常識を覆し、完全なる竜の使役を可能とした。



「ウ”オ”オ”オオオオオオォーーー!!」



 咆哮後、ほとんど垂直に急降下。

 一瞬で雲間を抜け、稲妻のようにレコ湖に着水すると、そのまま翼竜のまーちゃんは水面を風圧で切り裂きながら祠へと猛進していく。

 同時、王立騎士団を中心とした守備隊の面々も突如現れた竜の存在に気づいた。だが、当然ながら使役されたドラゴンによる襲撃など想定の範囲外。大多数の者が呆気に取られる中、凄まじい速度で接近してきた巨大な(アギト)が彼らの目前で大きく開いた。


「今よ、まーちゃん! 眠れる吐息(スリーピング・ブレス)!!」


 直後、翼竜の口から吐き出された白煙で周辺は覆われた。

 一瞬で視界はゼロになり、守備隊の行動選択の余地を奪う。その上で煙には超即効性の睡眠作用があった。

 次々にバタバタと連鎖的に倒れていく者たち。安全圏の上空からその様子を、マカチェリーはただ満足気に見下ろしていた。

 やがて、時間の経過と共に湖面に吹くゆるやかな風が白煙を霧散させた。

 再び、クリアになる視界。

 しかし、もうそこに立つ者の姿はなかった。


「フフ、せめていい夢を見てね。おやすみなさい、チュッ♥」


 空から投げキッスを飛ばし、マカチェリーは翼竜を大地へと静かに着地させた。


「ちっ、情けねぇ連中だ。ドラゴンの鼻息如きで全滅なんざ興醒めだぜ」


 肩まである長い金髪と、虎耳。

 そして、黒革のズボンとブーツ。

 上半身は裸で、筋骨隆々の肉体を晒すその獣人族の男――レオリドスは翼竜の背中から飛び下りると、ズカズカと祠に向かって歩き出した。


王子(ガキ)は見当たんねぇな。やっぱもうあん中か」

「んもうっ、当たり前でしょ~。超キュートな王子ちゃまがいたらこんな手荒なマネしないわよぉ!」

「ならどうせなら焼き払えばよかったの。こんがりバーベキューなの」

「予定よりも向こうの行動が早い。もう袋の鼠だが手間取れば援軍を呼ばれ、こちらも鼠になり兼ねん。急いで追うぞ」


 レオリドスに続いて、ラッダとゴルディロックスが翼竜から飛び下りていく。

 まだ懸念は残されているものの、ターゲットを追い詰めたことは事実。一つ目の山場を難なく越え、終焉の解放者(リベレーターズ)の面々のあいだにはどこか弛緩した空気が流れていた。

 それは、余裕と言えば余裕。

 油断と言えば油断だろう。

 警戒なしで先を進んでいたレオリドス――その背後を、突如として起き上がった男が強襲する。

 黒い革のパンツに、赤いマント。

 有数の冒険者パーティーである肉体言語(ボディランゲージ)

 その誇り高きメンバーの一人だった。

 彼らの武装は己の肉体そのものである。

 一切の武器は使用しない。

 握った拳を前方の雄々しき巨躯に向け、全身全霊で叩き込んだ。



「――覇ッッ!!」



 渾身の一撃。

 そして、それは意識の外からの攻撃でもあった。

 避けられるはずがない。

 完全に、入る。

 だが――


「なっ!?」

「……ハハ、嬉しいぜ。少しは骨のある()()がいるみてぇだな」


 拳をモロに受けながらも、歪に顔を歪めて凶暴に笑うレオリドス。

 対する初撃を入れた男は動揺しながらも、立て続けに自らの技を放とうとする。彼の視界は続々と起き上がる仲間の姿を捉えていた。


 自分の役目はこのまま全力で拳を撃ち続け、相手を釘付けにすること。もう僅かな間に仲間は集い、この獣人を取り囲む。そうなれば葬るのは容易い。我々の四方からの同時攻撃を受け耐えられる者などいるはずが――


「――ダメだ、遅ぇな」


 直後、繰り出した拳がなぜか虚空を切った。獣人の男の姿はすでに前方にない。声は、背後から聞こえる。

 つまり、奴は後ろ。

 なんという驚異的なスピードか。

 瞬きにも満たない刹那。

 そのあいだに自分は背中を取られたのだ。


「じゃーな。なかなかいい拳だったぜ」

「――ぐばっ!?」


 次の瞬間、長身のレオリドスから強烈な蹴りが放たれた。

 横っ腹を薙ぐように抉られた男は地面を何度も転がるように跳ね、あっという間に遥か遠くまで吹き飛ばされていく。その様子を見て、加勢しようとしていた他の肉体言語(ボディランゲージ)メンバーも思わずピタリと動きを止めた。


「あの状況の中、空寝で俺様の油断を誘うとはずいぶん冷静じゃねぇか。お前ら気に入ったぜ」

「……レオリドス、それらは護衛隊の中でもなかなかの(つわもの)たち。拙僧も加勢しよう」

「は? ふざけんな、引っ込んでろハゲが。こいつらは全員俺様の獲物だ、手を出したらブッ殺す!」

「今はそんなことを言っている場合ではなかろう」

「僧侶さん、放っとくの。こうなったらもう虎さんは頑固なの。テコでも動かないの」

「そうよぉ~、半裸の男たちの組んず解れつを高みの見物できちゃう機会なんて早々あるもんじゃないんだからぁん! ああんっ、もうアタシ胸がときめいちゃう!!」

「……そ、そうか。ならばしかたあるまい。レオリドス、さっさと済ませてしまえ。しかし、もし手間取るようならば我々は先に行く」

「はっ、誰に向かって言ってやがるクソ坊主が!」


 レオリドスたちが口論しているあいだにも、倒れていた守備隊の中からさらに起き上がる者が現れつつあった。

 蒼の光剣(ブルーウォリアーズ)の古参メンバー。

 王立騎士団の隊長クラス等。 

 合わせてその数、十七名――

 中には呼吸を止めず、睡眠ガスを大量に吸ってもなお立ち上がった者もいた。


「あら、想定外ね。睡眠耐性持ちまでいるなんて。ちょっとペロペロ舐めてたかもだわ。ゴルディーちゃんの言うとおり、シンプルに炎で……ああんっ、やっぱそんなのダメダメ! いい男を消し炭にしちゃうなんてもったいないものぉ~!」

「お持ち帰りするのは王子様だけなの。マッチョは僧侶さんと虎さんだけで十分なの」

「ハハ、断然楽しくなってきやがった! いいぜ、お前ら全員同時にかかって来い。まとめて相手になってやんよ」


 そのレオリドスの挑発の直後、起き上がった守備隊のメンバーたちが一斉に動き出した。

 レオリドスを目がけ、四方どころか八方から兵たちが襲いかかっていく。多勢に無勢。圧倒的に不利な状況。個対個の実力差があったとしても、戦闘は拮抗し長引くかに思えた。しかし――



「――ガハハハッ! 鈍ぇ、鈍ぇ鈍ぇ! 鈍いぞ、てめぇらっ!!」



 正当な戦いは火蓋を切った直後にはもう蹂躙へと変わった。

 圧倒的な初動の違い。

 レオリドスは次々と襲いかかってくる守備隊の面々をいとも簡単に足技だけで捌き、蹴散らしていく。

 一人減り。

 一人減り。

 また、一人減って、守備隊はあっという間に残る総戦力を失った。


「お前で最後だ」

「ぐ、ああぁぁっ……!!」


 甲冑に身をまとった王立騎士団の中隊長。その顔面を片手でつかみ上げ、指先にギチギチと力を込めていくレオリドス。バタバタと宙で暴れていた両足が止まったところで興味を失い投げ捨てる。

 結局、最初の一撃以外にダメージを食らうこともなく、戦闘はレオリドスの圧勝で幕を閉じた。


「チッ、もちっと楽しめると思ったが……いや、高望みはいけねぇか。とりあえずメインディッシュに期待だな、ヘヘ」


 口元を歪めて笑うと、戦闘狂の獣人は祠の入口に向かって再び歩き出す。その後方ではこめかみに指を当てる仕草をしつつ、ラッダが仲間のアレクベルに連絡を取っていた。


「こちらラッダ、祠入口を固めていた戦力の無力化に成功した。これより拙僧とレオリドス、ゴルディロックスの三名で突入する」

『――はい、了解しました。直ちにジーアさんに伝えます』


 当初の予定通り、マカチェリーと翼竜は上空に待機。

 そして、自分たちは祠の中へ。

 現状、彼らの計画は一点の曇りなく進んでいた。


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