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137.祭壇


「これより最奥部の祭壇を目指す。皆、陣形を崩さずに進め!」


 ラッセル団長の指示の下、進軍がはじまった。

 まずミハエル王子を中心に精鋭集団の一部が先行。そして整然と後続部隊が続いていく。

 そんな中、私は予定どおり王子様とリリの背後にピッタリとくっついて周囲を警戒しながら進む。

 あっちこっちで光球(シャイニング)の魔術で生み出された光がプカプカと浮かんでるので、暗闇の中を歩くのにも支障はない。むしろ明るいぐらいだ。

 しかも歩きはじめてしばらくすると、足元の地面や壁のいたるところがぽーっと緑色に輝きはじめた。


「きれいー!」

「本でよんだことがあります。これはとくしゅなしょくぶつです」


 王子様の話によると、暗闇の中で光る苔の一種みたい。幻想的なきらめきの中、私たちはゆるやかな下り坂になってる洞窟内をさらに奥へ奥へと進んだ。



 ――ポツ。

 ――ポツ、ポツ。



 ん?

 なんか、やたらと湿っぽい気がする。

 吸いこむ空気にジメジメとした感覚を覚えはじめたところだった。

 それまで進んでいた横幅の広い道がさらに開けて、私たちはとても大きな空間に出た。


「はへ……」


 そこは見渡す限り、奥のほうまで空洞が広がってた。

 天井の一面には氷柱(つらら)状の石柱がびっしり。濡れた地面に群生する苔の光を受けて、それらは神秘的にゆらゆらと浮かび上がってる。深刻な語彙不足だけど、とても綺麗な光景だった。自然にできた芸術品って感じだ。


「地下水の溶食でできた地形ですね」

「いわゆる鍾乳洞ってやつだな」


 斜め後方にいるゲンドルさんとアーサーさんの会話を盗み聞き。こういう地形になるのにはものすごい長い年月がかかるらしい。

 ダンジョン内なら(天獄も含めて)いろいろな場所を見てきたけど、天井がこんなツンツンしてるとこは初めてだ。てか、あれの1つでも落ちてきてグサッと刺さりでもしたら一大事。こっから先は足元だけじゃなく天井にも気を張ることにしよう。


「おねーちゃん、まだあるくー?」

「あ、えっと、たぶんもうすぐ……ですよね?」

「はい。この鍾乳洞の最奥に儀式を行なう祭壇部屋がございます」


 ラッセル団長の話によると、この鍾乳洞を突き進めば祠の最深部。ゴール地点だそうだ。

 小休止を挟んだあとで、私たちは再出発。

 しばらくすると、ラッセル団長がいってたその祭壇部屋の前に到着した。


「殿下、ご開錠をお願いいたします」

「はい。おかあさまにいわれたとおりにやってみます」


 私たちの目の前には巨大なアーチ状の鉄扉があった。

 それはこれまた大きい黄金でできた錠前らしき物で封鎖されてる。中に入るには鍵を開けないとだった。


「われは、ゆうもうなおうの血をひくものなり。あかずのとびらよ、われの声にこおうし、われをみちびかん――」


 普通に鍵で開けるものだと思ってたけど、違った。王子様は黄金の錠前に手を当てながら呪文っぽい言葉を口にする。直後、錠前はガチャリと大きな音を立てて地面へと落っこちた。


「ひらきました」

「お見事でございます」


 どうやら王家の者にしか開けられない仕組みになってるみたい。面白い魔術だね。いや、もしかしてこれも神々の恩恵なのかな?


「フン! ぐっ、ダメだ……!」

「ビクともしないぞ!」

「落ち着け。もう一度、全員で力を合わせるぞ」

「よし、いくぞ!」

「「「いっせいのーせ!!」」」


 解錠後、王立騎士団の団員さんたちが集まって重そうな鉄扉を一生懸命押し合ってたけど、錆ついてるらしくかなり手こずってた。


「危険ですのでミハエル王子はお下がりになってお待ちください」

「リリもやるー!」

「あ、君! 今いったら危な――!」


 そこに止める間もなく、駆け寄っていくリリ。

 両開き扉のちょうど真ん中。団員さんたちの足元の隙間に入りこむと同時だった。扉は途端に、ギギッ~と音を立てながら開きはじめる。


「お、いけるぞ!」

「いいぞ、もっと押せ押せ!!」


 うん、ただの偶然だよ。

 この場は、そういうことにしておこう……。


「はへー、ここが祭壇か」


 内部は人の手で掘ったのが一目でわかるほどに、真四角の部屋になってた。広さは我が家の大広間の半分ほど。一段せり上がった部屋の中央に大きな銀色の〝杯〟があること以外は、特に目立つ物もないシンプルな空間だった。


「儀式中は、王家のお方と神官以外は立ち入れない決まりです」


 ラッセル団長からそう説明を受けたので、私は扉を開けた団員さんたちと一緒に部屋を出た。

 これで儀式に関しては完全にノータッチ。

 ただ、踵を返してすれ違う際、ミハエル王子が私に目配せして小さく頷いてくれた。この様子ならリリのことは任せても大丈夫そうだ。てか、王子様、あの歳で私よりもしっかりしてるような気がする。


「我々はここでしばし待機であるな」

「ああ、王族の儀式を一般人が覗き見るのも失礼に当たるからな。扉の前の警備は王立騎士団に任せておいたほうがいいだろう」


 祭壇部屋を出たあと、私は隅っこのほうにいたマストンさんやグリフさんたち精鋭部隊と合流。鍾乳洞のツヤツヤした壁に背中を預けながら一緒に儀式が終わるのを待った。


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