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135.謁見と打ち合わせ


 王国(ミレニアム)王都。

 ハインケル城――


「わー、おしろぉー!」

「こらっ、走らないの」

「はーい!」


 儀式の前日、私たちは予定どおり王立騎士団の馬車で前入り。

 案の定注意しても止まらないリリを追いかけて確保後、その手をがっちりと握り、私は妹と一緒にラッセル団長の案内で城内を進んだ。


「しばしお寛ぎを」


 たどり着いた先は以前泊まったあの貴賓室だった。どうやら今回もこの広くて立派な部屋に宿泊させてもらえるらしい。

 その後、扉の前で待機してた若いメイドさんにレモン入りの紅茶を淹れてもらって一息。室内をバタバタと元気に駆け回るリリの様子を眺めながら、腰縄用に紐でも持ってきたほうがよかったかもといくらか不安を募らせてると、不意にコンコンとノックの音が響いた。


「エミカ様にリリ様、本日はご足労いただきありがとうございます」


 部屋を訪ねてきたのはティシャさんだった。

 彼女は深々と頭を下げると、「女王様がお待ちです」と私たちを貴賓室の外へ連れ出す。早くもこのまま謁見みたい。


「……あの、リリも一緒でいいんですか?」

「はい、問題ありません。女王様からはお二方ともお連れするようにと命じられておりますので」


 リリが何か失礼なことをしないか不安だったけど、女王様の要望ならしかたない。私たちは何度も階段を上り、入り組んだお城の上層へと進んだ。やがて到着した場所は、謁見の間。

 待機してた兵隊さんたちが重々しいアーチ状の扉を開けると、敷かれた赤い絨毯の先に女王様と王子様の姿が見えた。


「じょ、女王様……本日はお招きいただきありがとうございます」


 正式な作法なんて知らない。とりあえず謁見の間の中ほどまで進んだあとで、失礼のないように身を屈めて頭を下げる。これでもう何度目かの謁見だけど、やっぱ慣れるもんじゃない。


「よくきてくれましたね、エミカ。そして、リリ」

「……じょおうさまー?」


 前回、王都にきた時に何度か顔を合わせてるはずだけど、リリは今一ピンときてないみたいだった。

 ま、もう半年近くも前の話だしね。


「はい、私がこの国の女王ミリーナです。そして、こちらが息子のミハエル」

「リリさん、はじめまして」

「むすこー?」

「女王様の子供ってことだよ。だからミハエル様はね、王子様なんだ」

「おうじしゃまっ!?」


 目の前の同年代の子供が何者なのか理解すると、リリは瞳をぱーっと輝かせた。そして次の瞬間、駆け出して一気に距離を詰めると、妹は不躾にもいきなり王子様の手を取ってわいわいとはしゃいだ。


「おうじさま! ほんとにおうじさまー!?」

「はい。ぼくはミレニアムのおうじです」

「すごーい!」

「ちょ、ちょっとリリ!? ダメダメ、そんなことしたら失礼だよ!!」

「ウフフ。構いませんよ、エミカ」

「え? で、ですが女王様……!」


 不敬罪になると血相を変えて近寄ってきた私に、女王様は微笑みながら頭を振った。問題はないってことだろうけど姉としては生きた心地がしない。すでにリリは王子様の両腕を乱暴につかみ上げて、その場でぐるぐると回りはじめてた。

 ひえっ、ケガでもさせたらエラいこっちゃ……。


「ミハエル、私はエミカとお話がありますから、あなたはリリにお城の中を案内してあげなさい。いつもいっているとおり、女の子には優しく親切に。よいわね?」

「はい、おかあさま! リリさん、ぼくといっしょにあそびましょう」

「うんー!」


 ミハエル王子がリリを連れてトコトコと謁見の間を出ていく。

 ……大丈夫かな?

 リリって教会で遊んでる時、けっこうジャスパーとヘンリー筆頭に、男の子に対して容赦ない感じでじゃれつくとこあるんだよね。もし、リリが遊んでるつもりでもキックとかパンチとか……いや、やめとこう。考えたくもない。


「仲良くしてくれるとよいのですが」


 リリたちが出ていったあとでポツリと呟きが聞こえた。女王様はどうやら私とは違った意味の心配をしてるらしい。


「私も、心配です……」


 とりあえず同意だけを示してその場は話題を変えた。


「あの、ところでさっきから気になってたんですが、コロナさんはどちらに?」


 女王様の諜者であり、私の恩人。先週、我が家に言伝にやってきたのがティシャさんだったのも少し引っかかってたんだけど、今この場にいないのは明らかにおかしかった。


「コロナは今、王都を出ています」

「明日の準備ですか?」

「いえ、別件です。もう解決したはずの案件だったのですが、どうしても気になる点があるらしく、直接現地に赴きたいとの話だったので私が許可しました。今頃は北方の辺境区に入っていることでしょう」

「そんな遠い場所に……」

「エミカ様。今回、妹の不在期間が長期に及ぶこともあり、現在私が臨時で諜者代理を務めさせていただいている次第です。本来ならば先週の時点でお伝えしておくべき話だったのですが、王室の機密に係わる事項でもございます。どうかご容赦していただきたく」


 なるほど。

 ティシャさんの説明を受けて完全に納得した。

 しかし、コロナさんもいろいろと大変だね。北の辺境って、たしか大きな山脈の谷間を抜けていかなきゃいけなかったはず。アリスバレーなんかとは比べものにならないぐらいの豪雪地帯だって聞くし、ちょっとコロナさんの身体が心配だ。


「しきたりで女王である私は同行が許されません。エミカ、明日はミハエルのことをどうかお願いします」


 何か重大な話があってのことかと思ってたけど、ただ女王様は王子様の身を案じてただけだったみたい。最後に王子様のことを頼まれて雑談を終えると、ちょうどそのタイミングでリリたちも謁見の間に戻ってきた。

 笑顔で仲良く手を繋いでる姿を見る限り、粗相はなかったっぽい。よかった。ほんとによかった……。


「エミカ様、会談室で儀の責任者の方がお待ちになられております。さっそくこれから打ち合わせに入っていただいてもよろしいでしょうか」

「あー、はい。私は構わないですけど、リリはどうしましょ?」


 連れていってもいいなら連れていくつもりだったけど、話し合いの結果、打ち合わせのあいだはティシャさんがリリの面倒を見てくれることになった。

 女王様と王子様、そしてリリとティシャさんと別れて、『会談室』と書かれたプレートのある扉をノックして入室。

 長いテーブルの真ん中にはやつれた中年男性が1人。なんか見覚えがあるなと思ったらベルファストさんだった。


「なんだ、責任者ってベルファストさんだったんですね」

「なんだとはなんだ……」


 ま、王都冒険者ギルドの会長だし、当然といっちゃ当然なのかな?


「俺はお前の妹の事情も知ってるからな。今回の聖杯の儀を統括できる数少ない人間の1人ってわけだ」

「あ、そっか。たしかにリリのことを知らないとこうやって打ち合わせもできませんもんね」

「そういうことだ」


 ベルファストさんは私に座るよう促すと、そこから明日の予定と対策についてすらすらと話しはじめた。


「出発は明日の早朝になる。王都からレコ湖までの行き帰りは馬車で半日程度だが、儀式にかかる時間や大所帯での移動を考えると完遂は深夜になる見こみだ」

「その辺はもう聞いてますよ」

「ならば本題の偽装の件に移ろう。ミハエル王子と儀を共にするため、お前さんの妹には〝神官〟の仮装をしてもらう予定だ」

「え? リリにお祈りは無理だと思いますけど……」

「フリだけでいい。同年の神官としてミハエル王子のお傍におつきし、付随する形で一緒に儀を受ける。何、儀式の際は人払いもするし、ミハエル王子には真実を伏せた上ではあるが、すでに女王様から上手く説明していただいている。問題はないさ」

「儀式のあいだ王子様とリリだけならたしかに問題はないでしょうけど……あ、てか、私はどこにいればいいんですか?」


 移動中にしろ儀式中にしろ、一冒険者として参加する私が王子様とリリの傍にいていいものなんだろうか。そういう大事な役回りは王立騎士団の仕事に思える。


「心配するな、ラッセル団長にもすでに話は通してある。お前は出発から帰還まで、ミハエル王子と妹の隣に離れずついていればいい。一番説明を求めてきそうだった今回護衛に参加する冒険者パーティーも、そのリーダー2名がお前の飛び入り参加に疑念の〝疑〟の字も示さずあっさり了承したからな。あの反応を見る限り、おそらくお前がミハエル王子のお傍にずっといても不思議には思わんだろう。なぜかは知らんがな」

「……はへ?」


 誰だろう。

 もしかして知ってる人かな?

 うーん、心当たりがあるようなないような……。

 ま、明日になればわかるか。


「――と、大体こんなところだな。何か質問はあるか?」

「特には」

「なら打ち合わせはこれで終わりだ。当日、俺は女王様の連絡役として王都に残らにゃならん。万一のことだが現地で何か問題が発生した場合はラッセル団長か、もしくは冒険者パーティーのリーダーたちに指示を仰げ」

「了解です」

「ああ、それとまったく関係ない話だが、アンナが時間があればお前さんに会いたいといってたぞ」

「え、アンナさんが?」

「たしか、王都とアリスバレー間の列車がどうのこうのいってたな」

「あー……」


 すっかり忘れてた。そういえば少し前、モグラワインを買ってもらった時にそんな話をしたっけ。


「ま、あれは考えてあげてもいいですよって話で、約束したわけじゃないし……」


 アンナさんには悪いけど、なんかめんどくさそうなので今回はパス。

 結局その日の残りは、リリの城内探検につき合ったりなんかしつつダラダラと過ごした。


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