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15.閃き


 ギルドに隣接した酒場で昼ごはんを食べるってのが、私の最近の日課だ。

 ま、懐に余裕があるあいだはって話だけど。

 店内は繁盛してて、けっこう騒がしかった。


「ええっと、空いてる席はー」

「おっ、姫さんじゃねぇか」


 静かに食べられそうな席を探していると、ふと近くから声をかけられた。隣のテーブルを見る。そこには不敵に笑うガスケさん。

 うん、知ってた。私をそんな呼び方で呼ぶの、この人だけだもん。


「酒場にいるなんてめずらしいな、昼飯か?」


 コクリと頷くと、前の席に座るよう促された。断る理由もないので大人しく着席する。同時に良い匂いがしたので視線を落とすと、そこにはジュウジュウと音を立てている肉厚のステーキがあった。


「なっ!」


 お昼からなんていいものを!?

 上級冒険者様相手にナチュラルに殺意がわいたけど、これも全部貧乏が悪いんだと思って耐える。妬み嫉みは何も生まないのだ。なので代わりに、物欲しげな表情で同情を誘ってみた。


「じー」

「やらねーぞ」

「ぐぬっ……」


 残念ながら作戦は失敗。

 しかたなく通りすがったウエートレスさんに普通に注文しとく。こないだド派手に散財したばかりだってこともあり今日は節約モード。ここはパンとゆで卵のセットに決定。


「ねえねえ、昼間からお肉ってことはさ、もしかして今日ダンジョンにいくの?」

「ああ、ちっと単独(ソロ)狩りにな。そういや姫さんは修行中なんだって? 騎士さんから聞いたぜ。なんなら一緒にくるか?」


 おお、願ってもないお誘いきた!


「最近は安定して稼げる二十階層から二十四階層辺りが穴場だぜ」

「げっ! に、二十……!?」


 いやいや、無理無理。余裕で死んじゃう。


「てか、単独(ソロ)でもそんな深いとこまで潜るんだ……」

「そんな深かねぇよ。ただ三十階層以上になると、どうしても団体パーティーとカチ合って効率が下がるからな。妥協して二十階層台を狙うのがベターなんだよ」


 ガスケさんが言うには、団体相手と狩り場が重なってしまった場合、ソロプレイヤーは譲らないといけないとか。ただ、特にギルドでそういう制約があるってわけじゃなく、冒険者同士の暗黙のルールってやつらしい。


「そもそもダンジョンってのは、攻略するためにあるってのが前提だからな。単独(ソロ)でクリアを目的にしてるような連中はいないってことで、身を弁えろって話なんだろ」

「でも、肩身が狭いソロプレイヤー同士が近い階層で集中しちゃったら、それはそれで揉めそうだね」

「いや、それがそうでもないぜ。それぞれある程度は縄張りを決めてるからな。それにピンチの時は互いに助け合うことだってある。ま、集団は集団の中だけで情報を共有して秘匿する分、ソロプレイヤーはソロプレイヤー同士で結びつきが強いってわけさ」

「はへー」


 なるほど。さすがに冒険者歴が長いだけあって、ガスケさんの話は勉強になるね。

 よし、この際だ。色々と訊いてみよう。


「上級冒険者なら、外の依頼とか受けたりしないの?」

「外の依頼ってのは基本長期任務になるからな。その上、ほぼ間違いなく団体行動だ。オレには合わんな」

「でもさ、いつも二十階層まで下りるのって大変じゃない?」

「慣れたダンジョンではあるが、まーそりゃな。途中でモンスターの群れに出くわしたり、厄介な個体を避けて遠回りしなきゃいかんかったりと、イレギュラーも偶発しまくる。ま、帰りは転送石があるから楽だがな」

「あっ」


 ふと、そこで不意に妙な引っかかりを覚えた。

 なんだろう。うまく言葉にできないけど、今、何かとても重大なことに触れた気がする。


「どうしたよ、姫さん? 急に固まっちまって」

「……」


 ガスケさんは今たしかに言った。帰りは転送石があるから楽だと。

 だけど、〝行き〟については……その〝行き〟については――あ、そうか!


「問題は行きだ!? てか、それだよ!!」

「は……?」


 こんな単純なアイデア、どうして今の今まで出てこなかったんだろ。だけど、思いついてさえしまえばもうこっちのものだった。

 浮かび上がったのは値千金の閃き。


 ――ピコーン!


「ねえねえ、ガスケさん!」

「……お、おう?」

「もしダンジョンの地下二十階まで一気に下りられる階段があったら使う!?」

「あん? そりゃなんの例え話だよ?」

「いいから答えて!」

「いや、使うだろ、普通に考えて……。てか、行きだけじゃなく帰りも使うわな。転送石一つの値段もバカにならんし」

「おーおー!」


 ガスケさんの回答に満足した私は、テーブルから身を乗り出しながら矢継ぎ早に質問を続ける。


「その階段、実際に存在したら一回の利用でいくらまで出せる!?」

「もしもの割りに、やけに真剣だな」

「ねえねえ、いくらいくら!?」

「あーっと、そうだな……。まず、転送石が最低でも一つ七千マネンとして」

「えっ! あれってそんなにするの!?」

「あくまで最安値で入手できたとしての話な。あと行きの労力と時間、すべて狩りに充てられるとして……うーん、大体このぐらいか?」


 そう言いながらガスケさんは右手の指を三本立てた。


「……え、三千マネン? なんで下がっちゃうの?」

「バカ。三万だ、三万」

「さ、三万っ!?」

「ああ。二十階層まで下りるのにどれだけ急いでも一時間(アワ)はかかるからな。ベテラン冒険者なら、そのあいだに元手は十分稼げるだろう。それにプラス転送石の代金も考えれば、もっと払ってもいいぐらいか……って、もうこの辺でいいか、姫さん? いい加減メシが冷めちまうよ」

「………………」


 一度の利用で三万マネン。

 これは、えらいこっちゃ。


「はっ!? 悠長にご飯なんて食べてる場合じゃないよ!!」


 ――ガタッ!!


「あ? おい、どこ行くんだよ姫さん? おーい……?」


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