幕間 ~終焉の解放者1~
氷壁ダンジョン最終階層――地下333階。
終焉の解放者現アジト。
氷雪神殿。
同内部、中央祭壇室にて。
「全員集合って言ったのに、四人しか集まらないってどういうことよ?」
先端に髑髏が吊るされた長杖と、動物の骨の首飾り。
腰まである長い亜麻色髪に、肩と足が著しく露出した黒衣のドレス。
その装いもあって忌まわしさと淫靡な雰囲気を併せ持った女性――ジーア・ロメロートは沸々とした怒りが込み上げる中、隣に立つ褐色肌の少年をギロリと睨み付けた。
「え? あ、いや、俺はちゃんと皆さんに伝えましたよ……」
「それなら、どうしてあの双子とあなたしかいないの。他の連中はどこで油売ってるわけ?」
クランの〝連絡役〟である彼――アレクベルの落ち度を本気で疑っているわけではないが、怒りの矛先を今いない人間に向けることはできない。この場にいる人間がとばっちりを受けるのは自然の道理だった。
「えっと、ラッダさんは修行に励んでて、ゴルディーちゃんは裁縫が忙しいってことで、レオリドスさんに至っては連絡した時点でものすごいキレられました。野郎の声が直接頭に響くとかマジ気色悪ぃんだよボケ、だそうです」
「は? あの獣そんなこと言ってたらこっちから何も連絡取れないじゃない。アレク、レオリドスにもう一度用件を伝えて。ロコとモコを向かわせなきゃだしちゃんと居場所も訊き出すのよ」
「あ、いやでも、その……」
「何よ?」
「次やったら殺すぞってけっこうマジなトーンだったんで。いや、それでもジーアさんがどうしてもやれと仰るならやりますけど……」
「……」
そのまま悲壮感を漂わせながら悲しそうに目を伏せるアレクベルを見て、さすがに少し居た堪れなくなる。というか、これではまるで自分が彼を虐げているようではないか。ジーアは溜め息を吐きつつその場で力なく頭を振った。
「はぁ、もういいわよ……。それで、残りの連中の不参加の理由は?」
マカチェリーはペット兼相棒の〝まーちゃん〟の世話。ここ最近クランに加入したダリアは気分じゃないとのこと。
今にはじまった話ではないが、組織としての規律など皆無だった。
「ちなみに連絡したら、どっちからもそんな集会サボってお姉さんと遊ばないかって誘われました」
「……」
新人のダリアはともかく、前者のマカチェリーはアレクベルと同性である。つまりは男だ。どうやらこのクランは風紀まで乱れはじめているらしい。由々しき事態だった。
「たくっ、どいつもこいつもなんなのよ!」
怒りに任せて愛用の長杖を激しく床面に叩き付けるジーア。石突きが氷の床を砕き、辺りに破片が散らかっていく。
そんな最中、今まで祭壇室の反対側で片割れの作業を見守っていたドワーフの少女がトコトコと戻ってきた。
「ジーアってば、さっきから何イライラしてんの? 欲求不満?」
「なっ、違うわよ!!」
「ロコちゃん、ジーアさんは招集に応じないメンバーにご立腹なんだ」
「ふーん」
アレクベルが簡潔に説明すると、ロコは黒い軍帽を被った頭の後ろで手を組みながら続ける。
「てか、パープルだって来てないじゃない」
「あの子なら今は小国の首府にいるわ。一人だとなんでもかんでも皆殺しにし兼ねないから、一応ユウジも付けてね」
「……首府? なんで?」
「だからその件で、今日全員を呼んだのよ」
再び溜め息を吐いて力なく項垂れる。これからメンバーを再招集する気にもなれない。
しかたないので今日は双子にだけは予定どおり、この場にて説明を済ましておくことにした。
「――へー。それじゃ、もう武勇伝に食い付いてきたわけね。案外早かったじゃない。もっと気の長い計画だと思ってたのに」
「この国の上層がこないだ狩った山賊たちと繋がっているのは確定情報だけど、パープルから接触した様子を又聞きする限り、どうも代表者のその上がいるっぽいのよね。その根拠に連中、いきなりとんでもない話を吹っかけてきたんだから」
「とんでもない話?」
「ええ。ただ、どう考えてもこんな小さな国の公人ふぜいが思い付くことじゃないわ。いくら戦争で負けた怨みがあろうとも、もう大昔の話だし」
「あの北エリアの代表者さん見てればわかりますけど、牙なんてとっくに折れてるどころか抜けちゃってる感じですもんね」
五百年前、小国は王国の侵攻を受けた際、領土の約七十五%を喪失。失った領土がそのまま王国辺境北方地区となり、それ以後一度も国土奪還の動きなく現在に至っている。
今さら先祖代々の土地を取り戻そうなどという小国民は皆無と言えた。
「連中が従順な犬だとしたら、黒幕は限られてくる。今回の一件でそいつの信頼を得られれば、私たち終焉の解放者の最終目標にも一気に近付くことが――」
「そういうの、私の故郷では取らぬ狸の皮算用って言うけどね」
「わかってるわよ。裏付けのほうは私の天賦技能で折を見てやっておくから。とにかく、これから忙しくなるわよ。特にロコとモコには下準備中心に諸々やってもらわないと。あ、そうだわ。せっかく王都にまで出向くんだし、同時進行でダリアが言ってた勧誘の件も済ましちゃいましょう」
「根城は今モコがマーキングし直してるし、〝印〟が消えるようなことはしばらくないから別に外出は――ん? てか、今王都って言った? 王都って王国のハインケルート? えっ、私たちあんな遠いとこまで行かなきゃいけないわけ……?」
もったいぶるつもりはなかったが、結果として前後する形になっていた。小国代表者委員会が持ちかけてきた、とんでもない話。少し遅れてその内容をジーアは告げた。
「当たり前でしょ。今回私たちが受けた仕事は王国現君主、ミリーナ女王。その第一子たるミハエル王子の誘拐なんだから――」











