番外編:暗黒土竜の生態調査、及びその宿主と禁魔法についての解析と考察
【はじめに】
本内容は、エミカ・キングモールという少女の両手に共生(或いは寄生)した暗黒土竜の生態調査、及びその当人自身と付与されたスキル〝禁魔法〟について私見を纏めたものである。
ただし内容には推測と憶測が多分に含まれているため、事実の齟齬に関しては留意されたし。
また、本内容を記す目的は魔術や学術の発展に寄与することになく、あくまで個人的な好奇心を満たすために過ぎないことを最初に明言しておく。
技術者や研究者の存在理由はただ〝追究〟の一点にあり、故に新技術や新発見に付随する文明の過剰促進に関する問題においては門外漢である。予め、この点もよくよく留意願いたい。
【エミカ・キングモールという少女】
年齢は十四歳。父親は幼少期に事故で死亡。四年前に母親も病で亡くし、それ以来アリスバレーの中心街から少し外れた一軒家で二人の妹と共に暮らす(最近になって妹一人とミニゴブリン六体が追加された模様)。
見た目は鮮やかな紅蓮の髪色をした少女で総じて整った顔立ち。性格は明るく妹思い。しかし時にゲスい一面を見せ、狡猾な発想を広げてくる。おそらくどちらか一方がというわけではなく、どちらも彼女の本性のように感じる。暗黒土竜を抜きにしてもなかなか興味深い少女であることは間違いない。
両手に宿る暗黒土竜とはアリスバレー・ダンジョンの中階層にある隠しエリアで遭遇したという(漆黒の箱から響く声に契約を求められ、よくわからないうちに承諾してしまったとか)。
そして両手が両爪となって以後、彼女はその力と性能を段階を踏みつつ理解していくこととなった。
【暗黒土竜の生態と禁魔法】
暗黒土竜の情報は高レベルの魔物解析を使用してもほとんど解明できていない。正確な個体識別名が〝封印されし暗黒土竜〟とあるとおり封印された状態にあると考えられるが、その他特筆事項・能力数値に関しては一切不明となっている。
エミカ自身が土属性に係わる力を行使できているのは、両手に宿った暗黒土竜が素因になっていることは間違いないが、その原理や発現法則についても不明点が多く、目下さらなる調査と研究が必要である。
しかし、エミカが能力を使用できている要因として一つ可能性を挙げるならば、契約と共に付与されたスキル禁魔法が大いに関係しているものと思われる。〝魔術〟でなく〝魔法〟であるならば、エミカ・キングモールという一人の少女と暗黒土竜という未知の魔生物を繋ぎ合わせ、双方を共存状態にすることは不可能ではない。そもそも魔法とは、本来この世界に存在し得ない伝説の領域として語られるものであるのだから。
かの偉大で聡明なる賢者イカツ・ウ・ホマイゴスの残した文献によると、曰く、それは神のなせる業。人では扱えない大いなる力とあり、永い人類史の中でも過去その発現を観測できた事例は数件ほどだという。また、近年では特殊スキルとも呼ばれる天賦技能の出現もあるが、それについても魔法というカテゴリーに認定された例はなく、精々が〝擬似魔法〟や〝似非魔法〟といった評価である。
エミカに与えられたスキルが正真正銘の魔法であることは、万物を表示化する世界の眼システムがそれを認めており、残念ながら疑いの余地は皆無だ。
魔法を行使する奇跡の少女。
万一、その事実を魔術都市の管理者たちが知ったのならば、如何なる手を講じても彼女を研究対象として手中に収めようとするだろう。エミカ自身の危機感が薄いこともあり、この点は今後より注意を喚起していく必要がある。土の魔法ではなく土の魔術。周囲には認識を徹底させていかなければならない。
【暗黒土竜の力と宿主への影響】
エミカが編み出した〝技〟の効果については別途資料『もぐらぱわー』を参照されたし。大雑把に説明すれば〝吸収〟や〝放出〟等の大元の技があり、細かな使用法の違いで派生していく形である(随時更新中)。
宿主に対する影響を考えるに当たって、まずは上記資料の中にある〝モグラチェンジ〟に注目してほしい。これを見ればわかるとおり、暗黒土竜は宿主の装備品にまでも影響を与えている。この事実から懸念される事項としては、暗黒土竜の力がエミカの身体(全身)にも影響を及ぼしている可能性があること。挙げられる根拠としては、人間の身体機能を底上げする祝福の魔術を使用した場合、通常使用者は後日激しい筋痛を味わうことになるが、なぜかエミカ本人にはこれが当て嵌まらない。どれだけ祝福の魔術スクロールを使用しても、肉体の疲労が蓄積されることはない。
以上を踏まえると、暗黒土竜はエミカの身体のダメージをなんらかの方法で守っているとも考えられる上、穿った見方をすれば彼女の身体機能を乗っ取っているようにも思える。
この点はただの〝影響〟であれば問題はない。研究者として、そしてエミカの知人として〝悪影響〟でないことを祈るばかりだ。
【暗黒土竜の無限の可能性】
掘削し、大量の資源を保管し、物体を創造する。
現状に限ったとしてもエミカが実現できることは多い。おそらく切望すればほとんどのものは手に入り、力の使い方次第によっては一国の領主になることも夢ではないだろう。切り立った崖の上に立つ居城の中、眼下に住まう領民たちを高笑いしながら見下ろす、そんな彼女の姿も想像に難くないほどだ。
しかし、目下のところ平穏な生活が第一らしく、エミカが歪んだ野心を口にしたことは一度もない。
生粋の善人なのか、ただ器が小さいだけなのか。どちらにせよ全人類は彼女の性質と性格に感謝すべきだろう。なぜならこれほど強力無比な魔法がもし邪悪な人間の手に渡っていたとしたら。想像して肌が粟立つのは私だけではないはずだ。
【今後の調査について】
宿主であるエミカは検分に協力的であるが、私個人の見解としては全てを正直に話してくれているわけではないように感じる。どうも幾つか内に秘めておきたいことがあるようだ。
当方としては強要をするつもりは毛頭ない。しかし、今後とも己の知的好奇心を満たすため可能な範囲で調査は継続していく所存である。
ルシエラ・ルルシュアーノ/著











