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131.もぐらっ娘、未知なる天獄ツアーへの巻終。


「エミカ~、起きて起きてー」

「んっ……」


 間延びした声に起こされ、ゆっくりと覚醒していく。

 薄っすらと開く視界。

 最初に見えたのは、こちらを見下ろしてる穏和な笑顔の天使。それと、オレンジ色の渦空だった。


「あれ、ここって……」


 上体を起こして周囲を確認する。やっぱ間違いない。いつの間にか、私はあの無数に並ぶ鉄箱の上に戻ってきてた。


「なんでここに? もしかして全部夢だったとか……?」


 いや、むしろそうであってほしい。

 それでも、記憶はあまりに鮮明に残ってた。自分で口にしてみて、それが希望的観測にすぎないことは明らか。

 そう。

 あれは()()なんかじゃない。

 間違いなく、現実以外の何ものでもなかった。


「お父さんとお母さんたちがここまで転送してくれたんだよー」

「……え? 箱の人たち、無事なの?」

「あはー♪ お父さんとお母さんたちは不死身だからね~、()()()()()じゃ死なないよー♥」

「そ、そうなんだ……」


 それはよかった。

 いや、よかったけど、あの〝天獄の中心〟とかいう場所、あんな惨状になっちゃってほんとに大丈夫なのかな。私が最後に見た記憶だと、地面に開いた大穴に全部呑みこまれて何もかもなくなってたけど。


「……怒ってなかった?」

「誰がー?」

「いや、だからサリエルのお父さんとお母さん」

「ん~? なんでー?」

「なんでって、それは……」


 うーむ。

 どうもサリエルの反応を見る限り、箱の住人たちはお怒りではないご様子だね。住んでる場所をあんだけめちゃくちゃにされて文句1ついわないとか、心が広いや。やっぱ長生きしてると〝人〟っておおらかになるもんなのかな。ま、あの人たちを私たち人類と同じように見ていいかはよくわかんないけど。

 てか、そもそもの話、暗黒土竜はなんで箱の住人たちを攻撃したんだろ? なんかあの人たちのこと憎んでるっぽかったけど、私の身体を勝手に使って破壊行為とかほんとやめてほしい。


「さっき助けてくれたことには感謝してるけどさ、とんでもないことをやらかしたって自覚はありますかね、黒モグラさん……?」


 自分の両爪を半眼で睨みながら毒づくも、あの威厳のある声は返ってこない。どうやら、まただんまりを決めこむつもりらしい。

 てか、天使から心を抜いたのが悪魔だとかいってたし、基本がサリエルと一緒なら暗黒土竜にとっても箱の住人たちは生みの親ってことになるはずだ。そんな実の両親を攻撃とか、ひょっとしてあれ? 反抗期?


「……あ、そっか! つまりあれは親子喧嘩だったわけだ」


 なんかちょっと微妙に違う気もするけど、今日はそれで正解ということにしとく。さすがにいろんなことがありすぎで頭がフワフワを通り越してグルングルンになってる。

 できればもう考え事は最小限にとどめたかった。


「それにしても、なんて日だ……」


 崖下への転落にはじまった今日一日。

 軽く振り返っただけでも、めちゃくちゃな体験だらけ。

 この天獄という場所に、黒い箱の住人たち。

 その過去と、私たち人類との関係。

 ダンジョンが創造された理由。

 生み出された天使と悪魔。

 そして、暗黒土竜の正体。

 さらには、あの紫の――


「世界を滅ぼす、か……」


 その元凶と、私が出会うのは運命で決まってるらしい。

 でも、結局さ、私は具体的に何をすればいいのかな? 箱の住人たちはなんか私に期待してるみたいだったけど、〝心が獣みたいな人〟ってヒントだけで一体何をどうしろってのよ。


「私がするべきこと……うーん……」


 ダメだ。

 ぜんぜんわからん。だから、ここは考えるまでもない、ただ1つのシンプルな答えを採用しとこう。



「……ま、人生なるようにしかならないよね」



 その時がきたら、その時に考える。

 あけすけにいっちゃえば問題の先送り。

 作戦名『未来の私がんばれ、超がんばれ!!』の発動である。



 ――ぐぅ~。



 結論が出たところでおなかの虫がいいタイミングで鳴いた。


「よし、帰る! 私の精神とおなかはもう限界だ!!」

「はーい♪ 元のダンジョンの入口まで送るね~」

「あれ? でも、何か忘れてるような……」


 そういえば、私たちってなんのために天獄へ?

 あ、そっか。

 サリエルのお守りだ。この左爪の刻印を消す方法がないか訊きにきたんだったね。いろいろあってそもそもの目的すらも頭から抜け落ちてた。

 だけど、今さら戻る気にもなれない。それに箱の住人たちが無事なら、あの獣も生きてそうだし、また襲われたりしたら今度こそ無事じゃ済まないかもだ。なので、この問題についても未来の私に丸投げ――もとい、託すことにした。


「エミカ~?」

「ああ、ごめん。送ってくれるんだったね」

「うんー♪」

「……あっ、でも、どうやって?」


 そこでふと、重大な事実に気づく。サリエルの翼なしでどうやってダンジョンの底まで戻るのか。


「まさか、もう地上に戻れない……?」

「大丈夫ー、さっきお父さんとお母さんたちに魔法の〝使用権限〟を返してもらったからー。エミカはあたしの肩につかまっててー」


 よかった。どうやら問題ないらしい。

 指示どおりにおんぶされるような格好で、私は腕を回してサリエルの背中にしがみついた。


「落ちないように気をつけてね~♪」

「あいよー」


 きっとプカプカ浮遊する魔法でも使うんだろ。いいね、空中を優雅にお散歩とか最高じゃん。

 そう思った。

 だけど、次の瞬間、サリエルは私がまったく予想だにしてなかった方法で空を飛んだ。



「――天使乱舞(ロンド・ロンド)



 サリエルの両手からまばゆい光が生まれる。同時、足元に爆音が轟き、私たちはその衝撃の反動で垂直に飛び上がった。


「うばぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼっ!?」

「あはー♥」


 行きの落下よりもさらにすさまじいスピード。そんな状況でしっかりつかまっていられるわけもなく、私は途中で何度も宙に放り出された。


「ひぎゃああああぁぁ~~!!」

「もー、エミカ~、ちゃんとつかまってないとダメだよー?」


 その都度、サリエルに空中で拾われてはまた魔法の衝撃で急上昇。渦雲の高さへ辿り着くまで、それを延々と繰り返すハメになった。


「お、おっぷ……」

「エミカ~、大丈夫ー?」

「……だ、大丈夫じゃ……にゃい……」

「にゃいー?」


 完全にグロッキー状態。

 それでも、なんとか()()()()することなくアリスバレー・ダンジョンの入口まで戻ってこれた私は、大地のありがたみに感謝するとともにその場に崩れ落ちた。


「死んだフリごっこー? あたしもやるー♪」

「う、うぅ……」


 いや、やらなくていいから!

 それより助けを呼んできて!!


「わー、やられたぁ~! ぐふっ――」



 ――バタリ。



 だけど、こちらの心の叫びがサリエルに届くことはなく、私たちはそのまま俯せに並ぶ。



「………………☠」

「………………♥」



 たまたま傍を通りかかった冒険者一行に介抱されるまで、しばらく死んだフリごっこは続いた。











【今後の予定について】


 天獄ツアーへの巻は今話で閉幕(毎回落とし所というか終わり方に苦しむ……)。そんでもって次話からは前々章の『のんびり編』でやったような〝番外編〟を何話か続けていく予定です。

 それも終わったらちょっぴりシリアスな新章へといった感じでしょうか。


 以上、簡単ですがご報告でしたm(_ _)m


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