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126.もぐらっ娘、未知なる天獄ツアーへの巻2。


 ゴーゴーと、風の音が響いてる。



「うばぼぼぼぼぼぼぼっ!!」



 というわけで――いや、どういうわけか本日二度目の落下。

 さっきから風圧で頬がめっちゃブルブルしてるし、顔の皮膚が引っ張られてまともに喋れない。


「あはー、楽しいね~♪」


 だから、隣で一緒に落ちてるアホ天使がのんきに笑ってても文句がいえない。

 てか、こいつはなんでこんなに落ち着いてるんだ。あ、翼があるからか。その気になればいつだって自由に飛べるもんね。うん、なら楽しんでないで早く私を助けろ。いや、助けてくださいお願いします。


「ばびゅえる! 飛ばぼぼぼぼぼぼっ!!」

「何エミカー?」

「助ばぼぼぼぼぼっ!!」

「ん~?」


 この状況にお構いなしで、頬に人差し指を当てながら愛嬌良く首を傾げるサリエル。

 ダメだ。まったく伝わってない。


「ん”ー! ん”んっー!!」


 でも、このままじゃもうじき私の精神が崩壊してしまう。言葉の代わりに身振り手振りでアピール。そして必死の懇願のかいあって、私の想いはなんとか伝わった。


「あー、なんで翼で飛ばないのかってこと~?」

「ん”っ! ん”っ!!」

「飛ぶよりね、落ちるほうが早いからだよー。まだ天獄まで遠いからしばらくはこのまま遊べるよー♪」

「ん”ばぼっ!? 助ばぼぼぼぼぼぼぼぼっ!!」


 しかし想いが伝わったとしても、願いが聞き届けられるかどうかはまた別の話だった。

 その後、しばらく縋るようにヘルプのゼスチャーを続けたけど、やがて真の想いが伝わらないことを悟った私は諦めという境地に辿り着いた。


「あはー♥ 風が気持ちいいね、エミカ~♪」

「……」


 捨て鉢の精神で四肢を投げ出して、抵抗をやめる。


「おっ――」


 すると、全身の力を抜いたのがよかったのか、真っ逆さまに落ちてた身体がゆっくりと回転。風圧を背中に受ける形になって言葉を取り戻せた上、私の眼前には鮮やかな景色が広がった。


「きれい……」


 この世のものとは思えない神々しい〝光〟を浴びて、思わず呟く。

 夕焼けよりも心惹かれて、熟れたオレンジよりも美しいオレンジ色。一番高いその場所には雲というか煙のようなものが渦巻いてて、それ自体が揺らめきながら光を放ってた。


「あ、もしかしてあれって……!?」


 光景に見蕩れて恍惚とする中、ふと、私はある物に気づいた。


「うん、()()だよー♪」


 上空を覆う輝く煙からは大きな赤黒い筒が突き出てた。

 ちょうど私たちの真上に1つ。さらによくよく見渡してみると、空のそこかしこに同じ物体がいくつも確認できた。


「ダンジョンの出口……」


 サリエルの言葉から正解を導く。

 つまり、さっき私たちはあの筒の中に転送してきたわけか。んで、あそこから落ちてきたと。そんでもってここはダンジョンよりもさらに地下。深い地底の底の底ってわけだ。

 うん、なるほどね。

 世の中、理解できても理解できないことってあるんだね。


「なんかほんといろいろ通り越して、なんか、ほんといろいろだ……」

「いろいろだね~♪」


 てか、どうして私はこんな目に遭ってるんだっけ?

 正解は1つ。

 全部独断専行するこののほほん天使のせい。

 そうだよ、ダメなんだよ。

 これ以上この天使のペースに乗せられたら……。

 というわけでこの状況に歯止めをかけるため、私はもうこの先何が起こっても驚かず、冷静に対応していく意思を固めた。


「エミカー、そろそろ飛ぶねー」

「うぐぇ!」


 だけど、もう天獄が近いってことで、サリエルにオーバーオールの肩のところをつかまれ、状態が〝落下〟から〝飛行〟に変化。吊るされるようにして運ばれる私は、今度は眼下に広がる景色に平静を失うことになった。


「……な、何ここ?」

「天獄だよー」


 ぐるりと一周、地平線を見渡す限りどこまでもだった。

 その大地には巨大な()()のような物がびっしりと建ち並んでた。


「……何ここ?」

「だからー、天獄だよ~?」


 銀色に鈍く光る、謎の巨大建造物群。

 それ以外のものは見当たらない。

 ほんとにどこまでもどこまでも無限に思えるほどにびっしりと、その大地には整然と、そして圧倒的に鉄箱が建ち並んでいる。

 いや、そもそも大地があるのかどうかすらも定かじゃない。巨大な鉄箱と鉄箱のあいだの空間。その奥底には闇が広がってて、上空から降り注ぐあの美しい光すらも届いてなかった。


「ダンジョンの底を抜けて落ちてきたのに、さらにまだ地下が……。てか、サリエルの両親はほんとにこんな場所に住んでるの?」

「うん、お父さんとお母さんはこの下だよー」


 そういって勢いよく翼を羽ばたかせると、サリエルは建ち並ぶ鉄箱の1つに私を下ろした。


「んで、どうやってこの下にいくわけ?」

「えっとねー、それはたしかこうしてこうすると~♪」


 入口らしきものは見えないのでどうするのか訊くと、サリエルは足元の床を指でなぞりはじめた。すぐに光る文字のようなものが浮かび上がったと思えば、不意に音もなく、床がすさまじい速さで下がっていった。


 それも、私の立ってた場所だけが。


「あ、間違えちゃ――」


 鉄箱の上から見える景色が消える間際、サリエルが言いかけた言葉を私はたしかに聞いた。



「――ひょええええええぇっ~~~!!」



 そのまま下りていく、というよりはやっぱ落ちていく。

 これで本日三度目の落下。

 もう慣れっこ、といいたいところだけど、けっして慣れるようなもんじゃない。

 そのままどうなったのかよく覚えてないけど、今度はあまり長い時間は落ちてなかったと思う。やがて床の降下は止まり、私はその反動でつんのめる形でゴロゴロと転がった。


「痛だた……」


 実際に痛みはなかったけど、つい口をつく。

 そのまま起き上がって辺りを見渡すと、自分がちょっと開けた場所にいることがわかった。

 広さは大体、我が家の訓練場ぐらい。ちょうど背後には四角い穴があって、中を覗くとずっと上まで空洞が続いてた。どうやらここから私は落ちてきたみたい。


「……ってことは、ここで待ってればサリエルもきてくれるよね」


 それまで暇潰しに、ここを少し探索しとく。

 部屋の隅々に私が視線をやると、不思議なことにその先の壁や床が次々に光石みたいに光った。ヘッドライトをつける必要もないから便利なのはいいけど、誰かに見られてるような気もしてちょっと不気味だ。


「あ、こっちに道があるね」


 やがて私が落ちてきた場所の反対側に通路を発見。覗いた瞬間、ずっとずっと奥まで続いてる通路に光が灯った。


「進めってことかな……?」


 でも、このままいったら絶対迷子になりそうだし、やっぱサリエルを待つのが一番だよね。


「ん?」


 ふと、そこで妙な気配を感じて背後を振り返る。



 ――ジジッ、ジジジッ。



 最初は音だけ。

 だけど、徐々に目の前の空間にグニャグニャと歪みのようなものが出てきて、それはやがてはっきりと姿を現した。


「――紫色の、〝穴〟?」


 幅は私が両爪を広げたぐらいの大きさで、けっこうでかい。もし球体なら穴と呼ぶのは正しくないかもだけど、横から見ると何も見えないのでやっぱそれは穴としか表現しようがなかった。


「なんだろ、これ……」


 こんなよくわからない場所で、さらに得体の知れないものと遭遇。悪い予感はあった。それでも、サリエルのお守りもあったので最終的には好奇心がわずかに勝った。

 黒に近い紫色。

 ぽっかりと開いた、その空間にゆっくりと手を伸ばす。

 そして、爪先が届くすんでのところだった。



「――エミカ、だめぇーーー!!」



 気づけば穴が、獣の口に姿を変えてた。

 明らかにこちらを丸呑みにしようと、殺意をあらわにしてる。

 突然の変貌に固まった私は次の瞬間、文字どおり飛んできたサリエルに救い出された。



 ――ドガッ、ドガガガガガッッ!!



 そのまま重なった状態で通路に突っこむと、私たちは何度も壁や床に激突しながら転がっていく。サリエルの肩口から見える入口のほうでは、完全に獣の姿に形を変えた紫の穴がすさまじい速さでこちらに迫ってきてた。

 サリエルが飛んで逃げてくれることを期待したけど、なんかちょっと様子がおかしい。

 結局、再度浮上することなく、私たちは通路の途中で勢いをなくして完全に止まった。

 そして、こちらが起き上がると同時。

 紫の牙はもう目の前にあった。


「――モグラウォール!!」


 間に合って!

 そう強く願いながら壁で通路を塞ぐ。

 ほんとにギリギリだった。

 その試みはなんとか間一髪のところで成功した。


「し、心臓に悪すぎる……。てか、なんだったんだ、あの穴……」

「ふぇー、危なかったねエミカ~」


 塞いだ壁と、私の腰に抱きついてるサリエルを交互に見やる。そこでふと、私は強烈な違和感に襲われた。


 危なかった?

 なんで?

 お守りがあるから大丈夫なんじゃないの?

 いや、違う。

 今はそんなことより、もっと何か別なことに引っかかってる。


 そこまで思い至った次の瞬間、私はようやくその事実に気づいた。


「あ”っ! サ、サササリエル!?」

「ん~?」

「ちょっと背中! 背中見せて!!」

「なんでー?」

「なんでもいいから! ほら、早く!!」


 のんびりと首を傾げるサリエルを助け起こして、ぐるりと半回転。恐る恐る確認すると、やっぱその背中には翼がなかった。


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