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124.もぐらっ娘、キノコを売る。


「それで、私にそのモンスターを調べろと?」

「困った時に頼るべきは幼なじみだからね」

「あなたとの腐れ縁を解消するにはどうしたらいいのかしら」

「私、知ってるよ。そんな文句いっといて、いつもちゃんと相談に乗ってくれるって」

「はぁ……」


 心底嫌そうにため息を吐く幼なじみ。

 だけど、すぐに営業スマイルに一転。そのまま私の背後にいる2人に向けて声をかけた。

 そういや、こうやって直接この3人が話すのって初めてだね。


「たしか、ジャスパー君とヘンリー君だったわよね。いつもエミカ(この子)がお世話になっています」

「別に世話なんかしてねーぞ」

「基本いつも助けられているのはこっちです」

「え、そうなの……?」

「そうだよ、ユイ。どっちかというと私がお世話してるほうだよ、えっへん」

「あなたは黙ってなさい。私はこの2人に訊いてるんだから」

「えー、ブ~ブ~!」

「ぴぐぅ~!」


 私を除け者にするユイにブーイングすると、しもふりピンクさんが共鳴してくれた。

 てか、ブタっぽく鳴いたので仲間だと思ってくれたのかも。ちょっと嬉しいね。


「やっぱり図鑑でも見たことないモンスターだわ……」


 しもふりピンクさんが鳴いたことで話はまたすぐに本題に戻った。


「おそらく、エミカがダンジョンで遭遇したのは〝ピッグマッシュ〟だと思うけど」

「ピッグマッシュ?」

「そのままブタを巨大化したようなモンスターよ。基本的に無害だけど、空腹時はものすごく凶暴になるわ。ちなみに主食はキノコよ」

「あー、そういえば無我夢中で食べてたね。てか、あれって頭に生えてるキノコが弱点なの?」

「いいえ。というか、そもそも頭にキノコが生えてる個体なんて聞いたことがないわ。おそらく、それ自体が特殊体だったんでしょうね」

「へー」


 なるほど。

 つまり、しもふりピンクさんは特殊体から生まれたさらに特殊なモンスターってことでいいのかな。


「ぴぐぴぐぅー」

「あ、ちょっとジッとしていて。すぐに終わるから」


 そのあと、ユイはいろんな解析スキルを使ってしもふりピンクさんを調べ上げた。

 そして、衝撃の事実が発表される。


「わかったわ。結論からいうと、この子はモンスターじゃないわね」

「へ?」


 予想外の答えに、一瞬言葉が詰まった。


「……そ、それってどういう?」

「説明する前に、一般的な生物とモンスターの一番の違いが何かわかる?」

「えっと、人を襲うか襲わないか?」

「それだと残虐な盗賊もモンスターになってしまうわ。ま、ある意味、正解ではあるかもしれないけど」

「魔力によって存在しているのがモンスターで、人間のように水や空気、その他のあらゆる栄養素で活動しているのが生物ですね」

「正解よ。すごいわ、冒険者でもないのによく知っているわね。それに比べて……」

「うっ……」


 ヘンリーがしゃしゃり出て答えたせいで、ユイに蔑みの目で見られた。

 でも、さすが普段から勉強熱心なだけあって物知りだね。私なんてモンスターと他の生物の違いとか、今まで生きてて一度も気にしたことすらないよ。


「モンスターは死ぬと、腐敗が起こる前に残留した魔力がすべて尽きて消滅する。だからドロップアイテムなんかの例外を除けば、素材を持ち帰る際には特殊な加工法や保存法が必要になってくる――と、ここまでは基本の話よ。いい?」

「うん」

「それじゃ、核心に移るわ。生物とモンスターを区分する違いはもう1つあって、それは繁殖するかしないか。モンスターはダンジョンから発生するものだから、そもそも生物のような繁殖能力は備わっていないと考えられている。

 ただ、これには例外があってね、テイムなんかでダンジョンの外に連れ出されたモンスターが野生化すると、地上の近縁種と交配・融合、はたまた寄生して子孫を残す場合があるの。そして、そういった経緯で誕生した個体はすべて〝生物〟としてカテゴリーされる」

「モンスターの血を受け継いでいるのに生物なの?」

「ええ、そうよ。ただ便宜上、単純に害獣をモンスターということもあるから、厳密に区別されない場合も多いのだけどね。ほら、あなたがこないだ討伐したイエローワームもそうよ」

「あー、あのでっかいモグラモドキね」


 つまり地上産のイエローワームとダンジョン産のイエローワームは似てるけど、いろいろ違うってことか。


 これまでの話を簡単にまとめると、

 ①生物はいろんな栄養で動いて、モンスターは魔力だけで動く。

 ②生物は腐るけど、モンスターは腐らない。

 ③生物は子供を残せるけど、モンスターは子供を残せない(ダンジョン内にいる限り)。


 ふむふむ。

 テイムされたモンスターや野生化した一世代目のモンスターを除けば、地上にいるのはみんな生物だって覚えておけばよさそうだね。


「さらに補足すると、現在人間が家畜として育てている羊や牛にも、その多くにはモンスターの血が混ざっているわ。つまり、人類にとってより都合がよくなるように昔の人が改良したわけね。最初期の神々の恩恵の時点で、もう配合の方法や優良なモンスターの情報が齎されていたそうよ」

「へー。んじゃ、500年前の馬とかって今より足遅かったのかな?」

「鳥もそんなに卵を産まなかったかもしれませんね」

「身近な動物も今と昔でまったく違う姿をしてるかもしんねーってことか」

「基本的に近縁種とのあいだにしか子孫は残せないから、そこまでかけ離れた姿かたちに変化してはいないと思うわ。

 ただ、ちょっと怖い話、モンスターの血が混ざっているのは人も同じだって説もあったりするのよね。ダンジョンが最初に攻略される遥か昔、人間に近いタイプのモンスターがダンジョンから連れ出されて、私たち人類の先祖と混血が起こったんじゃないかって」

「興味深い話ですね。つまり本来、人類はより種族の少ない生物であった可能性があるってことですか」

「それなら俺たちノーマルの先祖が、エルフやドワーフなんかと延々と争ってたって話も頷けるな。モンスターの血が色濃い相手を、同じ人間とは認めなかっただろうからな」

「その時代は互いに言葉も通じなかったって話ですもんね」

「何事も平和が一番だよ」

「ぴぐぅ~」


 最後にしもふりピンクさんが鳴いて一段落。

 いろいろと勉強になる話も終わって、ユイはまとめに入った。


「話が少し逸れてしまったけど、そういうわけで調査の結果、この子はモンスターじゃないという結論よ。

 個体の判別名称もただの〝豚〟で、ステータスも調べたけど人の脅威になる存在じゃないわ。テイムされたモンスターでもないし、野生化した一世代目でもない。早い話、ギルドに対して報告や届け出は一切不要よ。もし飼うならば、自分たちの判断で責任を持ってやってくれればいいわ」

「よかったー。しもふりピンクさんはやっぱいいブタさんだったんだね」

「しもふりピンクって……もしかして、それがこの子の名前?」

「えへへ、そうだよ。いい名前でしょー?」

「ぴぐぅ~」

「……」


 ユイからの返答はなかった。

 これはきっと閉口するほどに、すばらしいネーミングセンスだったってことだろうね、うん。


 しもふりピンクさんを普通に飼えることもわかったので、私たちは教会に戻ると今後について相談した。


「んじゃ、キノコについては折半ってことで。契約書はまたぺティーにお願いしとくよ」

「わかった。あとで先生に取り分とブタの件は伝えとく」


 トリュフの収穫やキノコが好物らしいということもあって、悲しいけどしもふりピンクさんは教会のほうで預かってもらうことになった。

 家から教会までの移動もあの小さな身体じゃ大変だろうし、そっちのほうがしあわせに暮らせるならばという泣く泣くの判断だ。

 とりあえず栽培所に続く階段の隣に、しもふりピンクさん専用の赤レンガの小さな家も作ってあげたし、環境に問題はないはず。


「あと栽培所はどうしようか? またモグラストレージ状態にしちゃう?」

「あ、いえ、キノコと共生していると木の寿命もかなり短くなってしまうそうなので、その辺は様子を見ながらやっていこうかと」


 とりあえずは収穫と販売を繰り返して、キノコが少なくなってきたらまた栽培所の時間を進めることになった。


 そして、その日のうちにしもふりピンクさんと一緒に明日売る分だけの収穫を終え、商品をモグラ屋さんの倉庫まで運んだ。

 閉店後、スーザフさんに相談に乗ってもらった上で価格を決定。

 夜のあいだに売り場を確保して商品を陳列しておいた。



「――新商品のモグラ栽培所で採れたキノコだよー! 安いよ安いよ~!!」



 翌日、私も売り場に立って客引き。

 初日から上々の売れ行きを記録した。

 ただし、トリュフに関しては料理人らしき数名のお客さんが少量を買っていってくれただけだったので、さらに翌日からは試食販売で攻勢に出ることに決める。


「ご主人様、トリュフは薄くスライスして他の食材と合わせたり、細かくしてソース等に使うのが最良にございますよ。試しに何品か私とオルルガで作ってみましたので、ご賞味くださいませ」

「どうぞ……」


 シホルに相談したら、それならピュアーノさんとオルルガさんに訊いたほうがいいよということだったので、ヘンリーから分けてもらったトリュフを渡したらシンプルなものから手のこんだ料理までいろいろと作ってくれた。


「んっ、すごくいい香り!? てか、このオムレツめっちゃおいしい!!」

「トリュフには他の食材の魅力を引き立てるスパイスに近い効果がありますので、うまくバランスを組み合わせることで食材同士相乗効果を生み出すことができます」

「そっかー。やっぱ丸ごと焼いて食べる物じゃなかったんだね」

「丸ごと……」


 2人ともシホルが認めるだけあって、料理の腕も知識もすばらしいものを持ってた。

 それでも、手のこんだ料理は店頭で再現できないので、試食品は無難にトリュフのオムレツを出すことにする。


 次の日、シホルにも手伝ってもらって、しもふりピンクさんにも試食コーナーで客寄せをしてもらった。

 当然ながらどちらも大好評。店頭にはいつも以上のお客さんが押し寄せてきた。特にしもふりピンクさんは子供に大人気。このままお店のマスコットとして認定したいぐらいだった。


「なんならお店の名前も〝ブタ屋さん〟に変えちゃおうかな」

「ぴぐぅ~」


 なんて思ったけど、いや、ブタ屋さんって……。

 下手したら養豚場と間違われそうなので、さすがにすぐに思いとどまった。



「――本日もご来店ありがとうございました!」



 今日も1日、千客万来。

 きっと、明日も明後日も。


 達成感の中、閉店後みんなで教会へ移動。

 ウチの家族にお店の関係者、そして教会の子供たちも含めて、一昨日から予定してたキノコパーティーを実施。参加者全員たくさんのキノコ料理を味わってこっちも大盛況のうちに幕を閉じた。


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