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118.もぐらっ娘、メイドさんとお店へ。


 自己紹介も終わったので、家チームの5人のメイドさんたちはシホルに任せて、私は残りの巨にゅ――店チームのメイドさんたちと一緒にモグラ屋さんへ移動した。

 閉店間際のタイムセールで混雑してる1階はとりあえず後回し。2階の状況を見てくるというスカーレットと別れて、会計所で接客中のソフィアに目配せしながら先に地下へと向かう。

 売り場では私の指示どおりに、ミニゴブリンたちが新商品の陳列作業を進めてくれてた。


「本当にゴブリンが働いて……あ、あの、これからよろしくお願いします」

「キッ?」


 副メイド長のチェーロさんが恐る恐るといった感じで、作業中のアカリンたちの顔を順番に覗きこみながら挨拶していく。でも、何がよろしくなのか、ミニゴブリンたちは今一ピンときてないみたいだった。


「ほら、こないだいったでしょ。今日から一緒に暮らすことになるメイドさんたちだよ」

「キキ~?」

「そーそー。んで、ここにいる人たちはお店でも働くから、みんなの同僚だね」

「「「キー」」」


 どうやら理解してくれたみたいだ。

 アカリンたちは一度作業を中断してチェーロさんを取り囲むと、その場で一斉にペコリとお辞儀をした。


「これはこれはどうもご丁寧に」

「とっても可愛いわね、トロン」

「そうね。とっても可愛いわね、トラン」

「うぅ、私はちょっと怖いかも。昔のトラウマが……」

「子供の頃、野生のゴブリンに追いかけ回されたって話ね」

「うん。この子たちよりももっともっと大きくて、人の倍はあったけど」

「それゴブリンじゃなくてオーガだったんじゃない? というか、あんたよく助かったわね……」

「心配無用だ、ユーフォ。こんなに友好的なモンスターが人に危害を加えるはずがないさ。ほら、見てみろ」

「キー」

「おー、握手してる」

「本当にすごく頭のいい子たちなんだね」


 双子のトランさんとトロンさん。

 3人で仲良く話してるユーフォニアさんとスーザフさんとホルームンさん。

 残りのメイドさんたちも各々ミニゴブリンたちの傍にきて、積極的に挨拶を交わしていく。


「あれ、そういえば……ねーねーアカリン、ルシエラは?」

「キキー」

「そっか。まだ寝てるのか」


 夜のスクロール作りに備えて仮眠室でお休み中らしい。

 メイドさんたちに紹介しようと思ったけど、無理に起こすのもかわいそうだし、またあとでだね。


「ご主人様、この子たちの言葉がおわかりになるのですか?」

「んー、全部じゃないけど。ま、なんとなくね」

「うふふ、ご主人様は多彩な才能をお持ちの方なのですね」

「いや、そんなことは絶対にないけど……」


 アカリンにルシエラの居所を訊いてると、モニカさんとマリンさんが私を挟むように両隣にやってきた。

 2人とも副メイド長のチェーロさんと同じ金髪美人のお姉さんたちだ。なんか傍で少し話すだけでも妙に緊張しちゃうね。てか、大きい。何がとはいわないけど、ほんとにほんとに大きい。

 それになんかとってもいい匂い。

 そうか、これが大人の女性。

 魅力(フェロモン)ってやつだね。

 はふー。



「――んじゃ、みんなこれにぱぱっと着替えちゃって。あ、もしサイズが合わなかったらいってね。すぐ用意するから」



 フッフッフ……。

 ってことでモニカさんとマリンさんだけにとどまらず、この選ばれしメンバーならば、さぞあの特注ユニフォームも似合うことだろう。

 私の悪魔的狙い。

 真の夢。


 かくして、それらはピタリと的中し、叶った。



「――あのご主人様、こちらの衣服……些か布面積に問題があるような気がするのですが……」



 そう。

 やはり、私の人選に狂いはなかったのだ。


「問題なんてないよ! すごく似合ってますよ、チェーロさん!!」

「し、しかし……私のような年長者がこのような格好……さ、さすがに……」

「副メイド長、私も似合ってると思いますよ」

「副メイド長、やっぱりスタイルいい人はなんでも似合うし、歳は関係ないですよ」

「副メイド長、あなたは今最高に輝いている。本当に美しい」

「スーザフ、ユーフォニア……ホ、ホルームンまで……! あ、あなたたちはこの格好が恥ずかしくないのですか!?」

「お店のユニフォームならしかたないかと」

「あはは……たしかにすごい大胆だけど、かわいいといえばかわいいですし」

「自分はひらひらした服は似合いませんので、できれば燕尾服を所望したいところではありますが、ご主人様に用意していただいた物ですし、異論は――」

「燕尾服? スカーレットの執事さんが着てるようなやつ? そっちのほうがいいなら用意しようか」

「……よ、よろしいのですか、ご主人様!?」

「うん。1人ぐらいそういう格好の人がいても面白そうだし」

「自分如き矮小な者の望みを聞いていただけるとは……心より感謝を申し上げます」

「あの、ご主人様……で、でしたら、私も服装の変更のご許可をいただきたく……」

「「却下」」

「スーザフ、ユーフォニア! あなたたちには伺ってません!!」


 そのあともしばらくチェーロさんは抵抗してたけど、結局、孤立無援なことを悟って最後にはポッキリといろいろ折れた。

 実際、モニカさんもマリンさんもけっこうノリノリな感じだったし。双子のトランさんとトロンさんは(表情の変化が少なくてちょっと何考えてるか読めなかったけど)鏡要らずで向かい合った上で、同じ色っぽいポーズを取ったりまんざらでもない様子だった。


 てか、チェーロさんはあれだね。厳格そうなコントーラバさんとは違って、どこか穏和でふんわりした感じ。

 たぶんこっちのチームのリーダーがコントーラバさんだったら、ここまでゆるっとした雰囲気にはなってない気がする。決してコントーラバさんが悪いってわけじゃないけど、これからお店で働くってことを考えたら人選としては適材適所だったかも。仕事中ずっと張り詰めたままだと、絶対疲れちゃうし。


「――メイドさんたち、みんなかっこいい!!」

「フッフッフ、でしょ~?」

「おとなの女の人って感じ! 特にこのお姉さん!!」

「え、私ですか……?」

「うん! すごい艶かしいよ!!」

「ナ、ナマッ!?」


 閉店後、1階に上がってソフィアたちにも紹介。チェーロさんが顔を真っ赤にしたり青ざめたりしてたけど、特に問題なく終了。

 そのまま私たちは2階に移動した。


「――エミカ、準備はできてましてよ」


 喫茶店をオープンする予定の2階では、スカーレットと執事さんたちがもう営業に必要な器材の用意を終えてた。

 ティーカップとかの食器類は地下の在庫の一部を流用。

 洗い場含め、水回りの設備もすでに設置済み。

 採れたての果物をすり潰すため、風の魔術印とカッターを組み合わせた〝ジューサー〟も王都の魔道具屋さんから数台購入してる。

 まずは紅茶の美味しい淹れ方、それとジューサーの使い方をメイドさんたちにはマスターしてもらう予定だ。


「紅茶もジュースもわたくしと執事たちの判断で選びましたけど、本当によろしかったんですの?」

「うん。紅茶の良し悪しなんて私にはわからないし、2階はスカーレットの担当だしね。任せるよ」

「わかりましたわ。では、予定どおりお客さん第1号はエミカにやってもらいますわよ」


 というわけで、スカーレットの選んだ紅茶とジュースをまずは私が試飲。紅茶は香りがよくてどれも美味しかったけど、ジュースはなんか生温くて微妙。なので、保冷器を用意して冷やした物を販売することにした。


「氷があれば便利なんだけどなぁ」

「真冬じゃありませんし、氷なんて〝人魚族〟でもいないと作れませんわよ。それより、お値段を決めないとですわ。1杯いくらにしますの?」

「んー、100マネンぐらいでどう?」

「安すぎませんこと?」

「んじゃ、200?」

「適当すぎますわね……」


 正直、喫茶店で儲けようとは思ってないので、価格のことまで深く考えてなかった。

 なんで、とりあえず保留。

 そのあと喫茶店オープン初日の担当者として、チェーロさん・ユーフォニアさん・ホルームンさん・モニカさん・マリンさんの5人を選出。

 彼女たちには集中的に2階の仕事を覚えてもらい、残りの3人には先に1階と地下の仕事を覚えてもらうことになった。


「んじゃ、そろそろアカリンたちも並べ終えてるだろうし、下いこっか」

「「了解しました」」

「はい。仰せのままに、ご主人様」


 双子のトランさんとトロンさん。そして、ほっぺのそばかすが特徴的なスーザフさんと一緒に地下へ戻る。

 売り場では武器に防具、食器や鍋などの新商品がきれいに棚に並べられてた。


「みんな、お疲れ様。今日はもう戻って休んでいいよ」

「「「キー!」」」

「あ、家にもメイドさんたちがいるから、驚かせないようにゆっくり登場してあげてね」

「「「キキー!」」」


 労ってミニゴブリンたちを帰宅させたあと、スーザフさんたちに会計に関する基本的な決まりごとを説明。特にスクロールなんかは利益配分がごちゃごちゃしてるので、商品タグの保管や販売の記録方法は念入りに伝えておいた。


「ところでご主人様、食器類に値札がついていないようですが?」

「あー、日用品コーナーの価格はまだ決めてないんだよね。もう面倒だから皿は1枚いくらとか、カップも1個いくらとかで全部種類ごとに固定しちゃおうと思ってるんだけど」

「……え? これら棚にある物すべてをですか?」

「そのほうが売るのも楽だと思って。変かな?」

「あ、いえ、変といいますか……その、私のような者が出しゃばるのも気を悪くされると思うのですが」

「気づいたことがあるならなんでも遠慮しないでいってね。私だけのお店じゃなくて、みんなのお店でもあるわけだし」

「……はっ。それでは、まずこちらのティーセットやこちらの銀の食器類もそうなのですが、もはや鑑定するまでもなく明らかに価値の高い物ですので、しっかり価格に差をつけるべきだと愚考いたします」

「んー。でも、白いシンプルなお皿も花柄のソーサーも、作るのに手間はそこまで変わらないよ?」

「へ?」

「え?」

「……あ、いえ、失礼しました! その……まず製作コスト云々の話ではなく、そもそも同種の価値の高い物と低い物が同額であった場合、価値の低い物は売れなくなってしまいますので」

「あ、そっか。みんなきれいで高そうなやつばっか買っていっちゃうか。そんで安そうなやつは売れ残ると……」

「はい。物には物の適正価格がございます」

「うーん、それならそれぞれいくらぐらいにしようかな。てか、なんか価格設定で苦しんでる気がする。こないだも武器の値段決めるだけで大変だったし」

「……ご主人様、それならば差し出がましいのを承知で申し上げますが、ぜひその役目、自分にお任せいただけないでしょうか」

「え、スーザフさんに?」

「はい。これでも商家の生まれでございますので、多少は物を見る目やスキルも備わっております故」

「ご主人様、スーザフは私たちメイドの中でもお金にうるさいことで有名です」

「ご主人様、スーザフは早い話が守銭奴です」

「ぐっ、ずっと静かだと思ったらこの陰険双子……また余計なことを……! ご主人様、どうかこの者たちの妄言は鵜呑みになさいませんようお願いいたします!」


 はへー、スーザフさんって商人の娘さんなんだ。

 そんで守銭奴と。

 ふむふむ。


「んじゃ、お願いするね」


 その場でちょっと考えたあと、スーザフさんの申し出をありがたく受けることにした。物を知らない私が適当に決めるよりは、専門家に任せたほうが絶対にいいだろうからね。

 ってことで食器や鍋をはじめ、一度確定した武器や防具の値段も全部見直してもらった。


「――ご、ご主人様! この剣と槍と盾……いえ、ほとんどの武器防具はすべて価格を倍にした上、ゼロを1つ付け加えるべきです!」

「え? いくらなんでもそんなに高くして売れるかな?」

「絶対に売れますし、販売利益も高くなりますのでご安心を。いや、というかですね……在庫量も考えますとこの価格で販売した場合、近隣の武器防具屋をはじめ、やがてはこの王国すべての鍛冶職人を廃業に追いこむことになるかと……」

「えー、またまたー。いくらなんでもそれは大袈裟でしょー」

「……」

「え? マジで?」

「はい、残念ながら……」


 なんかちょっと怖いことを真顔でいわれたので、とりあえずスーザフさんの助言どおり武器防具の価格は20倍にした。


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