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117.もぐらっ娘、メイドさんを雇う。


 家の改装に踏み切って2日後、メイドさんたちがやってくる日。

 朝からまた妹たちは教会へ、ミニゴブリンたちもモモリン含めて今日はみんなモグラ農場やお店の手伝いにいってもらってる。

 午前中に家の周囲の柵づけと門作りを終わらせて、大工屋さんや裁縫屋さんに頼んどいた家具やマットレスなんかも届いたので各部屋に設置。やることもなくなったので、トイレやお風呂場の最終チェックでもしようと外に出たところ、柵の向こう側でちょうど馬車から降りようとしてるスカーレットと目が合った。


「エミカ、みなさんを連れてきましたわ」


 我が家の前に停車してる2台の馬車からは、ぞろぞろと若いメイド服姿の女の人たちが降りてきて一同に整列していく。

 そして、不思議そうに辺りをキョロキョロしてる白髪のメイドさん1人を除いて、みんな私に向かって深々と頭を下げてきた。


「……何をボケッとしているのです、イオリ! 貴女も早く新しいご主人様にご挨拶をなさい!」

「あっぶぇ! い、痛いっすよぉ~、メイド長ー!」


 あ、白髪の人も隣の黒髪の女性(たしかメイドさんの中で一番古株の人だっけ?)に頭つかまれて無理やりお辞儀させられちゃってる。

 てか、一度面接はしたけど、まったく顔と名前が一致しない。やっぱ、さすがに13人は多すぎたかな。

 ま、ゆっくり覚えていくけどさ。


「えっと、とりあえずさっそく家を案内しますんで、みんな私についてきてもらっていいかな?」

「はい、ご主人様の仰せのま――」

「――えっ、この小さな家の中にっすか!? 全員は入れないと思うっすよ」

「こらっ、イオリ!」

「あぐぇ!!」


 ゴンッという鈍い音。

 手加減なしのゲンコツがイオリっていう白髪ショートカットのメイドさんに炸裂した。

 うっわ、痛そう……。

 てか、思い出したよ。この人あれだ。面接の時、1人だけやたらとあれこれ訊いてきた人だ。質問される立場なのに逆に質問攻めにしてくるもんだから、他のメイドさんたちと明らかに毛色が違う印象を覚えたっけ。


「ご主人様、大変失礼いたしました。これにはあとで自分がしっかり教育をしておきますので、どうか寛大なご処置を……」

「いやいや、そんな畏まらなくても。それに、こんなに大勢入れないって思うのが普通だろうし」

「お、もしや! 魔術で迷彩してて実は中はめっちゃ広いとかっすか!?」

「んー、それとはちょっと違うけど。ま、入ればわかるよ」


 そういってメイドさんたちを家の中まで案内する。そして、なぜかスカーレットも興味を引かれたらしい。彼女はどこか楽しげな様子で私の隣に並んでついてきた。

 そのまま総勢15名で地下の大広間へ。

 階下に到着すると、全員がそろって驚きの声を上げた。


「――こ、これは!?」

「うっは、なんすかこれ! すごいっす!!」

「ふはぁ~、地下室なのに前の邸宅のどの部屋よりも広いわね……」

「そ、それに、とっても綺麗です……!」

「本当に美しい。まるで祖国で見た宮殿の一室のようだ」

「というかあの水晶のシャンデリア、一体1ついくらするのかしら……」

「ものすごい広間ね、トロン」

「そうね。ものすごい広間ね、トラン」

「うわ、すっごい……」

「なるほど。エミカの家って、地下はこうなってましたのね」

「ここは昨日改築したばっかだけどね。今んとこ地下2階まであるよ」

「2階も!? ご主人様、早く探検したいっす!!」

「んじゃ、これから順番に案内してくね」


 大広間から、まずは私たちの部屋がある南側に移動。

 そのまま一度地上に戻って、トイレ小屋と露天風呂を見学。

 続いて地下2階に下りて訓練場と地下農場。そして最後に24室あるメイドさんたちの部屋をざっくりと回った。


「あの、ご主人様……我々に個室を与えてくださるのですか?」

「ん? もちろん。そのために作ったんだし。でも、奥のほうはちょっと移動が大変だから、部屋割りはみんなで話し合って決めてね。ミニゴブリンたちは近いとか遠いとか、たぶんそんなの気にしないだろうけど」

「ゴ、ゴブリン、ですか……?」

「このお屋敷はモンスターも飼ってるっすか!?」

「飼ってるというかもう家族の一員だね、あの子たちは。だからみんなも怖がらないで仲良くしてあげてね」

「うっは、なんて美しい博愛の精神っすか!? 決めたっす! もう一生ついていくっすよ、ご主人様! なんなら結婚してく――あぶぎぇッ!?」


 ゴンッという鈍い音。

 さっきより凄まじいメイド長さんのゲンコツが炸裂した。

 てか、イオリってメイドさん、今度は唸りながら頭押さえて床を転げ回ってるし。ほんとに痛そう……。


「度重ねてのご無礼、メイド長として誠に恥じ入るばかり。この者の再教育――いえ、処罰は後ほど必ず自分が執行いたしますので、どうかお許しを……」

「えっと、別に怒ってないよ?」


 もしかして、冗談も受け流してくれない頑固者に見えちゃってる? だとしたら、ちょっとショックだ。


「それよりさ、何か足りない物があったり不便なことがあったら遠慮なくいってね。生活しながら改善して、もっともっと環境は整えていくつもりだから」

「……お気遣いありがとうございます、ご主人様。我々一同も誠心誠意、キングモール家のメイドとして奉仕することをこの場にて固く誓わせていただきます」

「うん。みんないきなり住む場所も変わって大変かもだけど、力を合わせてがんばろうね」

「はっ! 先ほどから我々にはもったいなきお言葉、恐悦至極にございます」

「では、ご主人様、さっそくではありますが我々に仕事をお与えいただきたく。まずは本日のご予定をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「んと、あともう少ししたら妹たちが帰ってくるから、それでみんなを紹介して、そのあとお店で働く人はお店へ、家事を手伝う人はこの家に残ってもらうって感じかな?」

「エミカ、それでしたら今のうちにメイドたちを2つのチームにわけておくとよいですわよ」

「あ、そだね。んじゃ、紅茶でも飲みながら決めようか。私、台所でお湯沸かしてくるよ」

「ご、ご主人様っ!?」

「お茶は我々でご用意いたしますので!!」

「あー、いいよいいよ。どこに何があるかわからないだろうし、今日は私が淹れるよ」

「それでしたら、せめて手伝いをさせていただきたく思います! ピオラ、ご主人様のサポートを!」

「……え? あ、はい!」

「ピオラがいくなら私もいくっす!」


 結局、メイド長が気を利かしてくれて、若いメイドさん2人と一緒に台所でお茶の用意をすることになった。


「あの、ご主人様、ティーカップはどちらの棚に……?」

「あ、そうだった。ちょっと待っててね」


 紅茶を淹れてる途中で、我が家にティーカップなんておしゃれな物は数えるほどしかないことに気づいた。なので、台所の隅っこでクリエイト。

 せっかくなのでゴージャス&ハイクオリティーをイメージして、貴族っぽさを漂わせてみた。


「はい。これ使って」

「え!? うわっ、すごい綺麗なティーセット……!?」

「いや、それより今どこから出したんすか!?」

「フッフッフ……秘密」

「ピオラ、ちょっと見せるっすよ! きっと何かしかけがあるに違いないっす!!」

「ダ、ダメだよ、イオリちゃん! これは私がご主人様から……」

「ちょっとぐらいいいじゃないっすか、ほら貸すっすよ!」

「あ、ダ――」



 ――ガチャン!



「「あっ……」」


 あーあ。

 揉み合いになった弾みで、ピオラっていうメイドさんがティーカップを1つ落としちゃった。

 台所の床には割れた白い陶器の破片が散らばってる。


「あわわ……も、申しわけございません! 主人様っ!!」

「ちゃ、ちゃんと弁償するっす! いくらっすか!?」

「あー、大丈夫。すぐ直せるから」


 私は散らばった破片をモグラクローで掃除すると、追加でもう1組さくっと同じティーカップとソーサーを作った。


「ケガしたら大変だし、次からは落とさないように気をつけてね」

「……え? あ、はい! お手数をおかけして申しわけありませんでした!!」

「なるほどっす! ご主人様は手品が得意なんっすね!?」

「ま、そんなとこだね」


 2人に爪の力を説明してもたぶん理解してもらえないと思うので、その場は手品ということにしといた。

 そのまま大広間の食台に人数分のティーカップと、紅茶の入ったいくつかのティーポットを運んで、みんなで一服。

 メイド長のコントーラバさん、副メイド長のチェーロさん、そしてスカーレットの意見を中心に交えてメイドさんたちのチームわけを進めた。


「モグラ屋さん2階で喫茶店をやるとしたら、最低でも5人は人員がほしいですわね」

「それにプラスして、1階と地下でも常時合わせて3人ぐらいヘルプに回れる人がいたら安心かな?」

「では、お店側に8名、そして残りの5名がこのお屋敷で家事を担当するということでよろしいですね。人選はどういたしましょう?」

「コントーラバさんから見て、接客が得意そうな人っていたりします?」

「基本的に皆しっかりしておりますので、能力的には問題ないかと。ただ、唯一イオリだけは不安ですが……」

「んじゃ、ずば抜けて家事が得意な人とかは?」

「皆、料理スキル含めましてメイドとしての基本技能はたしかなものを持っております。ただ、それもイオリを除いての話ではありますが……」

「……」


 えっと、だとしたらイオリさんはどっちのチームに入れたらいいのかな? 肝心の本人は話し合いの輪には参加せず、飾られてるプレートアーマーをなんか目を輝かせて見てるけど。


「――では、自分がこのお屋敷を。チェーロがお店を。それぞれ担当するということにさせていただきます」


 そのあとさらに話し合った結果、それぞれにリーダーを置くため、メイド長のコントーラバさんと副メイド長のチェーロさんには別のチームになってもらうことが決まった。


「んじゃ、あとのチームわけは私がフィーリングでぱぱっと決めちゃうね」


 というわけで、組みわけはこんな感じになった。



 【家チーム】


  ・コントーラバさん(メイド長)

  ・ピオラさん

  ・イオリさん

  ・ピュアーノさん

  ・オルルガさん



 【店チーム】


  ・チェーロさん(副メイド長)

  ・トランさん

  ・トロンさん

  ・ホルームンさん

  ・ユーフォニアさん

  ・スーザフさん

  ・マリンさん

  ・モニカさん



 組みわけは適当と見せかけといて、実は規則性があったりする。

 ただ、あまりの非情采配に私が非難される可能性があるので、メイドさんたちには絶対明かせない秘密となった。

 ま、元からそういうつもりじゃなくて、副メイド長のチェーロさんがとってもご立派な()()をお持ちだったからこそ、自然に引っ張られてそうなっちゃっただけなんだけどね。

 うん。

 つまり、私は何も悪くないよ。

 平等じゃない神様が悪いんだ。



「――ご主人様、私にはわかるっす」

「え、何が?」



 そのうちシホルたちも帰ってきて、改めてメイドさんたちが順番に自己紹介をしていると、なんか不意に耳元でイオリさんが囁いてきた。


「えげつないチームわけのことっす」

「……」


 そういってニッコリと自らの平らな胸元をまさぐるイオリさんに、私も無言のまま引き攣った笑顔を返した。


 なるほど。

 この人、けっこう侮れないね。


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