115.もぐらっ娘、また家を改築する。
はい。
というわけで、ローズファリド家のお屋敷で面接を終えてきたよ。
元ポポン家のメイドさんたちは礼儀正しくて、そんでもってみんな若くて綺麗だった。全員家事もできる上、モグラ屋さんでも働いてくれるって。だから、即決で彼女たちを雇うことに決めた。
そして、私はアリスバレーに戻って颯爽と帰宅――
「――で?」
「え、えっと……メイドさんの年齢は10代後半から20代中盤ぐらいで……あ、そうそう! スカーレットからどんな説明受けてたのか知らないけど、なんかみんな私のこと偉い人だと勘違いしててさ、もう誤解を解くのが大変でまいっ――」
「そんなことはどうでもいいんだよ! オレはさっきからそのメイド連中を何人雇ったんだって訊いてんだろうが! さっさと答えやがれ!!」
「あ、いや……その件につきましては、なんと申し上げますか、その……」
「エミ姉、怒らないから正直にいって」
「うぅ……ほ、ほんとに怒らない?」
「うん」
「ほんとにほんとに!? 絶対っ!?」
「うん」
「な、なら、 ですけど……」
「はぁッ!? 13!? おまっ、今13人ていったか!? バカか! バカなのかお前は!?」
「だ、だって! みんな礼儀正しくてしっかりしてて、あの中から何人か選ぶなんて申しわけなくて……! そ、それに、この前の家族会議でもパメラもシホルも雇っていいっていってたから!!」
「アホか! そりゃー1人か2人ならって話だろうが! いきなり13人も同時に雇い入れるバカがいるか! 予測不能すぎるわ!!」
「うわぁ~~ん! 怒らないっていってたのにパメラが怒るよぉ~~!!」
「オレは約束してねー! てか、もうとっくにブチ切れてるわボケ!!」
「うわぁ~~~ん!!」
「……えっと、とりあえずエミ姉もパメラさんも、ちょっと落ち着こうよ。ね?」
リリを除いた本日の家族会議。
重大発表後、軽く修羅場に陥ったところで仲裁に入ってくれたのはシホルだった。
「エミ姉、雇用の約束を今からなかったことにはできないの?」
「……わ、わかんないけど、もろもろ条件も決めて契約書も結んじゃったから、たぶん……。それにスカーレットにも無理いって予定を繰り上げてもらった手前、今さら反故にもできないといいますか、はい……」
「そっか、ならもうしかたないよね。こっちから約束しちゃったことだし」
「おいおい、そんなあっさり認めていいのかよ? いきなり赤の他人が大勢この家に住むことになるんだぞ……?」
「んー、家事も分担すればいいし、私は特に文句はないかな。それにミニゴブリンさんたちもパメラさんもそうだけど、さかのぼればリリだって元々はこの家にいなかったわけだし」
「そうか。お前、今までも散々こいつに振り回されて……」
「あはは、もうそんなの慣れっこだよ。それに振り回されてきたのはパメラさんだって同じでしょ? ほら、お姉さんも妹さんもたくさんいるって、前にいってたから」
「あー、一番上や一番下ならともかく、ちょうど真ん中に挟まれるってのは最悪だって話をした時のことか」
「姉も妹もどっちもやらなきゃいけないのが、なんか慌ただしいんですよね」
「それなー。姉連中はいいように扱き使ってきやがるし、結局なぜか真ん中が妹連中の面倒まで全部見るハメになるんだよな」
「つくづく損しますよね」
「本当なー」
「………………」
なんか意気投合してらっしゃる妹様たち。
一番上の姉である私は会話に入っちゃいけない雰囲気なので、モジモジしつつ無言のまま2人の会話が終わるのを待つ。
「――あ、でも、ウチにそんな大勢が寝られる場所ないよね。ミニゴブリンさんたちみたいに訓練場でってわけにもいかないだろうし……その辺はどうするつもりなの、エミ姉?」
「よくぞ訊いてくれた、我が妹よ!」
しばらくしてようやく話が本題に戻ったので、私は今後の計画を伝えた。
「ズバリ、また家を改築します!」
「……たしかに、一気に13人も増えるならそれしかねぇが、そんなポンポン地下を拡張して大丈夫なのか?」
「すでにアラクネ会長からも許可はもらってるし、抜かりはないよ!」
「でも、お風呂とかおトイレは? やっぱりいきなり13人も増えたら大変なことになると思うけど」
「フッフッフ、それも大丈夫! ちゃんと考えてあるからこの頼れるお姉ちゃんに全部任せておきなさい!!」
「うっわ、すっげー不安」
「無茶だけはしないでね、エミ姉」
「それと捕まるようなこともな。絶対すんなよ」
「あ、はい……」
というわけで長女としての威厳を取り戻すべく、メイドさんたちがやってくる明後日までに家の改築を済ますことになった。
「おーし、やるぞー!」
「「「キキー!」」」
翌日、教会で授業のある日だったので妹たちは朝から外出。みんなが出かけたあと、私はミニゴブリンたちと作業を進めた。
手はじめに地下1階の改築から取りかかる。
一度私物やインテリアを訓練場に移動させて、家具なんかもしまえる物は全部モグラの爪の中へ。
現状、地下1階には居間と私たちの部屋があるけど、さっそくすべての壁をぶち抜いてさらに周囲を拡張。この下にある訓練場の1.5倍ほどの大きさになったところでストップ。
今後、この空間は大広間(食堂)として使うことにする。
横長の大広間の中心に、長大なダイニングテーブルをモグラウォールで一気に作ったあと、モグラメタルでクリエイトした背もたれつきの椅子を並べていく。全部で30席近く置けた。
インテリアとしてはやっぱ木の椅子を使いたかったけど、とりあえず今はこれで仮置き。
次の作業に移る。
「この辺がちょうど真ん中だね」
続けて大広間の南の壁(地上に続く階段の向かい側)を掘って、まっすぐ通路を伸ばしていく。
そのまま西側に実質2部屋分の広さでシホルとリリの部屋を。
東側の大広間から近いほうにパメラの部屋を。
東側の大広間から遠いほうに私の部屋を。
それぞれ作った。
「前よりちょっと広くなっちゃったか。ま、大きい分にはいいよね」
以前だったらこれで内装作業をして終わりだったけど、今回はプライバシーに配慮して入口に扉をつける予定だったりする。
というわけで、私はさっそく新技を炸裂させた。
「――モグラドアー!」
説明しよう!
〝モグラドアー〟とは蝶番やドアノブ内部の構造をイメージした上、瞬時に扉を作製&設置する技である。
片開きなら最大縦幅2フィーメル×横幅1フィーメル。
さらに技を2度放ち、両開きにすれば最大縦幅2フィーメル×横幅2フィーメルのドアまで作ることができる。
固定化されてるのは部屋の壁と密着してる蝶番の半分だけ(扉側の蝶番とは軸芯棒で繋がってる)。そのため、たとえ扉を閉めてもモグラストレージ状態にならない安心安全設計。
また、付属の閂で内側から施錠も可能。
まさにどこからどう見ても普通の扉。
ちなみに引き戸タイプとかも作れたりする。
「――モグラドアー、モグラドアー、モグラドアー!!」
密かに練習してた革命的な新技で、各部屋の入口と大広間の南側通路口(こっちは閂なしの両開きにしてみた)にモグラメタル製の扉をぱぱっと取りつけていく。
あと、ついでに大広間と反対側の通路の行き止まりにも両開きの扉をつけて、その先に少し大きめの部屋を作っておいた。
勢い余ってなんとなくなので、用途は決めてない。
ま、もし使わなかったら倉庫にでもすればいいし。
「んじゃ、みんなあとはお願いね」
「「「キキー!」」」
大広間と各部屋の内装や家具を軽く整えたあと、モグラの爪にしまえなかった荷物の移動をミニゴブリンたちに頼んだ。
んで、一旦手の空いた私はそのまま地下2階へ移動。
地下1階から訓練場に直接繋がってる階段の前で少し考えた。
「んー、今のままだと毎回ここを通ることになるのか」
しばらく熟考した上で、地下2階の階段の位置を若干変えることにした。
西側にある訓練場と、東側の地下農場。
まずはそのあいだに新しく通路を作る感じで、左右の壁を掘ったり埋めたりの再工事。
完成した通路の一番北側の天井をぶち抜くと、大広間の北東の隅っこに出たからちょうどよかった。その位置に地下1階と地下2階を繋げる新たな階段を作り、前の階段は撤去。
地下2階の通路に下りて右手(西側)に進めば訓練場。左手(東側)に進めば地下農場ってな感じで設計し直した。
「あとはたくさん部屋を作れば、とりあえず地下はおっけーだね」
落ち着くのか日頃から訓練場を寝場所にしてるミニゴブリンたちだけど、せっかくなので今回はあの子らの部屋も作る予定だ。なので、少なくとも20部屋ほどは必要になってくる。
さっそく新しい階段を設置した方向とは反対の、南側に進む。
さらに掘って南方に通路を伸ばして、1部屋分の奥行きを確保したところで今度は一転ダダッと左右(東西)に通路を拡張。
西側に4室、東側に4室。
1列で合わせて8室作製。
さらにそれを3列繰り返して合計で24室作製。
13人+6体で合わせて最大で19室あれば十分だけど、一応多めに。
ちなみに部屋の扉は全部南側に設置した。
階段から遠い3列目の端とかは移動が不便だから人気薄になりそうだけど、その辺の部屋割りとかはメイドさんたちとミニゴブリンたちで決めてもらおう。
続けて休まず24室各部屋に寝台の基礎部分、クローゼット、机や椅子や箪笥なんかをクリエイトして設置。
大方の作業が終わったところで、私はもう一度地下を見回った。
なんか全体的にちょっとガラガラで、質素な感じ。なので、各所にクリエイトした陶器の壷やクリスタルのシャンデリアをインテリアとして飾ったり、事前に買っておいた絨毯や絵画なんかも敷いたりかけたりしてみた。
「やっぱ窓がないと陰鬱な気分になるよね。ちょっと自然の色がほしいかな」
そんな思いつきでモグラ屋さんに出向き、ソフィアに助言してもらって花も購入。陶器で作った花瓶に添えて各部屋を彩った。
あと、店の倉庫から持ってきたプレートアーマーなんかも大広間に飾ったり、剣や槍なんかも交差させて各所の壁に固定させたりと、ちょっとこだわってみた。
「あ、もうこんな時間か……」
結果、地下を掘ってた時間よりも、圧倒的に内装に費やした時間のほうが長くなってしまった。
「――わぁー、ひろくなってる~~!!」
でも、一応がんばったかいはあったみたいで、1人改築を知らされてなかったリリは帰ってくるなりものすごい喜んでくれた。
<キングモール家 -地下1階->
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┃ ┃階a 階┃
┃ ┗━┛ ┃C┃
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┃ ┃
┃ 大 広 間 ┃
┃ ┃
┃ ┃
┃ ┃
┃ ┃
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┃ ┃ ┃パメラ ┃
┃シホル ┃ D の ┃
┃ & ┃ ┃ 部屋 ┃
┃ リリ D ┣━━━━┫
┃ の ┃ ┃エミカ ┃
┃ 部屋 ┃ D の ┃
┃ ┃ ┃ 部屋 ┃
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┃ ┃
┃ ┃
┃ ???? ┃
┃ ┃
┃ ┃
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<キングモール家 -地下2階->
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┏━━━━━━━━━━┫階┣━━━━━┳━━━━┓
┃ ┃c┃ 倉 庫 ┃ ┃
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┃ ┃
┃ 地 下 ┃
┃ 訓 練 場 ┓ ┏ ┃
┃ ┃ ┃ 農 場 ┃
┃ ┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┃ ┃
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┃部屋┃部屋┃部屋┃部屋┃ ┃部屋┃部屋┃部屋┃部屋┃
┃西④┃西③┃西②┃西①┃ ┃東①┃東②┃東③┃東④┃
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┃部屋┃部屋┃部屋┃部屋┃ ┃部屋┃部屋┃部屋┃部屋┃
┃西⑧┃西⑦┃西⑥┃西⑤┃ ┃東⑤┃東⑥┃東⑦┃東⑧┃
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┃部屋┃部屋┃部屋┃部屋┃ ┃部屋┃部屋┃部屋┃部屋┃
┃西⑫┃西⑪┃西⑩┃西⑨┃ ┃東⑨┃東⑩┃東⑪┃東⑫┃
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