114.もぐらっ娘、さらにいろいろ量産する。
「――収容限界」
「んじゃ、保管用の倉庫作っちゃうね」
在庫で寝る場所もないというルシエラの苦情を受けたので、従業員スペースの奥に新たな部屋を作って、そこに量産した武器防具を移動した。
「おー、すごい! なんかワクワクするー!!」
保管用の棚に種類ごとに並べると、実に壮観。ちょっとした武器庫になった。
「でも、いくらなんでもちょっと作りすぎたかな……?」
ま、売れ残ったらまた爪に取りこんで再利用すればいいだけだし、問題はないか。
ただ、これ以上作ったらこの倉庫もすぐにパンパンになっちゃう。なので、私は次に予定してた食器類の製作に移った。
「白くて、小さなお皿っと……モグラリリース!」
試しに手のひらサイズの陶器の小皿を作ってみると、イメージどおりに真っ白なお皿ができた。なじみ深い物やシンプルな物ならお手本がなくてもいけるから楽だ。
続いて、お皿を着色できるか実験。
その結果、艶のある青色や深い赤色をはじめ、緑・黄・紫・朱・灰・黒など、色取り取りの陶器のお皿を作ることができた。
「はへー、こんな鮮やかな色も出せるんだね」
さらにステンドグラスっぽい物をイメージして、ガラスでも同じことができるか試してみた。
結果、7色のワイングラスが完成。
飾ってみると、もうそれだけで綺麗だった。
「指摘。安全性の不安」
「安全性? どこもヒビ割れたりなんかしてないよ?」
「否。エミカ、この着色はモグラの爪内部の様々な鉱物資源を用いて行われていると推測。そして、天然の鉱石の中には〝呪い〟を発する物質も多数存在する」
「……えっと、つまりこのまま食器として使ったら危ないってこと?」
「肯定。鑑定スキルで呪いの有無の確認を強く推奨」
鉱物が危険だってのはよくわからなかったけど、安全じゃないものをお客さんには売れない。なので、アイテム鑑定用のスクロールを使って色づけした物を片っぱしから調べてみた。
結果、鮮やかな赤いお皿と数色のワイングラスが呪われたアイテムとして表示されてしまった。
「ど、どどどうしようっ!?」
「……冷静に。一度爪の中に戻し、条件に〝安全性〟をつけ加えた上でリクリエイト」
ルシエラの指示に従ってそのとおりに赤い小皿を再度作る。若干鮮やかな赤色ではなくなったけど、呪いの表示は出なくなった。
一応、あとでモグラメタルのほうも調べてみたけど問題なし。
少しというか、かなりほっとした。
「よかったぁ~!」
毎日使う物だからこそ、安全性は大事。
そのことを念頭に置き、私は本格的な食器作りをはじめた。
まずは陶器で大小様々な皿や器、コップなどを量産していく。
〝シンプル&カラフル〟をテーマに1個ずつ、色と種類にわけて在庫を積んだ。
そのうち簡素なのも味気がなくなってきたので、食器の縁に絵柄や模様の入った商品も作った。
ちなみにデザインは全部、我が家のリリ画伯にお任せ。
ま、正確にいえば妹のお絵描きを私が清書したやつがもとなんだけど。
花とか蝶とか猫とか、横縞とか格子縞とか渦巻きとか、かわいらしくて独特なテイストのをいろいろと。
〝ユニーク&キュート〟をテーマに、さらに種類は増えた。
「ねえねえ、スカーレットの家の食器見せてくれない? 高くて綺麗なやつがいいんだけど」
「別に構いませんけど、あまり期待はしないでほしいですわ。本当に価値のある物はだいぶ前に売ってしまいましたから」
絵柄とか模様をつけるイメージにも慣れたというか、ちょっと面白くなってきたので、富裕層向けに高そうなティーカップやソーサーなんかも作ることにした。
でも、簡単な絵や図ならともかく、さすがに芸術的で且つ繊細なデザインは描けないので、スカーレットのお屋敷にあった美術品みたいに綺麗な食器を参考にした。
「んー、ここは縁を金色にしてみようかな。んでもって、受け皿のほうにも同じバラの柄を入れてっと……」
丸写しなら楽だったけど、今回は高級品ということでオリジナル性も加味。ちょっとがんばって独自にデザインしてみた。
そんな感じでティーポットなんかも作って、自信作のティータイムセットが完成。
そのまま花の種類や配色を変えたりして種類も増やしていく。
〝ゴージャス&ハイクオリティー〟をテーマに、また次々と新商品が生まれた。
てか、これ全部割れ物だし、商品として売るなら包装紙とか梱包材も考えないとだね。
「あれ? ねえ、スカーレット、このピッカピカなのは何でできてるの?」
「それは銀製ですわ」
最近買い揃えたばかりの物らしく、ものすごく輝いてて綺麗。
銀ならたぶん作れるので、細工そのままに1回クリエイトしてみるとまったく同じ物が作れた。お手入れが大変らしいけど、とても気に入ったので銀食器シリーズも製品化することに。ぱぱっと、スプーン・フォーク・ナイフ・トレイ・ケーキスタンドなどを作製。
色つきワイングラスなどのガラス食器シリーズも含めて、さらに倉庫は在庫の山で埋まっていった。
「あ、そうだ。シホルにも好評だったし、モグラメタル製の包丁やお鍋も売ろう」
そんな感じで武器防具に続いて、またちょっと作りすぎてしまった。
てか、元手がほとんどかかってない上、材料もおそらく無限に近いほどあるのでやめ時がわからない。
「侵食を確認」
「うっ……」
「じとぉー」
でも、また従業員スペースにまで在庫が溢れて、ルシエラに非難の眼差しで見られたのでついに自重を決意。
一旦量産を中止して今後のことをマジメに考えた。
「まずは販売するにしても、売り場の確保だね。地下をもっと拡大しないと……」
数日後には赤ワインの長期熟成物に加えて、白ワインにロゼ(ピンクワイン)なんかの新商品も入ってくる予定だったりする。
売り場の拡大はどっちにしろ必須だった。
「よっし! 遅かれ早かれ必要だし、また改装だー!!」
念のためアラクネ会長に許可をもらってから、閉店後に作業を開始。一旦、商品をすべて取り除いたあと、暗黒土竜の魔眼のスコープを下ろして、拡大予定の範囲に温泉の排出路がないことをしっかりたしかめた上で掘る。
そのまま階段から会計所までの距離(奥行き)は変えず、横へ横へ地下売り場を伸ばしていく。
やがて4倍ほどの広さになったところで、それぞれ2対1対1ぐらいの割り当てで部屋を区切った。
まず階段を下りて正面に、ワインやジャムなどの食品売り場。
左手側にスクロールや武器防具などのアイテム売り場。
右手側に食器や料理道具などの日用品売り場。
そんな感じで客層ごとにエリアを3つにわけて、それぞれの一番奥に会計所も設置した。
ちなみに一番奥は壁の仕切りを取り除いたので、地下の3つの会計はすべて横1列に繋がってる形だ。もし隣の会計所に用があった時、一度売り場を出て遠回りするのも面倒だからね。このほうが機能的なはず。
さらにそれぞれの会計の奥には扉をつけて、売り場と同じく横長に広げた従業員スペースにいけるようにしておいた(ルシエラの要望で簡易的な仮眠室も設置)。
そしてさらにさらに従業員スペースの奥側は、こないだ作った倉庫に繋がってる設計だ。
階段から売り場までの通路を広めにしたのもあって、そこに立つと地下に独立したお店が3つ並んでるように見える。
せっかくなんで会得した陶器製作や金属加工の力を使って、それぞれの入口に看板も設置。何を売ってるのか一目瞭然なので、とってもいい感じ。
そのあと照明を増やしたり、さらにそれぞれの売り場に適した内装や棚の配置なんかを考えたりしてると、あっという間に時間はすぎていった。
「よし、あとは商品を陳列すれば作業完――あ、いや、でもなぁ……」
売り場の面積が単純に4倍になったわけだし、このままオープンしたら地下は間違いなく大混乱に陥る。
ただでさえスクロールは未だにバカスカ売れてるわけだし、これ以上ルシエラに負担がいくのもまずい。
「やっぱ先に人手不足のほうを解消しないと、どうにもならないか」
とりあえず新商品のワインが届く数日後を目安に、地下の営業はそれまでまた休業することに。
そんでもって翌日、私はスカーレットに無理をいって以前から話してた例の面接の予定を繰り上げてもらった。











