113.もぐらっ娘、武器防具を量産する。
あれからさらに何度かダンジョンに潜って、地下21階層の別の鉱山も掘り尽くしてきた。地下30階層の水晶宮エリアにも足を伸ばしてクリスタルなんかも取りこんできたし、材料はもうこれで十分のはず。
んで、そのあいだ新商品開発も並行して進めてきたんだけど、いろいろと成果があった。
「丈夫で錆びなくて、そんで軽くてもっと硬い金属っと……モグラリリース!」
――ドンッ!
そんなイメージで新たに出現したのは銀灰色のブロック。
こないだクリエイトした硬い鉄のブロックとはまたちょっと雰囲気が違ってて、妙に異質な感じ。
試しに手のひらサイズのブロックにして両方の重さを比べてみたけど、鉄よりも明らかに軽くてびっくりした。
「ここまで重さが違うなんて……」
さらに検証を進めるため、さっそく新しく作ったこの金属でまずは包丁とお鍋を作ることに。
そもそも素材の『丈夫で錆びなくて軽い』って要望はシホルからあったもので、武器や食器を作るなら料理道具もお願いという話が発端だった。素材の特性として錆びなくて軽いって発想は私にはなく、このシホルの発言は武器や防具作りにも繋がる結果となった。
「――うわっ、この包丁すごい切れ味だよ! お鍋も普通のと比べてこんなに軽いのに丈夫!」
さっそく料理に使ってみてもらったところ、シホルの評価はこれ以上ないものになった。
最後に錆びないという点もクリアできてるかどうか、モグラストレージを使って実験。結果はまったく腐食しないというわけではなかったけど、普通の鉄鍋と比べて雲泥の差があることがわかった。
硬い鉄を上回る強度に、錆び難く軽い素材の誕生。
私はこの金属を〝モグラメタル〟と名づけることに決めた。
「よっし、まずは剣からだ!」
こないだ王都の冒険者さんに作ってあげたのと同じ要領で作製。試作品第2号である〝モグラメタルの剣〟の完成に至った。
「――あ? この剣を試せって?」
さっそくパメラに武器として問題がないかどうかチェックを頼んだところ、それならいい方法があるってことで、私たちは家の地下にある訓練場に移動した。
「この剣を支える台を作ってくれ。あー、支えるのは両端だけでいいからな。真ん中は空けとけよ」
指示どおりに腰の高さぐらいの台を2ヶ所作って、その上にそれぞれ剣先と柄の部分を置いた。
どうやらこれからこのモグラメタルの剣を、パメラの天賦技能の大剣で斬れるか試すらしい。なるほど、ほんとに優れた材質で作られた剣なら折れないってわけだ。
「いでよ、我が大剣――!」
次の瞬間、白い光の斬撃がまっすぐに振り下ろされると、パメラは私の期待を裏切る形でいとも簡単にモグラメタルの剣を両断した。
「ぎゃ~、私の自信作ー!!」
「……いや、なかなか悪くない手応えだったぞ」
私がヘナヘナと意気消沈してると、パメラは普通の武器としてなら申し分ない出来だと太鼓判を押してくれた。
「そもそも魔術付与されたアイテムでもなけりゃ、オレの大剣に斬れない物なんてないからな」
「ほぉ……」
でも悔しかったので、〝絶対に壊れない剣〟を作製して雪辱を果たしておいた。
「クッソ! なんだよこれ、魔剣か――!?」
絶対に壊れない剣のほうはパメラが大剣を何度振り下ろそうとも折れなかった。それどころか、衝撃そのものを全部吸収しちゃってる感じ。結局、最後まで台の上からビクともしなかった。
と、パメラの天賦技能に敵わなかったのは残念だったけど、戦闘のプロから一応の評価ももらえたので、モグラメタルの剣は正式に採用となった。
続いて王都やローディスのお店を回っては様々な種類の武器防具を買い漁り、シリーズ化に向けた準備を進めた。
実物を手に取って直接イメージするのと、想像だけでクリエイトするのでは完成度がまったく違ってくる。しかも型どおりに何個だって同じ物が作れて量産も可能。手本になる武器防具集めは非常に重要な工程だった。
「――モグラリリース!」
そして、モグラメタルの剣に続いて以下のアイテムが誕生した。
・モグラメタルの斧
・モグラメタルの棍棒
・モグラメタルの鎌
・モグラメタルのナイフ
・モグラメタルのシャベル
・モグラメタルのつるはし
それぞれ型にしたモデルは複数あるので、サイズやデザインを合わせると品数は武器の種類以上に豊富だ。ナイフなんて投擲用の短い物からけっこう大振りの物まで様々。
ただ、やっぱ1フィーメルっていうモグラリリースの限界範囲があるから、長物の武器が作れないってのはかなり歯がゆかった。
「むー、どうにかならないかなぁ……」
なんて思いながら両爪をウネウネしたりして試行錯誤してると、偶発的にイメージしてたロングソードが作れてしまった。
「――ふぇ!?」
何事かと思い、たった今やったことを振り返ってみると、答えはあまりにも単純明快だった。
「あ、そっか! 両爪で同時にリリースすれば!!」
モグラの爪は左右で2つ。
片方のリリース範囲の限界が1fm(高さ)×1fm(横幅)×1fm(奥行き)なら、両爪をくっつける感じで同時にやれば横幅は2fmまで伸ばすことができるという、なんて今さらながらの新発見。
「そういえば、モグラクローも左右同時なら一度に掘れる量は増えてた気が……」
思い当たる節もあったのに、なんでこんな簡単なことに今まで気づけなかったのか。
思わず自分で自分をつねってやりたくなった。
ま、痛いのは嫌だからやらなかったけど。
その代わり、これらを新たな技として認定。
それぞれ命名は、〝モグラダブルクロー〟と〝モグラダブルリリース〟で。
新技ってほど新技じゃないけど、自分の中でも混乱しそうだから一応の処置。
「よーし! そういうことならもっといろいろ作っちゃうぞー!!」
気合を入れてさらなる武器開発に取り組んだ結果、新たに長剣や大剣、槍や杖、大鎌や長斧なんかも次々に完成した。
新技のおかげで、これで作れてない武器は弓と鞭ぐらいになった。
上記の2つはそれぞれ持ち手のところは作製可能。
だけど、弓の弦や鞭の本体部分は植物や革などの素材が使われてるので、モグラの爪だと完成品を作ることはできなかった。
「ま、弓はそんな人気のある武器じゃないし、鞭に関してはそもそも武器かどうかも微妙だからね。後回しでいっか」
でも、この問題は次に取りかかった防具作りにも波及した。
「うげっ、構造はわかるけど、留め具に革のベルトが使われちょる……」
頭も胸も腕も足もマネして金属部分のパーツは作ることができたけど、ところどころに革の素材が使われてたため完成には至らなかった。
「ぐぬぬっ、モグラメタルのプレートアーマー作って、売り場に飾ろうと思ってたのに……」
それでも諦め切れなかった私は、以前お店のメイド服を仕立ててもらった街の裁縫屋さんまで出向いて生産の協力をお願いした。
話し合いの場にはぺティーもきてくれたので、足元を見られることもなくあっという間に交渉成立。ロングボウやクロスボウの弦の取りつけ、鞭のボディの取りつけ、防具のベルト部分の取りつけなど私ができない作業をすべて一括で引き受けてもらえることになった。
あとついでなので、冒険者用に革装備一式やローブなんかも発注した上、モグラ屋さんで販売する契約も結んでおいた。
「よく考えたら全部自分で作る必要なんてないもんね」
できないことはできないので、できる人に。
人任せってステキな言葉だ。
そんな感じで私は大量の武器と防具を完成させては従業員スペースにどんどん在庫を溜めこんでいった。











