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111.もぐらっ娘、死の森の番人を倒す。


「――よっと!」


 問題なく鉱山エリアを抜けて、私はアリスバレー・ダンジョン地下22階層に到達した。


 事前に冒険者ギルドで得た情報によると、海(一番近場)は地下23階層の東側にあるらしい。なので、砂を入手するためにはこのゾロ目階に出現するボスを倒さないといけない。

 ただ、地下11階層の時と同じように、他の冒険者たちが倒してくれてる可能性もある。


「ま、ここまで超順調だし、なんとかなるよね♪」


 そんな感じで楽観しつつ、私は鬱蒼とした大森林地帯を進む。

 てか、ここもコロナさんの依頼の時、一度は通った場所だね。ボスエリアまでのルートはうろ覚えだけど、なんとなくならわかる。それに今回は暗黒土竜の魔眼もあるので迷う心配はない。


 しばらく薄暗い森の中を突っ切るように走ったり歩いたりを繰り返してると、やがて木々のない場所に出た。



 ――ギギギッ、ギャギャギャギャギャッッ~~~!!



「散らばれ! まとまって動くな!!」

「はい!」


 その広場のように丸く拓けた空間の中心には、まさに巨木と呼べる大樹が根づいてた。

 幹にぽっかりと開いた眼孔と口腔。目の部分は赤く光り、口の中は黒い闇で満たされてる。

 風も吹いてないのにガサガサと激しく揺れ動く枝葉は、これが〝偽物の木〟であることを証明してた。


「でっかぁ……」


 うん。

 見るからにボスっぽい。

 てか、あれで雑魚モンスターなわけないか。幹なんて人が10人ぐらい手繋いでやっと囲えるって感じだし。

 前回きた時はここのボスも倒されてて、なんか暗い道を通った程度の記憶しかないからね。こんなバカでっかい木のモンスター、生まれて初めて見たよ。


「よし、新人! 旋回して背後へ回れ!!」

「はいっ!!」


 そして予想どおりというか、まさに期待どおり。

 ボスエリアには3人の冒険者がいて、目下のところ激しい戦闘が繰り広げられてた。


「うおおおおおおぉぉぉー!!」


 旋回の指示を受け、剣をたずさえた若い男の人が単独で駆けていく。


「我らは援護だ!」

「おうよ!」


 残り2人のメンバーもサポートする形で前に出て、ボスの注意を引きつける。そのまま大樹の正面から接近。

 同時、ピュンピュンと鞭のように、上方から無数の枝葉が振り下ろされた。それは、ものすごい速さで地面を打ち鳴らしていく。

 たちまちに上がる土埃。

 逃げ場なんてない。


「げっ、あれってマズいんじゃ……?」


 それでも、私が心配する必要なんてなかった。

 やがて土埃が止み、現れる2人の冒険者の姿。

 彼らは無事だった。

 それどころか傷1つ受けた様子はない。

 どうやら囮役を引き受けた冒険者たちは、あの乱撃を防具の盾だけで防ぎ切ったみたいだ。


「おー、すごい」


 あんな少人数でボスに挑んでるだけあって、やっぱかなり腕は立つらしい。

 そんでもって様子を見てる限り、あの背後に回りこもうとしてる新人さんを他の2人がサポートしつつ、経験を積ませてあげてるって感じがするね。

 もし苦戦してるようなら私も手伝うべきなんだろうけど、この場合の加勢は空気の読めない子になっちゃいそうだ。なので、ここはあの3人に任せて先に進むことにしよう。

 決して面倒だからとかそんな理由ジャナイヨ。


「……では、失礼して階段階段っと」


 おぼろげな記憶を頼りに森が切り拓かれた広場をキョロキョロ。

 と、そこでようやく私はあることに気づいた。


「あれれ? どこにも階段が、ない……?」


 コロナさんの依頼の時は、たしかにこの広場の真ん中辺りに階段があった。

 だけどその場所は今、大樹がどっしりと構え、その太い根をブンブンと投げ縄のように振り回してる。

 てか、地面の上で本体ごとグルグル回転して暴れてるね。

 ものすごい巨体なのにあんな器用な攻撃もできるのか、あのボ――


「――ガハッ!!」

「新人!?」

「バカ野郎、早く逃げろ!!」


 あ、ヤバい。

 ボスの太い根っ子が、回りこんでた新人さんのお腹にヒットした。

 早く逃げないと追撃がくる。

 でも、新人さんは倒れたまま動かない。

 他の2人も駆けつけようとしてるけど、ちょっと距離があるよ。

 ヤバい、ヤバい。

 救出は?

 間に合う?

 間に合わ――



「――モグラアッパー!!」



 なんて考えてると、自然に身体が動いた。

 ボスがいる根元付近の地面を隆起させて、そのまま斜め上に一直線。

 技の発動とほぼ同時だった。先端が杭のように尖った土柱は大樹の右眼孔を貫き破壊する。



「――モグラアッパー、モグラアッパー!!」



 奇襲に成功。

 それでも油断せず、私はさらなる追撃を加えた。

 四方八方から飛び出した土柱が次々に幹を貫通していく。

 でも、相手の反応がない。

 もっと苦しんだり、叫んだりするはず。

 おかしい。まさか植物系のモンスターだから燃やさないとダメージ与えられないとか?

 不安を感じ、私はそこで一度攻撃の手を緩めた。


「ん? あれ、ひょっとしてもう死んでる……?」


 気づけばだらりと枝葉を下ろして、大樹は一切動かなくなってた。どうやら、すでに最初の一撃で倒してたみたい。

 なんだ、低層のボスとはいえそんな強くないんだね。

 あ、いや、でも私がくる前に、あの3人がかなりダメージを与えててくれたのかな?


「って、今はそんなことより……あの、大丈夫ですかー!?」


 大声で呼びかけながら、ボスのブンブン根っ子アタックを受けた新人さんに近づく。

 私が彼の下に到着したところで、他の2人のメンバーも集まってきた。


「うぐっ……」

「おい、新人! 大丈夫かよ!?」

「待ってろ。今、回復のスクロールを使う」


 あ、ウチのお店のスクロールだ。新人さんも意識はあるみたいだし、これならもう大丈夫っぽいね。

 よかったよかった。



「――先ほどは助かった」



 魔術での治療後、このパーティーのリーダーだっていう人から丁寧にお礼をいわれた。


「後ほど謝礼を渡したいのだが」

「あ、いえいえ、お礼は結構です。それにウチのお客さんなら助けるのは当たり前というか」

「お客さん?」

「はい。さっきのスクロールはアリスバレーで買われたんですよね?」

「あ、ああ。それはそうだが……」


 微妙に会話が噛み合わなくてわかったけど、どうやら3人は王都の冒険者らしい。だからあまりアリスバレーのことには詳しくない上、私のことも知らないみたいだった。


「君のおかげで命拾いしたよ。本当にありがとう」


 だいぶ楽になったのか、やがて横になってた新人さんも起き上がってきた。

 でも、よく見ると薄っすらと顔が青いね。精神的にはまだ回復し切ってないのかも。


「身体はもう大丈夫ですか?」

「ああ、剣が身代わりになってくれた分、まだ軽傷で済んだみたいだ」

「剣?」


 私が首を傾げると、新人さんはわざわざ地面からそれを拾ってきてくれた。


「ご覧のとおりだよ」

「ひえっ、これはポッキリいっちゃってますね……」


 攻撃を受けたあの瞬間、咄嗟に武器でガードしたところ愛用の剣が折れてしまったらしい。


「さすがにこれでは修理も……」

「命が助かっただけ十分だ。武器ならまた新しいのを買えばそれで済む」

「ですが、代わりの得物もありませんし、今日はもう街に戻るしか……」

「何、修練もまた後日積めばいいだけの話だ。気にするな、新人」

「リーダーのいうとおりだぜ。俺たちならまたいつだって付き合ってやれるしな!」

「お2人とも……」


 ふむふむ。

 やっぱ最初の見立てどおり、年上の2人が新人さんに場数を踏ませてあげてたみたいだね。そして、剣があーなっちゃったら最後。実戦形式の訓練はできないし、帰るしかないというわけですな。

 フッフッフ……。

 いやー、これはもうなんかの縁だね。

 乗りかかった船ってやつだし、ちょうどいいから試作品の実験も兼ねて手助けしてあげちゃおう。

 今日は出血大サービスだよ、お客さん!


「その折れた剣、ちょっと貸してくれません?」

「えっ、別に構わないけど……」


 それから折れた剣先のほうも拾ってきてもらった。

 地面に並べてくっつけて、よく隅々まで観察していく。

 刀身は薄く、真ん中には溝。刃先も綺麗に研がれてる。あとこうして持ってみて初めて気づいたけど、柄のほうに重心があるんだね。

 よし、これをこのまんま()()()()にイメージ。

 ショートソードだからこれなら長さ的にも問題ないし、素材はさっきの硬い鉄を使って刀身も柄も繋げて丸まる1本として作っちゃおう。


「剣、剣、剣、鋭い剣っと……モグラリリース」



 ――ポンッ。



「おっ!」


 結果からいうとクリエイトできた剣は、見るからに材質は違うけど折れる前の剣とまったく同じ形になった。

 成功かな?

 いや、でもこれは使ってみないとわからないか。


「あのー、よかったらこれどうぞ。試作品なんで今ならタダです」

「へ? 君、その剣は一体どこから……?」

「ありゃ? お嬢ちゃん、剣なんて持ってたか?」


 地面にしゃがんでこっそりリリースしたので、新人さん含めてみんな不思議がってた。ちょっと手品師にでもなった気分だね。


「……いや、譲ってもらえるならありがたく使わせてもらうけど、本当にいいのかい?」

「いいですよ。ただ、不良品かもしれないので気をつけてくださいね」

「これが不良品だって? たしかに剣身(ブレード)(ヒルト)の繋ぎ目もなくて、妙な剣だけど……」

「あ、んじゃ、それなら――」


 私も不安だったので、試し斬りをしてもらうことになった。

 狙いはそこそこ太い樹木。

 結果、新人さんは一振りで1本の木を薙ぎ倒した。


「――こ、これはっ!?」


 新人さんはなぜか唖然としてたけど、品質に問題がないことがわかって私は安心した。


「この切れ味、相当な業物なんじゃ? 本当に、タダでもらっても……?」

「もちろんです。でもその代わり、気に入ったら王都の他の同業者さんに私のお店の宣伝をしといてください」

「……お店?」

「ギルド近くのモグラ屋さんで今度、その剣と同じ商品を売り出すので。あ、他の武器とか防具とかも販売する予定なんで、できればそれも合わせて触れ回ってくれれば助かります」

「モグラ屋さんって……あっ!」

「大量にスクロール売ってるあの店か!?」

「なるほど、それで先ほどは我々のことを『お客さん』と……」


 私がオーナーだと知って、王都の冒険者3人組はものすごく驚いてた。

 ま、普通こんな子供が、あんな大きな店を経営してるとは思わないよね。


「ところで、みなさんはまだここで訓練を続けるんですか?」

「ああ、君がこの剣をくれたし、僕たちは予定どおり〝死の森の番人〟の復活を待つよ」

「死の森の番人?」

「なんだ、知らんのか? さっきお嬢ちゃんが倒した大樹のことだぞ」

「あー、あのボス、そんな名前だったんですか」


 先ほどモグラアッパーで何度も貫いた大樹のほうを見ると、今はもう根元から枝葉までしおしおに枯れてた。

 さっきまであれだけ元気に暴れてたのに無残な姿だね。

 あ、そういえばモグラアッパーの後片づけもしないとだった。


「――モグラリカバリー」


 地面から伸びた杭を取り除き、ダンジョン内部ではあるけど念のため元の状態に戻しておいた。


「んじゃ、私そろそろいきますね」

「心配無用だろうが、単独(ソロ)では危険も多い。気をつけてな」

「お嬢ちゃん、またな!」

「本当にありがとう。約束どおり宣伝は引き受けたよ。任せておいて」


 そのまま元気に爪を振る。

 そして回れ右で立ち去ろうとしたところで、急停止。

 肝心なことを思い出した。


「――あ、そうだ! あの、すみません。地下23階層に下りられる階段ってどこにあるかわかりますか?」

「え? それなら君の横に……」


 こちらを不思議な顔で見ながら、しなしなになったボスの死骸を指差す新人さん。示されたまま幹に開いた大きな口の中を覗くと、そこには暗い地下へと続く階段が見えた。


「マジかー」


 なるほど。

 このボス自体が階段だったのか。

 そりゃ、見つからないわけだよ。


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