108.もぐらっ娘、みんなと話し合う。
前章終わりにて、たくさんのブクマ&評価いただき感謝!
今話より【もっとのんびり編】のスタートとなります。
相変わらず亀みたいな更新ペースになると思いますが、
ぼちぼちとやっていくであります∠(`・ω・´)
道ばたに枯れ葉も積もって、厳しい冬の到来を予感させる今日この頃。
ローディスと王都に繋がる2本の地下道が一般にも本格開放されたことで、アリスバレーはどこもかしこも人でいっぱい。
取りわけて私がオーナーを務めるモグラ屋さんは過去に類を見ないほどの混雑ぶりで、店内は連日お客さんでごった返しの様相を呈してた。
「青果はすべて売り切れましたー!」
「パンと瓶詰め商品も本日完売でぇーす!」
「お客様のまたのご来店を心よりお待ちしてますぅ~!」
店頭で『営業終了』の立て看板を持って声を張る教会の女の子一同。普段は基本的にモグラの湯のほうで働いてる子たちだけど、今日は臨時の助っ人として朝一からきてもらってる。
最近は彼女たちや商会の職員さんたちにも最大限助力を願い、なんとか店を回してる状況だった。
「「「終わったぁ~!」」」
「みんな今日はほんとありがとう。後片づけは私たちでやっとくから気をつけて帰ってね」
「「「はーい!」」」
そして本日も日没前に店じまい。
これで5営業日連続。
閉店後、これはさすがにまずいと思った私は、2階の喫茶店スペース(仮)に各階の担当責任者を集めて緊急会議を開いた。
「エミお姉ちゃん、いきなりどうしたの?」
「この頃お客さんが増えすぎて大変だろうから、ここらでちょっとみんなと話し合っておこうと思ってね。ソフィアは1階担当だけど最近どう? 大変じゃない?」
「わたしは別に大丈夫だよー。お店も早く終わってそのぶん早く休めてるし。あ、でも、モグラの湯のほうも忙しいみたいでね、今日きてくれた3人もそうなんだけど、これからはあんまり手伝ってもらえなくなるかも。それがちょっと不安かなー」
「そっかぁ、観光客が押し寄せてきてるのはあっちも同じだもんね」
今や私が掘り当てた温泉はアリスバレーで1、2を争う観光スポットと化してる。最近ではお忍びで王都のお偉い様やローディスの貴族様まで浸かりにきてるとか。やっぱ人を虜にする魅力が温泉にはあるみたい。
「う~ん、一番の問題は人手不足か……」
腕を組んで考えながら、私は続いて正面に座るスカーレットに訊いた。
「2階のパンの販売はどう?」
「こっちは問題ないですわ。執事たちにも手伝ってもらってますし。ただ、今後エミカの計画どおりに喫茶店もやるとなると、現在の体制では厳しいといわざるを得ませんわね」
「うっ、やっぱそうだよね……。ウエートレスさんも会計やる人も、ぜんぜん足りないよね……」
「しかし、それにつきましてわたくしから1つ良案がございますの!」
「良案?」
「ええ、良案ですわ!」
えっへん、という感じで得意げに大きめの胸を張ったあと、スカーレットはテーブルから身を乗り出して続けた。
「エミカ、伯爵の邸宅で会ったメイドたちのことは覚えてますわよね?」
「へ? ああ、門のところから邸宅の中まで案内してもらったっけ」
あの時、敷地の小屋からけっこうな人数のメイドさんたちがぞろぞろと出てきてたね。
でも、それがなんだっていうんだろ?
「もうポポン家の取り潰しは決定してますわ。そうなると、彼女たちは仕事を失うことになりますの」
疑問符を浮かべる私にスカーレットはもったいぶることなく答えを教えてくれた。
「あ、そっか! あの人たちを雇っちゃえば……」
たしかにメイド経験者なら給仕の仕事なんて楽勝。即戦力だし、人手が足りない時は他の仕事もかけ持ちで手伝ってもらえれば店全体の労働力は安定するね。
うん、たしかに良案だ。
ただし、大きな問題が1つあるけど。
「スカーレットはいいの?」
「何がですの?」
「いや、だって……ポポン家にいた人たちってことは、ローズファリド家側から見たら騙してた側の人間でしょ? そんな人たちと毎日顔を合わすってさ、スカーレット的にはあんま気持ちのいいもんじゃないよね?」
「すべては伯爵がやったことですわ。あのメイドたちが策謀したわけではありませんし、わたくしはまったく気にしませんわよ。そもそも雇われる側と雇う側。根本的に立場と責任が違いますわ」
「はへー」
なるほど。
もちろん人を道具として見るのはダメだけど、人を雇う側としてはそういう割り切った考えも必要かも。
ま、早い話が使えるものなら使えってことだ。
「たしかに条件がよければ、彼女たちにとっても悪い話じゃないか」
「実はそういうと思いまして、昨夜すでに話はある程度とおしておきましたの。ローズファリド家で雇う形でもいいですし、エミカが信用に値すると判断するならキングモール家で直接雇う形でも問題はないと思いますわ」
「むー」
我が家にメイドさんか。
そういえばパメラは王都からやってきてすぐ、ティシャさんに無理やり着せられたっていうメイド服脱ぎ捨ててたっけ。んで、あれから一度も着てる姿を見てない。そもそも本業は護衛でメイドさんではないし……んー、本物のメイドさんか。
あ、てか、家事も手伝ってもらえるならシホルの負担も減るよね。メイドさんの住まいは我が家の地下を拡大してもいいし、もしくはどっかに土地を借りるか買うかしてモグラの爪で専用の住居を建ててもいいか。
うん、まだお給料の問題とかはあるけど、これはちょっと前向きに検討してみようかな。
「妹たちとも相談してからになるけど、今度そのメイドさんたちと一度会わせてもらえる? やっぱ面接ぐらいはしときたいし」
「もちろんですわ。後日予定を合わせましょう。場所はローズファリド家の一室をお貸ししますわ」
「ありがとー、ほんと助かるよ」
よかった。我が家で雇うにしろ雇わないにしろ、人手の問題は解決しそうだね。
よし、これで残す問題は地下売り場だ。
「ルシエラ、スクロールのほうはどう?」
「……未だ在庫不足。補充には、まだ日数を要する」
地下道の一般開放後、多くのお客さんがやってきたことでまず最初に品不足に陥ったのは地下で売ってるスクロールだった。噂を耳にした王都の冒険者一行が押しかけ、安い物から超高額の商品まで手当たり次第に買い漁っていったのだ。
その結果、地下の商品棚はかなり寂しい状態になっちゃってたりする。
「販売ペースが製作ペースを遥かに凌駕している状況。緊急事態。あと、眠い……」
ルシエラは目元にクマを作って先ほどからウトウトしてた。ここ最近徹夜が続いてるらしく、見るからにダウン寸前。完全にやつれてた。
「スクロール作りはルシエラにがんばってもらうしかないけど、無理して倒れたら元も子もないし、明日は地下の販売はお休みにしよう。ワインも瓶商品も完売で次のが届くまで在庫はないし」
「りょ、了……」
――ドダンッ!!
頷くと同時、そこでルシエラは顔面からテーブルに突っ伏した。
どうやらほんとにもう限界だったらしい。
「あれ? ルシお姉ちゃん、こんなとこで寝たらカゼ引いちゃうよー?」
「というか大丈夫ですの? 今、すごい音がしましたわよ……」
「〝休み〟って言葉で張り詰めてた糸が切れちゃったんだろうね。このまま寝かせてあげたいし、今日はもう解散にしようか」
とりあえずソフィアとスカーレットを帰して、私はミニゴブリンたちと一緒にルシエラを地下の会計の奥へと運んだ。そこは従業員スペースというか、今はもう半分ルシエラの部屋と化してる。
副会長室の隣に建てた小屋と併用して使ってるらしいんだけど、最近はスクロール作りに没頭するあまりあっちには帰らず、ほとんど店に泊まりこんでるらしい。
なので今日もこっちのがいいだろうと思い、「えいっ」とベッドの上に転がしておいた。
「さて、私たちも帰りますか」
「「「キー」」」
手をパンパンと払いながら従業員スペースを出て、階段へ向かう。
途中、地下の売り場を見回してみると、昨日よりもさらに商品の棚に空きが目立ってることに気づいた。
店のオーナーとしてはなんか哀愁を感じてしまう光景だ。
「やっぱ地下にこれだけ売り場があるのに、休業はもったいないか」
そんなことを呟くと同時だった。
頭の中で、ピッカーンと閃く。
「あ、そうだ。商品がないなら……」
あまりに当たり前のこと。
でも、盲点だった。
「――自分で作ればいいんだ」
咄嗟に思いついた私はモグラクリエイトでイメージを膨らませる。そして、そのまま商品として売れそうな物を片っぱしからリリース。
「ふー、とりあえずこんなもんかな」
やがて閉店後の店内には、大小様々な新商品がズラリと並ぶことになった。











