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107.それからのそれから


 試飲会が終わって2週間ほどが経った。

 すでにローディスの作業所でボトル詰めされたモグラワインも届いて、ずらりと店内に並んでる。

 現状はモグラストレージで5日(実質1年)寝かせた物だけを販売してるけど、そのうち余裕が出てきたら実質3年、5年、10年と、より熟成させた赤ワインも売ってく予定。さらに白ワインやロゼワインなんかも造ってく方向でスカーレットとは話がまとまってたりする。

 そうなればいよいよ売り場のスペースがギッチギチになってくるので、先日お店のレイアウト変更を前倒しでやっといた。

 新しい店内の配置はざっくりとこんな感じ。



 2階――パン屋兼、喫茶店。


 1階――店頭に花。

     店内に野菜と果物。


 地下――階段付近にワイン含む瓶詰め商品。

     中央から奥側に魔術&技能スクロール。

     従業員スペース(会計裏の別室)。



 ただ、2階の喫茶店はまだ形だけ。

 いろいろぺティーにも相談してるんだけど、人員も備品も整ってないのでオープンはまだまだ先になりそうだ。ま、別に焦る必要はないし、ゆっくりと着実に準備していけたらいいかなって思ってる。


 あと商品が増えてく中で人との繋がりも増えて、私の収入関係もごちゃごちゃしてきてる。

 なので、こないだその辺りを一度まとめておいた。


 まずはじめに、教会とはモグラ農場の作物(野菜・果物・花・小麦など)の利益を分配中。

 私が7割で教会が3割。

 最近ではジャスパーとヘンリーが品種改良の研究を進めて、黄色くて種の少ないスイカとか、粒が虹色のトウモロコシとかを作ることに成功した。実験的に店頭で試食会をやったらお客さんも喜んでくれたし、今後さらに農産物の売り上げは増えていきそうだ。


 農作物関連でもう1件、大モグラ農場の小麦に関しては農家さんたちと利益を折半中。

 実質、向こうの取り分である5割の中に、ワインの原料の黒ブドウやジャムなんかに使ってる各種果物の収穫代も含まれてる形だったりする。


 続いてルシエラとはスクロールの販売利益を分配中。

 私が6割でルシエラ4割。ただ〝協力者〟に支払うお金はこっち持ちなので、実際の私の利益はちょっと目減りする感じ。

 現状、購入客である冒険者の半分ぐらいが協力者でもあるので、材料さえあれば店内だけで販売と生産をぐるぐる回せちゃうとても効率のいい商売になってる。

 ちなみに今後、ルシエラとは転写術(トランスクリプション)で作製した保冷器や乾燥器みたいなアイテムの生産にも乗り出していこうって話で一致してる。


 さらに続いてスカーレット(ローズファリド家)とはワイン、瓶詰め商品、パンの販売で提携中。

 ワインについては私が原料を提供する代わりにその原価分の商品を受け取り、ジャムやシロップ漬けについては私が費用を支払うことで製造を委託。そしてパンの販売に関しては、モグラ屋さんの2階を店舗として貸し出すことで私が家賃を受け取ってる形だ。

 もうローディスでも普通に商売はできるわけだから、ワインと瓶詰め商品はともかくパンの販売は終了になる可能性もあったんだけど、スカーレットはモグラ屋さんでの店舗販売を続けるといってくれた。


 お店以外の収入としては、ギルド副会長としての毎月のお給料。

 それと、これはこないだアラクネ会長がいってたんだけど、王都やローディスに続く地下道の利用者数に応じて私にもお金が支払われるらしい。

 でも、1人当たり大した額じゃない。なので、面倒だったこともあって、どういうシステムで人数換算してるのかとか詳しいことまでは訊かなかった。

 ま、微々たる金額だろうが収入は収入。ありがたくもらっとくけどね。


 仕事はオーナーとしてお店に顔を出したり、ギルドの副会長として街の見回りをしたりが基本なのは変わってない。魔石クズの採掘や熟成所の樽の出し入れなんかもしなきゃだけど、それはあくまで定期的にだ。

 だから、最近は少し忙しかったり、少し暇だったりの日々を繰り返してる感じ。



「――ほら、あれがローディスだよ」

「うわぁ~~!!」



 んで、今日はたぶんそのどちらにも当て嵌まらない日。

 試飲会やモグラ屋さんの改装もあって、ここしばらくまたリリに構ってあげられてなかったので、私は妹たちを連れてローズファリド家のお屋敷に遊びに出かけた。スカーレットもぜひ歓迎させてほしいとのことで、本日はお泊まりになる予定だ。

 パメラが操る馬車で軽く外街を観光後、内街へ。

 ちなみにポポン伯爵が捕まったあと、内街の壁の各所にあった門は開放された。

 ロートシルトさんの話によると、これからは貴族と庶民の融和を目指した新たな街作りをはじめてくんだとか。

 階級によって身分差のある社会がどうとか難しい話はわかんないけど、みんなが仲よく暮らしていけるならそれに越したことはないはずだし、私もその方針には大いに賛成だった。


「お待ちしておりましたわ」


 ローズファリド家の敷地に入ると、スカーレットと執事さんたちが並んで出迎えてくれた。


「さあ、みなさんどうぞこちらへ」


 さっそく招かれて客間で焼き菓子と紅茶をごちそうになった。

 少しするとリリがお屋敷の中を探検したいといい出したので、スカーレットの許可を取って内部を案内してもらうことになった。

 パメラとシホルには客間に残ってゆっくりしててもらって、私はリリを連れてスカーレットと一緒に屋敷内を巡った。



「あー、おひげさんだぁ~!」



 屋敷の中央に位置する食堂。その壁に飾られた大きな肖像画を見て、リリがトタトタと駆け出していく。


「走ると危ないよ」

「はぁーい!」


 しっかり返事をしといて一切止まらないリリを追いかけて、私も肖像画の前へ。

 40代ぐらいだと思う。立派な口髭を生やした男の人の絵が描かれてる。

 はて、どこか見覚えがあるような?


「わたくしの父ですわ」


 額縁の下で首を傾げてるとスカーレットが教えてくれた。

 なるほど、亡くなったお父さんか。たしかに目元の辺りがよく似てるね。


「あー! あっちはキラキラ~!!」


 リリはぴょんぴょん飛び跳ねて肖像画を見てたけど、少しすると今度は食堂正面にあるステンドグラスに興味を移した。

 注意したばかりなのに、また駆け足で遠くにいってしまう。

 やれやれ、元気があり余ってるみたいだね。


「妹が騒いでごめんね」

「そんなこと気にしないでいいですわよ。エミカたちはローズファリド家の恩人で、今日は大切なお客様ですもの。存分に寛いでくださいまし」

「……あ、うん」


 恩人かぁ~。

 別に人助けをしたつもりはないんだけどな。王都の時もそうだったけど、全部あれよあれよと成り行きでこうなっただけでさ。


「どうしましたの?」

「いや、なんというか、良心の呵責がね……」


 このままいけば、いつかは神様みたいに崇められちゃったりするかも。そうしたらモグラ教の教祖様の誕生だ。うん、考えただけでもゾッとする。


「エミカ、今のうち改めてお礼をいわせてもらいますわ」

「ん、急に何? 返済を手伝ったことならもう私に感謝しないでいいってば。伯爵だって勝手に自滅して捕まったわけだしさ、別に私が何かしな――」

「今朝、朗報が届きましたの」


 私の言葉を遮ってスカーレットはいった。


「お兄様たちが、家に早く帰ってこられるようになったのですわ」

「え? ああ、スカーレットのお兄さんたち? はへー、それはよかったね」


 込み入った事情はわからないし訊かないけど、離れ離れの兄妹がまた一緒に暮らせるようになれば、これまで家を守ってたスカーレットの苦労も報われるってもんだね。

 いや、でも、なぜ私にお礼を……?

 伯爵の捕縛は私が絡んでる部分も多少はあるけど、お兄さんたちの件はほんとに知らない。ノータッチだ。


「わたくし、ずっと人を怨んでましたの」

「へ?」


 訊くと、スカーレットからは質問の答えにならない言葉が返ってきた。そのままこちらが戸惑うのも気にせず、彼女は続ける。


「お父様が亡くなって、そのうちにお兄様たちもいなくなってしまって……4年間、どうしてこんなことになってしまったのかと、心の底ではずっと嘆いてましたの。それでも、わたくしはがんばって家を立て直そうとしましたわ。そして、伯爵に騙され、挙句モンスターに襲われ……もうダメだと諦めた時、目の前にあなたが現れた……」


 厳密にいえば、私だけじゃない。あの時はルシエラもいたし、ガスケさんたちもいた。

 それに、


「あそこに居合わせたのはただの偶然だよ?」

「それでも、わたくしが助けられたのは必然ですわ」

「……」

「ずっと怨んでましたの、こうなった()()を。でも、エミカ、あなたと巡り合えて、わたくしは救われましたの。だから、これからの人生で起こるわたくしのしあわせのすべては――全部ぜんぶ、あなたのおかげなのですわ」


 わかるようなわからないような理屈だった。

 だけど、一番気になったのはそこじゃない。

 問題は、今のスカーレットの気持ちだ。


「……まだ、怨んでる?」

「怨んでないといえば嘘になりますわ」

「そっか」

「それでも、今朝お兄様たちの件を聞いて心に決めましたの。これからはもっとしっかり前を見て歩もうと」


 もう囚われない。

 その淀みのない声に、私は少しだけホッとした。


「だって、いつまでも過去のことに引きずられていたら、これっぽっちも自分の人生を楽しめませんもの」


 たとえ身の周りに不幸が起きようと、スカーレットの人生は続いていく。過去の悲劇に引っ張られて、誰かをずっと呪って生きるなんて、そんなの悲しすぎる。人は、もっとしあわせに暮らしていかなきゃだ。

 どうかこの先、スカーレットの未来がピカピカと明るく開かれたものでありますように。

 彼女の言葉にうんうんと頷きながら、私は柄にもなく祈った。






 最後のまとめ方に四苦八苦しましたが(´ヘ`;)、とりあえずローディス編はこれにて終了です。

 次章の開始までにはまたしばらくお時間をいただきたくm(_ _)m


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