105.それから
ローズファリド家に侵入者が現れた翌日、ポポン伯爵は捕まった。口に出すのもはばかられるような悪いことを、なんかいろいろやってたらしい。
後日、ベルファストさんやアンナさんからこっそり聞いた話によると、もうポポン家のお取り潰しは決定事項だとか。そんでもって伯爵にはかなりの確率で、死罪が言い渡されるだろうとのこと。
以前からとんでもない悪事を働いてて、今回コロナさんがとある1つの証拠を見つけたことであれよあれよと芋づる式。隣国の犯罪組織と繋がってたなんて話もあがってるみたいで、今後その波紋は王国の外にまで広がるのは確実視されてる。
一方、ローディスでは絶大な権力者だった伯爵の失墜により勢力図が大きく塗り変わった。これからは貴族の中でも穏健な思想を持った人たちが主導権を握ってくんだとか。
ロートシルトさんが裏で1枚噛んでそうなるように仕組んだ、なーんて噂もあるんだけど真偽のほどは不明だ。
『――ポポン家はもうすぐ滅びますので』
と、まー、私には外交問題とか権力闘争とか小難しい話はよくわかんないけど、すべてはティシャさんがいってたとおりになった。
何はともあれこれからは以前のように、ローズファリド家もローディスで気兼ねなく自由に商売できるし、私もスカーレットの力を借りて心置きなくモグラ屋さんの商品数を増やすことができる。
なので、さっそく計画にあったジャムとシロップ漬けを作ってもらうよう話を持ちかけて、スカーレットからおっけーをもらった。
費用はすべて私持ちで作業所の器材を再整備。
シホルのレシピを参考にして試作品第1号を完成させる。
モグラ農場の果物を使ってるだけあって品質は文句なし。どれもめちゃくちゃおいしい。ジャムなんて焼きたてのパンにつけて食べたら最高だった。
んで、試食の結果、ジャムはイチゴ・リンゴ・オレンジ・レモンの4種。シロップ漬けはピーチ・チェリー・ナシの3種の商品化が決定した。
すぐに本格的な製造を開始してモグラ屋さんに第1陣を並べるも、あっという間に完売。設備費用もあったから値段はかなり高めに設定してたんだけど、上級冒険者の人たちがごっそりと買っていった。なんでもダンジョンに潜る時の食料として最適だとか。
なるほど。たしかに保存も利くし、甘い物は元気が出るもんね。
ただ毎度即完売だと他の客層が買えるチャンスすらなくなってしまうので、第2陣以降はさらに価格を割り増し設定にしておいた。
「――今日もいろんな商品が目白押しー! いらっしゃいいらっしゃ~い!!」
これで野菜に果物に花、魔術&技能スクロール。
そして焼きたてパンと瓶詰め商品が常時店内に並ぶことになった。
現状、店の売り場もけっこう限界に近い。今後は黒ブドウの代金としてモグラワインも商品として置くことになるので、従業員用スペースとなってる地下をもっと広げて売り場を伸ばす必要があるかもだ。
今考えてるのはスクロール売り場を地下1階に移して、2階を思い切ってパン売り場兼、喫茶店にすること。従来どおり買ったパンを持ち帰るのもおっけーだし、店内で食べるのもおっけー。
おいしい紅茶の種類や淹れ方はスカーレットの執事さんたちが詳しいだろうし、モグラ農場の果物を店内でジュースにして売るなんてのもありだね。タンスの肥やしになってる例のメイド服も活用できそうだし、我ながらにすごく名案だと思ってる。
ただ、そうなってくると2階で働く専門のスタッフさんが必要になってくるので、まずは人材を探してこないとだ。あのちょっとエッチなメイド服を着て疑問を持たず働いてくれる人なんて、今んとこスカーレットしかいないしけっこう難題かも。
ま、急務ってわけじゃないし、その辺は追い追い考えていけばいいか。
新商品となるモグラワインのほうに話を戻すと、この前モグラストレージで熟成専用の施設を新たに作った(ただ施設っていっても荒れ地にポコポコ穴掘っただけだけど)。
それによりモグラワインの製造工程ラインは完成。生産の手順をざっくり説明するとこんな感じだ。
①アリスバレーで収穫した黒ブドウをローディスの醸造所に輸送。
②潰して搾って熟成段階になったら樽のままアリスバレーの〝熟成所〟へ。
③モグラストレージで熟成させた後、再度ローディスへ輸送。
④作業所で瓶詰め。
⑤商品として出荷。
アリスバレーとローディス間で往復させてるぶん効率は悪いけど、③の作業の負担が少しでも減るように、熟成所はアリスバレーに置こうとスカーレットが気を利かしてくれた。
ちなみに場所はテレジア先生にお願いしてモグラ農場近くの土地を使わせてもらってる。周辺の警備がしっかりしてるってのもあるけど、位置的に南東の地下道に教会が近いってのが一番の決め手となった。
5日前、モグラストレージで開けたその穴1つ1つに、醸造所から運ばれてきた最初の積荷を埋めた。
そして、本日は樽を取り出す予定日だ。
記念すべき最初のモグラワインが完成する日ということもあって、私たちは契約してくれた購入者の人たちを招待して試飲会を開催した。
さすがに女王様は呼べないけど、アラクネ会長にロートシルトさん、ベルファストさんにアンナさん、名高い冒険者の皆様方に王都のお偉様方、大きな酒場のマスターなどなど。すでに大勢の人たちが熟成所の荒れ地に集まりはじめてた。
その中にはダメ元で呼んだコロナさんの姿もある。
準備の合間を縫ってさっきあいさつにいったけど、多忙の中、わざわざ仕事を抜けてきてくれたらしい。
彼女が手を尽くしてくれたおかげで問題は早期に解決したわけだし、ほんと感謝しても感謝し切れない。
でも、今回の件にコロナさんが関与してることは一番の当事者であるスカーレットにも内緒だったりする。それは襲撃のあった日、事前にティシャさんからも釘を刺されたことだ。
『――あの子の役割を考えれば、真実を知る者は最小限にとどめておくのが最良なのです』
理屈はわかるけど、真の恩人の存在を秘密にしておくのはスカーレットに対する裏切りのような気がして、私は2週間ほど前からちょっと後ろめたい気持ちを引きずってた。
『――ってわけなんだけどさ、どう思う?』
なので試飲会の前日、今回の顛末を唯一打ち明けられる相手に相談した(秘密を守るためのガス抜きともいう)。
『………………』
パメラはしばらく無言だったけど、やがて質問を質問で返してきた。
『試飲会、あいつもくるのか?』
『え? ああ、コロナさんね。招待状は送ったよ』
『……そうか。なら、やっぱ明日はオレもいくわ』
こないだ誘ったら断られたんだけど、どういう心境の変化かパメラは試飲会の参加を希望してきた。
「あ、パメラ! その木箱全部ワイングラスだから気をつけて運んで!!」
「いや、なんでオレまで手伝わされてんだよ……!」
立っている者は妹でも使え。そんなこんなでいよいよ準備は整い、予定どおり試飲会ははじまった。











