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100.再びの王都


 ガタゴトガタゴト、馬車で移動。

 地下道を50ミニット程度で抜ければ、もう王都は目の前だった。


「うひゃー、こんなに早く着いちゃったよ!」

「自分で作っておいて、自分で驚くんですね……」


 いや、だって、ちゃんと馬車で地下道とおって王都側にくるのはこれが初めてなんだもん。頭ではわかってても実際に体感するとやっぱびっくりするよ、これ。


「気軽に王都観光ができちゃうね」

「王都側からアリスバレーにやってくる観光客も増えると思いますし、今後はローディスも含めて経済交流もより発展していくでしょうね」

「ウチのお店のお客さんも増えるかな?」

「はい。間違いなく」


 それは喜ばしいね。

 でも、お客さんが増えすぎると、今度はソフィアたちの仕事がおっつかなくなっちゃう。地下道が一般にいつ開放されるかまだ未定だけど、人員の補強は今から考えておいたほうがいいかもだ。


「――モグラウォール!」


 王都側に出てすぐ、前回後回しにしてた入口の整備を完遂。ついでに見張り役で野営してたみんなに労いとしてワインを振る舞ったら、すごい喜んでくれた。やっぱスカーレットの家のお酒は美味しいみたい。


 そのままさらに馬車を走らせ、検問の順番を待って外壁を通過。無事、私たちは王都へと到着した。


「エミカさん、最初はどちらに向かえばよろしいですか?」

「まずは冒険者ギルドにいってくれればいいよ」

「了解しました」


 一応〝まずは〟とかいってみたけど、現状当てにできる知り合いはベルファストさんぐらいしか思いつかなかった。

 なんといっても王都のギルド会長。間違いなく顔も広いだろうし、ワインを買ってくれそうなお金持ちとかもいっぱい知り合いにいるはず。もちろん本人にもガンガン売りこむけどね。


 私が作った地下道路網の効果か、道は前回きた時よりも遥かに空いてた。渋滞に巻きこまれることもなくギルドの建物に到着。受付で名前を出すと、すんなり会長室まで案内してもらえた。



「――よう。久し振りだな、エミカ」



 絶対驚くだろうなって思ってたけど、ベルファストさんは予想に反して落ち着き払ってる。

 むー、これじゃ感動の再会からドサクサに紛れて契約を勝ち取ろうっていう私のプランが台無しだ。


「もっと驚いてくれると思ったのに……」

「例の地下道の件、アンナから聞かされていたからな。そろそろギルド(ここ)に顔を見せにやってくるんじゃないかと身構えていたところだ」


 あー、アンナさん経由か。

 なるほど。その可能性は考えてなかった。


「しかし、またお前とんでもないもんを作ってくれたな。今もろもろ関係機関巻きこんで王都の上層部はてんやわんやだぞ? もちろん、俺もな」

「……それはそれは、ご迷惑をおかけしております」

「まー、あの凶悪な問題児をお前が引き取ってくれたおかげで、こっちはここ最近仕事が捗っていたからな。この件に関してはその件と相殺して怨まないでおいてやろう」


 ん、問題児……?

 あー、パメラのことか。


「アリスバレーじゃ、小さい子に勉強とか教えててとってもいい子ですよ。妹たちとも仲良くしてくれてますし」

「……そうか。あいつもお前と出会えて、ようやく自分の居場所を見つけたってわけだな」

「ええ、〝私の妹〟という大事なポジションに収まってくれてます」

「妹? お前よりパメラのほうが年……あ、いや、そんな話よりもエミカ、今日はなんの用できたんだ?」


 地下道の件で多忙なことを思い出したのか、ベルファストさんはそこで急に本題に入ってくる。

 むしろ望むところだったので、私は超手短に用件だけを伝えた。


「……ワインを売りにきた? お前、公表されてはいないが黒覇者(レジェンド)だろ。英雄が酒の行商なんてまったく意味がわからんぞ」

「まーまー、そう仰らず。まずは騙されたと思って一度試飲してみてくださいよ」


 困惑するベルファストさんを馬車までご案内。何はさておきワインを勧めた。


「お、うまいな。どこの酒だ?」

「モグラワインです」

「……あ?」


 銘柄のせいでさらに困惑は深まったけど、そこからは説明役をぺティーにバトンタッチ。彼女の堅実な話術であっさりと大口契約をもぎ取ることに成功した。


「買い手を募っているならアンナもかなりの酒好きだぞ。あとで声をかけてみるといい」

「そうさせてもらいます。てか、本音をいうとそういう情報を求めてここにきたんですけどね。期限以内にまだまだ買い手を見つけないといけなくて」

「お前、そんなに金に困っているのか?」

「あ、いえいえ、そもそもこのワインは私のじゃなくてですね」


 そこで大まかな事情を、私はざっくりと説明した。


「……なるほど、それで没落貴族のお嬢様のためにってわけか」

「いや、自分のためですよ?」


 今回の一件がうまくいけば、お店に置ける商品が増える。正直、ここまで動いてるのは自分に利益があるからこそだ。


「俺にはお前が損得で動けるほど器用な人間には見えないがな」

「えー」


 それは過大評価ってやつですな。私は英雄でも正義の味方でもありませんぜ。

 ま、ベルファストさんにはすぐに感情で動く、不器用な人間だと思われてるんだろうけど。


「まー、構わんさ。お前が善人なのか悪人なのか、それは今は置いとくとして、ワインの買い手になってくれそうな人間ならまだまだ心当たりがあるぞ」

「ほんとですか!?」

「ああ、これから引き合わせてやる。ついてこい」


 名の知れた冒険者パーティーのリーダーに、大きな店を何軒も経営してる酒場のマスター、王国関係機関のお偉い様などなど。ベルファストさんはお酒好きのお金持ちを次から次へと紹介してくれた。

 元々のワインの質やぺティーの知識にも助けられながら、私は1人1人契約を結んでいった。

 結果として大きな問題も起こらず、売買交渉は目論見どおり順調に進んだ。



「――久し振りね、元気だった?」



 途中、運輸局の建物に寄って交渉がてらアンナさんにもごあいさつ。彼女も試飲後、即座に大口での契約を結んでくれた。


「エミカちゃん、あのロートシルト代表と知り合いだったのね」

「え? あー、まぁ、知り合ったのは最近ですけどね」

「こないだ急遽1対1で顔合わせることになって何事かと思ったわよ。そしたらエミカちゃんがなんかとんでもない地下道を掘ったって聞かされるし、もー二重で驚いたわ」

「あう……」


 どうやら地下道の件はアンナさんにもけっこうな迷惑をかけてしまったようだ。

 でも、ロートシルトさんってそんな怖い人かな? 基本的には優しいおじいちゃんだと思うけど。


「なんか大変な思いさせちゃったみたいでごめんなさい。その、ちょっとこっちにも引くに引けない理由がありまして」

「ううん、もう済んでしまったことはいいのよ。ねねっ、それよりエミカちゃんに相談なんだけど」

「なんですか?」

「今度暇な時でいいからアリスバレーと王都のあいだに、もう1本地下道を掘ってくれないかしら」

「え、もう1本……?」


 何に使うのかと私が首を傾げながらに訊くと、アンナさんは地下に魔力列車を走らせる自らの計画を説明した。


「地下魔力列車って、そんなことできるんですか?」

「理論上は可能よ」

「うーん……」


 たしかにレールなら私が取りこんで設置していけばいいわけだし、あとは列車を乗っけて走らせればできなくはない、のかな……?


「実現すれば馬車よりも一度にたくさんの人と物を運べますし、いいかもですね」

「でしょ? なら協力し――」

「あと小口1つぶん契約を結んでくれたら考えてあげてもいいですよ」

「……エミカちゃん、しばらく会わないうちに商売が上手くなったわね」


 えっへん、と私が胸を張ると、アンナさんはやれやれと首を振りながらも、もう1枚の契約書に快くサインしてくれた。

 これで目標額まで折り返し地点を突破。

 ほんとに順調だね。


 そのままアンナさんとも別れて、一度ギルドに戻った。

 どうやらベルファストさんはこれからちょっと仕事の予定があるらしい。なので、交渉行脚は一時中断となった。



「――エミカ様、再びお会いできて光栄でございます」



 ぺティーと遅めの昼ごはんを屋台で買って公園で食べてると、また久し振りの再会。王立騎士団のラッセル団長がやってきた。話を訊くと私の目撃情報があったので、部下とともに王都中を探し回ってたとか。


「女王様がぜひお会いしたいとのことです」


 私は別に構わないけど、そんな簡単に謁見って許されていいものなのかな?

 ま、女王様がいいっていってるならいいのか。リリのことも少しは報告しないとだしね。


「……え、これからお城にいくんですか?」

「うん、ぺティーも一緒にいこうよ。ミリーナ様に紹介するからさ」

「そ、そんな私なんかが……む、無理ですっ!」

「へ?」


 しつこく何度も誘ったけど、畏れ多いという理由でぺティーには頑なに同行を断られてしまった。

 でも、これが普通の反応か。

 そんなわけで1人、私はハインケル城の門を潜った。


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