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98.焼き立てパンとメイド服


 結局、北東の地下道についても、翌日にはロートシルトさんが王都側に出向いて話をまとめてくれた。

 事前に私の名前を出しても問題ないかと訊かれたので、おっけーしておいたんだけど、それもあってあっという間の決着だったとか。どうも話を聞く限り、王都側の交渉のテーブルについたのはアンナさんだったみたい。なるほど、そりゃ理解も早いよ。

 ま、とにかくこれでローディスと同じく、王都からも通行料名目でお金を出してもらえることになって万々歳。

 そして――


「今後の警備体制や整備も踏まえて、モグラちゃんに1つお願いがあるわ。あの2つの地下道サクッと繋げちゃってくれない?」


 元々やる予定ではあったけど、アラクネ会長からもお願いされてしまったので、その日は北東地下道と南東地下道をまっすぐ1本の道で結んだ。これでローディス~王都間を直接行き来したい場合は地上に出ず、この直通路を使えばもっと早い移動が可能となる。

 2つの地下通路を繋げるという割りかし難しい作業だったけど、地下も地図化できる魔眼の機能で一発だった。



「――さあ、どうぞ焼き立てを召し上がってくださいですわ!」



 んで、さらに翌日のこと。

 前日に届いた小麦を使って、ローディスの工場ではいよいよパンの製造が再開。焼き立ての香ばしい匂いに私が堪らずめろめろになってると、スカーレットは味見を勧めてくれた。


「いっただきま~す!」


 まるっと形のいいロールパンにかぶりつくと、しっかりとした小麦の味が口いっぱいに広がった。


「んっ、うまい……!」


 パンを食べてここまで小麦の風味を感じるなんて初めて。焼き立てだってことを差し引いても、これは職人さんの腕がかなりいいって証拠だね。


「よろしかったら他のも召し上がってくださいですわ」

「え、いいの!?」

「もちろんですわよ。今日からすべてエミカの店に置く商品なんですから、まずはそのオーナーに味を見てもらわないとですわ」


 もっちりフワフワのパンに、サクサク生地のパン。さらには中にカスタードクリームが詰まったものや、ふんだんにナッツやチーズが練りこまれたものまで。

 焼き釜から取り出されたトレイの上には、アリスバレーじゃ見たことのないたくさんの種類のパンが並んでた。


「うん、どれもとっても美味しい! てか、甘いのはお菓子としても売れそうだね」

「果物があればもっといろんな種類のパンが作れますのよ」

「ほほー」


 それはいいことを聞いた。こないだ作った畑もまだ余ってるし、今後はブドウ以外の果物についても調整していきたいね。


「朝のぶんはこれで最後ですわ」

「んじゃ、ちょっと早いけど店まで運んじゃおう」


 焼き立てのパンを編みカゴに詰め、荷馬車に乗せて出発。

 モグラ屋さんに到着後、あらかじめ作っておいた1階店頭スペースに種類ごとにパンを並べた。

 ちなみにお試しの初日販売なので場所代は取らず、パンの値段もスカーレットに決めてもらった。すべては今日の売れ行き次第でいろいろ見定めていく予定だ。


「さあさあ、いらっしゃいいらっしゃい! 新商品ローディス直送焼き立てパンはいかがですかぁ~! モグラ農場産小麦100%使用ですよー!!」


 まずは定石どおり、呼びこみ&試食作戦を発動。

 午前中から常連さんの注目を集めて飛ぶように売れていく。

 昼時の正午には口コミでやってきた第一波のお客さんたちによって、あっさり朝のぶんのパンがすべて売り切れてしまった。


「ぐっ、想定よりも早い……!」


 昼過ぎには職人さんたちが焼き上がった追加のパンを運んできてくれたけど、並べる前にお客さん同士の争奪戦に発展。ちょっとした修羅場を招いた。


「まだ数はありますから! ど、どうか押さな……あ、ちょ、そこのお客さん! 押さ――うべっ!!」


 緊急事態だったので2階からルシエラを初め、ミニゴブリンたちにも下りてきてもらって対応。なんとか事なきを得た。


「わたくしにも何か手伝わせてくださいですわ!」


 みんなが一生懸命働いてるのを見て、スカーレットも居ても立っても居られなかったみたい。

 うん、その心意気はいいね。

 だけど、貴族のお嬢様にいきなり売り子をさせるのはちょっと不安だ。なのでここは適材適所。私は秘蔵のアイテムを手渡し、彼女に外での呼びこみを任せることにした。


「この服を着ればいいんですの?」

「そうだよ」

「でも、これってメイド服ですわよね?」

「そうだよ」

「アリスバレーでは客引きの際、このような服装になるのが慣わしですの?」

「……そうだよ」

「わかりましたわ! それではこのスカーレット・ローズファリド、文字どおり一肌脱がせてもらいますわ!!」


 地下の従業員スペースで、スカーレットにはこちらが用意したメイド服に着替えてもらった。

 でも、それはただのメイド服じゃない。普通のよりもスカートが短く、肩周りも露出してるかなり大胆なやつだったりする。

 え? なんでそんなもんがこの店にあるんだって?

 そりゃ私が以前、街の服屋さんに特注したからだよ。大量にね。


『エプロンよりもこっちのほうが絶対かわいいよ』


 そう吹聴しながら従業員(大人の女性限定)に配ったんだけど、結局みんな恥ずかしがって誰も着てくれず。そんな経緯で今日までタンスの肥やしとなってたモグラ屋さん公式制服(ユニホーム)だった。


「なんだかとてもスースーしますわ……」


 うん。

 露出した太ももと一緒に見えるレースのガーターが、なんというかまたアクセントになってるね。


「すごくエッ――じゃなかった、すごくかわいいよ」

「エミカ、これって本当に普通のメイド服ですの? なんかちょっと布の面積が少なくありませんこと……?」


 危なく勘づかれそうになったけど、「夏仕様だから」と補足すると、スカーレットは納得して客引きをがんばってくれた。

 その効果は絶大で、いつもより5倍の男性客を呼び寄せた。結果、昼過ぎに補充したパンもすぐに品切れとなり完売。相乗効果で他の商品も売れ行きが好調だったため、店はその日通常よりも早く営業を終えた。


「この調子なら余裕だね」


 もし売れ行きが悪かった場合、私が全部買い取ってからお店で販売しようかなとも考えてたんだけど杞憂だったね。

 閉店後の反省会の中、新商品(パン)のおかげで全体の売り上げが底上げされたことにも触れて、私は借金が返済されるまでは無償で売り場を貸すことをスカーレットに申し出た。


「……そこまで甘えてよろしいんですの?」

「ま、店にも得がない話じゃないからね」


 てか、本日一番の成果はあのメイド服の効果をスカーレットが示してくれたことだといっても過言じゃない。

 こうなったらオーナーとして、なんとしても制服を正式採用の方向に持っていかなきゃだよ。今日みたいに男性客が増えたら売り上げは2倍――いや、3倍だって夢じゃないし。


「フッフッフ、これからはメイドさんの時代だね……」

「いきなりなんの話ですの?」


 おっといけない。

 つい商人としての血が騒いでしまった。

 落ち着こう。


 そのあと初日の反省会を終えて、ローズファリド家の馬車で送ってもらえることになった。


「これがウチで育ててる果物だよ」

「こ、こんなにもらってよろしいんですの……?」


 ついでだったので家の地下農場の果物をどっさり渡しておいた。これで明日からはさらにパンの種類も増えるはず。今から楽しみだ。


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