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97.ぱぱっと掘ってきちゃった


 翌朝、いろいろ準備を済ませたあと、ルシエラとも合流して昨日開通させた地下道に向かった。

 今日はスカーレットをローディスに帰したあと、また新たな地下道を作る予定。なんで、てきぱき動かなきゃだ。


「――おう、会長から話は聞いてるぜ。昨日からネズミ1匹通してねぇから安心して入りな」


 アリスバレー南東の地下道に到着すると、数名の冒険者が入口で野営をしてた。どうやらアラクネ会長が出すといってた見張りの人たちみたいだね。しっかりお礼をいって私たちは地下へ進んだ。


「ルシエラ、ちょっとこの辺で停めて」


 暗黒土竜の魔眼で確認すると、ちょうど地下道の中間地点に当たる場所。そこで左右の壁を掘って大きめの空間を確保しとく。万一の事故やトラブルに備えての処置だ。

 その他にも薄暗い場所を見つけたら照明を追加で設置したりしつつ、あいだあいだに補足作業を挟みながら地下道を通過した。


「副会長のキングモールさんですね! どうぞお通りください!!」

「あ、どもども……」


 ローディス側の入口に出ると、アリスバレー側と同じように数人の冒険者が見張りをしててくれた。軽くあいさつを交わし、そのまま内街に向かう。

 結果としてギルドから1アワかからずローズファリド家のお屋敷に到着した。


「もろもろ準備がんばってね」

「エミカたちはこのあとどうするんですの?」

「ん、今日はこのまま一旦アリスバレーに戻るよ。まだまだやることがいっぱいあるからね」


 出発前、ロートシルトさんの使いがギルドにやってきて頼んでおいた照明器具を運んできてくれた。その際、小麦の件も明日から搬入できると確約をもらえたので、これからスカーレットにはパンの製造再開に向けて大急ぎで取りかかってもらう予定だ。


「……ありがとう、エミカ」

「え? いきなりどうしたの?」

「いえ、あなたがここまで人事を尽くしてくれてますのに、まだ一度のお礼もいえてませんでしたので」

「別にそんなの気にしなくていいのに。私も今回の件では報酬(ワイン)を受け取るわけだしさ」

「それは原料の黒ブドウの代金であって、わたくしが受けた恩に相当するものではありませんわよ。だからこのお礼はいつか必ず、別の形でお返ししますわ!」

「……」


 礼を返す。

 なんか勝ち気なスカーレットがいうと、怨みを晴らす的なほうの意味に聞こえてちょっと怖い。ま、貴族のお嬢様っていう、人を踏みつけながら「おほほ!」と高笑いしてる勝手なイメージが私の中で先行しちゃってるのもあるけど。


「でもスカーレット、まずはなんにしても借金返してからだよ。お礼してくれるかどうかはそのあと決めてくれればいいし」

「それでは、わたくしもエミカにきっちり恩を返すため、これから工場再開に向けて全力を尽くしますわ!」

「うんっ、お互いがんばろうね」


 ニカッと笑顔を浮かべつつ、私はスカーレットと別れた。


 そのあとルシエラの操縦でアリスバレーに戻ると、まっすぐ北東の街道へ移動。昨日と同じようによさげな場所を見つけ、モグラクローで入口用のスロープを作るとさっそく新しい地下道建設に取りかかった。

 先に入口部分を柵で囲い、雨よけの屋根も設置。

 十分なところまでスロープを伸ばしたところでモグラショートカットを発動。

 ()()の位置情報はすでに記録済みなので、暗黒土竜の魔眼で地図を拡大すれば方向は一目瞭然だった。

 まっすぐに一直線。

 最短距離で結べるように掘り進める角度を微調整する。


「よし、あとは掘りまくるだけ。ルシエラ、例のヤツちょうだい」

「御意」


 ルシエラから大きな布袋を受け取る。中には例のヤツ――もとい、スクロールがぎゅうぎゅうに詰まってた。


「持続時間を考慮した上、十分な本数を用意」

「ありがとー。んじゃ、いってくるね」

「ファイト」


 作業が終わるまで入口を見張っててもらうようルシエラにお願いしたあと、私は1本目のスクロールの紐を解いた。



「――祝福(ブレス)!」



 直後、怒涛の勢いで掘りはじめる。



「モグラショートカット! モグラショートカットモグラショートカット! モグラショートカットモグラショートカットモグラショートカット!! ショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカットショートカット――!!」



 アリスバレーとローディスを結ぶ地下道は馬車が2~3台とおれる幅だったけど、今回はちょっと広めに4台はとおれる幅を確保。ちなみに照明と有事用のスペースは帰りに設置する予定だ。

 とにかく今は前へ前へ。

 私はただひたすらに掘り進めていった。



「――祝福(ブレス)! モグラショートカット、モグラショートカット!」



 魔術の効果が切れたら背中の布袋から再度スクロールを抜き出し、素早く使用。継続して右爪左爪と交互に目にも留まらぬ早さで技を放っていく。

 そうやって作業を続けること1アワほど。やがて魔眼が示す先に王都の街並みが出現。距離としてもう目と鼻の先だったので、私は地上に向けてスロープを掘りはじめた。


「よっと……」


 ひょっこり顔を出した場所は荒野のド真ん中。

 500フィーメルほど先に久しぶりに見る王都の高い外壁があって、街道には馬車もちらほら。

 さすがに人通りも多かったので、今回は屋根も柵も作らずこのまま引き返すことにした。


「さてと、折り返しだね」


 帰りも祝福(ブレス)の効果を利用しながら、高い天井に直接飛び上がって照明を設置。有事用スペースもあいだに3ヶ所ほど作った上で、私はアリスバレー側の入口に戻ってきた。

 結果的に、帰りは行き以上に短い時間で作業終了。ほとんど地下道内をぴょんぴょんしながら駆け抜けた感じだった。


「ただいまー」

「おつ」


 馬車で3日ほどの距離なので、この地下道を使えば1アワ弱で王都へ着く。ローディスから王都の移動もアリスバレー経由なら2アワかからないはずだ。


「南東地下道と北東地下道(ここ)を結べば、さらに短縮」

「だね。でも、それは追い追いでいいかな」


 今日の仕事の予定を終えた私たちは馬車でギルドに戻った。

 そのあと、またぺティーとも合流して会議。お互い進捗の報告を行った。


「私のほうは販売用の契約書も完成しましたので、あとで確認のほうをよろしくお願いします。それと地下道の件なんですが、ロートシルト代表がもうあちらとお話をまとめたそうです。ローディス側が通行料名目で毎月一定額を支払うことで落ち着いたみたいですよ」

「へー」


 よくわからないけど、その通行料を維持費や警備費に回す予定らしい。


「契約内容の写しをいただいてきましょうか?」

「いや、別にいいよ。お任せで問題ないだろうし。それより王都のほうの地下道なんだけど、あっちの対応もアラクネ会長とロートシルトさんにお願いしていいのかな?」

「……え? あ、今後のことですか? それは地下道が完成する目処が立ってからでいいと思いますよ」

「いや、もうあるよ地下道」

「へ?」

「さっきぱぱっと掘ってきちゃった」

「……」


 私が報告すると、ぺティーはあんぐりと口を開けて固まった。まさか昨日の今日で開通させてくるとは思ってなかったみたい。


「エミカさん、そういう重要なことは実行する前にちゃんと報告を。対応が後手になった挙句、取り返しのつかないことになる場合もあるんですから」

「ご、ごめんなしゃい……」


 ぺティーにちょっとだけ怒られた。

 でも、たしかに先走りは禁物だね。

 反省はんせいっと。


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