93.ふぇぇ・・・
工場と醸造所の視察を終えると、私たちは北西に向かった。
まだローディスにきて数アワぐらいしか経ってないけど、期日を考えればできるだけ早くアリスバレーに帰らなきゃいけない。なので、これから掘って掘って掘りまくらないとだった。
「先ほどのワインの件といい、本当にそんなことが可能ですの……?」
街を出る途中、爪の能力(新技)について説明すると、スカーレットはひどく困惑した様子で首を傾げてた。
ま、無理もない。
こっからアリスバレーまで地下道を掘るってだけでも信じ難いと思うし、距離が地上と比べてめちゃくちゃ短くなるとかもう何いってんだって話だよね。
「向こうに簡単に行き来できるようになれば、より早く小麦を工場に届けられるし、作ったパンもあっちで販売できるよ」
「いいこと尽くめなのは承知してますわ。けれど、馬車で丸1日かかる距離を……」
「それは爪が空間に干渉してどうたらこうたらで」
「無駄。論より証拠」
そこで私の説明を遮る形でルシエラが強く断言した。
んー、たしかにここで爪の能力を詳しく説明したところで、誰もすんなり納得はしないか。良くて半信半疑、悪くて疑心暗鬼になっちゃう。あと、そもそも私だってこの力のすべてを把握してるわけじゃないもんね。
「んじゃ、とりあえずサクッと入口掘ってきちゃうから、スカーレットは執事さんたちとここで待ってて――」
ローディスの街を出て、今朝とおってきた北西の街道に到着すると、私はルシエラと一緒に馬車を降りた。
「この辺でいいかな?」
「妥当」
街道から少し離れた平原に移動したあと、まずはモグラクローでなだらかな坂道を掘っていく。後日戻ってきて手直しするのも面倒なので、横幅は余裕を持って広めにした上、入口部分の柵やら屋根なんかも先にモグラウォールでぱぱっと作っておいた。
「あ、でもこれだと目立っちゃうか」
「見張り役が必要」
「だね。お~い、スカ~レットー!!」
遠目からだと大きな建物に見えるだろうし、街道をとおる人たちが興味本位でやってきたりしたらちょっと面倒。なんで馬車で待機してたスカーレットを呼んで、しばらく入口を見張っててもらうことにした。
「わかりましたわ。ここにいればいいんですのね」
「うん、悪いけどお願いね。ある程度掘り進めたらまた呼ぶからさ」
馬車を地下道に入れる段階になったら、入口は封鎖……いや、それはちょっと怖いから〝工事中〟の立て看板でも刺しておけばいっか。
「――モグラショートカット!」
ある程度坂道を伸ばして深度を下げたところで、いよいよ新技の出番だった。入口の幅のまま、馬車が同時に2、3台とおれる広さの地下道を掘っていく。
途中、方向が合ってるか気になったので、私は現在地を確認するため頭の地図スコープをスライドさせた。
「あれ、マップが表示されない? あ、そっか、地図スキルないとダメなんだっけ……」
「問題ない。こんなこともあろうかと」
「おー」
用意のいいことに、そこでルシエラが地図の技能スクロールを1本取り出して渡してくれた。今回の討伐依頼に当たって、ほんといろんな種類のスクロールを店から持ってきたみたいだね。
ありがたく使わせてもらってから地図の縮尺をいじると、方向が間違ってないことが確認できた。
「おっけー、このままじゃんじゃんいこう!」
モグラショートカットの連打に次ぐ連打。
ボコボコと、順調に地下道を伸ばしていく。
「あ、そろそろかな」
しばらく作業を続けたところで、私はまた地図スコープをスライドさせて問題がないかを確認した。方向の見極めもだけど、もしさっきのスキルで追加したマップの範囲外に出てたら、もう一度ルシエラからスクロールをもらって地図を更新しないとだった。
「……ん?」
でも、そこでふと異変に気づく。
さっき追加された範囲を越えて、明らかに進行方向側にマップがズイズイッと伸びてた。なんか知らないけど、歩いた場所が勝手に地図化されたみたい。
しかもボタンいじってたら、今掘ってるこの地下道の地図らしきものまで表示されたんだけど?
何これ?
「もしかして、さっき使ったスクロールの影響とか……?」
「否定。元々の機能では?」
いや、それはおかしい。
だって、王都で地下道路建設してた時もスコープに映ってたのは地上部分だけだったし、アリスバレーのマップ情報が入ってるのもこないだユイにお願いして更新してもらったからだ。
「あと魔道具屋の店員さんも、そんな機能があるなんて一言もいってなかったし」
「提言。調査の申請」
「……え、今? どうやって?」
「こんなこともあろうかと」
訊くと、アイテム鑑定用の技能スクロールも持ってきてるらしい。この魔女さん、ほんとに用意がいいね。
「んじゃ、はいこれ」
断る理由もないので地図スコープを外して渡す。
結果はすぐに出た。
―――――――――――――――――――――――――
※分析結果(対象:アイテム)
アイテム名:暗黒土竜の魔眼
効果 :不明
―――――――――――――――――――――――――
「……はい?」
「復唱。〝暗黒土竜の魔眼〟」
「………………」
え、なんで?
地図スコープだよ?
今、暗黒土竜は関係ないじゃん。
「興味深い」
「私は怖いよ……」
「エミカ、他のアイテムも調査希望」
「へ?」
「これも魔術の発展のため」
「えぇ~……」
無表情でグイグイ迫ってくるルシエラに逆らえず、しかたなく今度はモグラモドキブーツを脱いで渡した。
―――――――――――――――――――――――――
※分析結果(対象:アイテム)
アイテム名:暗黒土竜の後脚
効果 :不明
―――――――――――――――――――――――――
「――ちょ、後脚って!? さっきからどういうことなのこれ!!」
「推測。エミカが長く身につけたことによる影響」
「何それ!? ほんとに怖いし!!」
「次は衣服を調査希望」
「えぇっ!?」
「早く」
「……マ、マジですか?」
「本気」
「う、うぅ……」
恥ずかしかったけど、モグラの爪に関する調査はルシエラとの約束でもある。渋々、私はその場でオーバーオールを脱ぎ捨てた。
てか、なんでこんな薄暗い地下で私は身包みを剥がされてるんだろうね。ちょっと虚しさを感じつつ、鑑定の結果を静かに待った。
「変化なし」
「ほっ……」
幸いなことに、オーバーオールはオーバーオールのままだった。
どうやら影響が出るのは魔道具限定みたいだね。さすがに私服まで〝暗黒土竜の○○〟って鑑定されたら嫌すぎるのでよかったよかった。
「提案。〝モグラチェンジ〟では?」
「あ、そうだね。これも一応技名みたいなのは決めておいたほうがいいか」
――モグラチェンジ。
詳しい発動条件は不明だけど、身につけたアイテムが変化するこの現象は今後そう呼ぶことにする。
てか、アイテム鑑定で効果がわかればもっと解明は進んだかも。なのでその点は残念だ。ま、でも今は穴掘り中だし、今日の調査はここまでにしておこう。
「ルシエラ、そろそろ私のオーバーオール返――」
「次は下着を調査希望」
「……」
「……」
「ルシエラ、そろそろ私のオ――」
「次は下着を調査希望」
「……」
「……」
「……じょ、冗談だよね?」
「これも魔術の発展のため」
「あ、ちょ、待ってストップストップ。そ、その、私にも羞恥心というものがありまして……」
「大丈夫。人は誰しも裸で生まれてきた」
「何その説得!?」
「私たちは女同士。倫理的問題は何もない」
「いやいやいやいや、落ち着こうよルシエラ! たとえ女同士でも越えてはならない一線というものがあ――」
「うるさい。いいから脱げ」
「なんかキャラ変わってない!? あ、てかほんとダメだって! ダ、ダメ……ひっ!?
い、
嫌
あ”
あ”
あ”
あ”
あ
あ
あ
あ
あ
あ
あ
あ
あ
あ
あ
あ
あ
あ
あ
あ
あ
あ
あ
あ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
っ
っ
!」
――そして、数ミニット後。
「何事ですの! 入口まで叫び声が――!」
やがて私の悲壮に満ちた悲鳴を聞いて、勇敢にもスカーレットが駆けつけてくれた。
「鑑定開始」
「ふぇぇ、もうお嫁にいけないよぉ……」
でも、時すでに遅し。
偉大なる魔術の発展のため、私の操はもう完全に犠牲になっちゃってた。
「――っ!?」
あられもない姿でシクシクと泣きながら地べたに座りこんでる私と、私の下着を広げてマジマジと真剣な面持ちのルシエラ。
「な、なんなんですのこれはっ――!?」
直後、惨状を目の当たりにしたスカーレットの絶叫が地下に木霊した。
「下着。変化なし」
「ふぇぇ……」
追伸、結局パンツもパンツのままでした。
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┏━━━━━━━━━━┫ 借金2億┃
┃エミカ・キングモール┣━━━━━━━━┫
┠──────────┨ 腕力:125┃
┃ 職業:冒険者 ┃ 体力: 18┃
┃ 性別:♀ ┃ 魔力: 1┃
┃ 等級:木級 ┃ 気力: 99┃
┣━━━━━━━━━━┫ 知性: 89┃
┃Eモグラの爪 ┃ 俊敏性: 90┃
┃Eオーバーオール ┃ 幸運: -1┃
┃E暗黒土竜の後脚 ┃ ┃
┃E暗黒土竜の魔眼 ┃禁魔法:Lv.4┃
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