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90.ローディスへ


「――正直、姫さんたちがエスコートするってんならこっちも助かる。副会長なら馬車の貸与も問題ないしな」


 ガスケさんたちとも相談したところ、今から私たちが抜けても討伐任務に支障はないとの返事をもらった。

 ギルドの代表としてきてるのに途中で離脱なんてあとあと問題にならない? とも疑問をぶつけてみたけど、緊急時は私の判断を尊重するようにと、みんなあらかじめアラクネ会長からいわれてたみたい。


「でも、さっきみたいな特殊体がまた出てきたら……」

「あのお嬢さんにはさっきああいったが、あんな化け物は早々出てきやしねぇよ。何、心配はいらねー。大丈夫だ」


 いや、心配というかですね、私としては引き止めてほしかったんですが……。

 あーあ、これで護衛の依頼を断る最大の口実が消えてしまった。完全に外堀が埋まっちゃったよ。埋めるのは私の仕事なのに。


「うぅ……なんか、あの女の子の強引さに負けた気がする……」


 てか、土下座はずるいと思うんだ。

 完全に禁じ手だよ。土下座したら土下座された側はたじろぐしかないし、家賃滞納して地面に額こすりつけて3ヶ月も返済期限延ばしてもらうとか、人としてやっちゃダメ。うん。ほんとその節は申しわけございませんでした大家さん。


「……ぐふっ!」

「姫さん?」


 見事にブーメランが突き刺さったところで、さっき防御用に掘った浅い穴をモグラリカバリーで埋め埋めしとく。そんで横転した荷台から女の子たちの荷物を私たちの馬車に移したりなんかして、気は乗らないけど出発の準備を進めた。

 ローディスまでいくとなると最短で帰れたとしても明後日になるので、その辺の問題はガスケさん経由でユイ宛てに伝言をお願いした。お店と家にしばらく帰れない旨を伝えておけば、まー問題はないだろう。


「伝言は任せろ。必ず伝える」

「お願いします」

「てか、姫さん、あのローズファリド家のお嬢さんなんだがな」

「ん?」

「……いや、これは姫さんが気にすることじゃねぇか。悪い、今のは忘れてくれ」

「えー」


 いやいや、そんないわれ方したら逆にすごい気になるよ?

 ま、忘れろっていうなら忘れるけどさ……。


 そのあと一応念のため、ルシエラが持ってきたスクロールをいくつか渡しておいた。

 ガスケさんはああいってたけど、万一ってこともあるしね。


「申し遅れましたわ。わたくしの名はスカーレット・ローズファリド。どうかスカーレットとお呼びくださいまし」

「私はエミカだよ。エミカ・キングモール」

「ルシエラ・ルルシュアーノ。さすらいの冒険者兼、モグラ屋さん店員」

「……モグラ屋さん?」

「あ、執事さんたち用意できたみたいだよ。私たちもいこうか」


 準備完了後、自己紹介もそこそこにローディスに向けて出発した。

 御者台に女子3名、荷台に執事さん3名が乗車。ルシエラの手綱さばきで、馬車は街道をガタゴトとひた走る。

 澄んだ空を見上げると、お日様はまだかなり高い位置にあった。


「ねえ、そろそろ詳しい事情ってやつを説明してもらってもいいかな?」


 ただ景色を眺めてるのも暇なので、道中、私はスカーレットからことの詳細を訊き出した。


「――と、そういう状況なわけですわ」

「はへー」


 彼女の話を簡単にまとめると、以下。

 スカーレットは現在、貴族の名門(?)であるローズファリド家の当主を務め、亡くなった父親に代わって家業を継いでいる。だけど、最近になってその経営が悪化。苦しい状況の中、別の貴族からお金を借りてなんとか破綻は免れたものの、今度はその借金で首が回らなくなった。

 んで、明日お金を借りたその貴族のとこにいって、経営立て直しの目処がついたことを説明するって流れみたい。


「話し合いが上手くいかなかったらどうなるの? 利息が増えるとか?」

「家が乗っ取られてしまいますわ」

「……」


 大損とかそんなレベルじゃなかった。

 お家の一大事だった。


「そ、そっかぁ……」


 踏みこんではいけないところに無闇に突っこんだ感じ。

 ダメだ、気まずい。話題を変えよう。


「そういえばスカーレットって歳いくつなの?」

「今年で14になりましたわ」

「あ、んじゃ同い年だね! その若さで当主ってすごいね」

「お父様も、お兄様たちも全員いなくなってしまいましたから。私が頑張るしかないのですわ」

「……」


 あわわ、また激しく突っこんだ!

 てか、ローズファリド家にはちょっと複雑な家庭の事情ってのがあるみたい。まだいろいろ気になることはあるけど、これ以上無粋な質問はやぶ蛇になるだけだしやめておこう。


「……い、いい天気だね」

「そうですわね」



 ――ふわり。



 ふと、そこで心地よい風が吹いてきて、腰まであるスカーレットの長い髪をなびかせた。柑橘系のいい匂いが漂う。

 なるほど、これが〝お嬢様〟の香りか。

 なんかふにゃ~ってなるね、ふにゃ~って。


「んー」


 いや、それにしても、貴族っていってもピンからキリまであるのかもだけど、大抵は裕福な家庭のはず。それなのにこんな苦労してる子もいるんだね。借金で首が回らないとか、少し前の自分の姿と重なって親近感だよ。いや、よく考えたら今も2億の借金あったよ。今の姿とも重なってさらに親近感だ。


「――到着。本日の移動終了」


 そのあと日没まで馬車を飛ばし、ほぼ目標にしてた地点までやってきた。そのまま執事さんたちと協力して野営の準備に入る。

 夕食は硬いパンと薄味のスープだった。

 こんなんじゃスカーレットが怒り出すんじゃないかとハラハラしたけど、彼女は文句1ついわずお行儀よく食べてた。相手が貴族だろうと何事も偏見を持つのはよくないね。

 食後、イエローワームの発生地域を抜けたのでもう安心ではあったけど、念のため交代で見張りをすることになった。執事さんたちはテントの中で、私たちは馬車の中で就寝させてもらう。

 そして翌朝、起床。

 まだ日も昇らないうちに再出発。

 それから数アワほどしてようやく私たちはローディスに到着した。



「――ローディス。この地方で流通の要となっている大都市。また、各地から集めた潤沢な資材や資源を使い、多岐に亘る加工品を作製・製造する工業都市でもある」



 ルシエラの情報に、私もうんうんと頷く。

 アリスバレーに入ってくる物のほとんどはローディス経由で運ばれてきてるし、大モグラ農場で生産された小麦も大部分はローディスを経由して各地に送られている。

 生まれて初めてきた街ではあるけど、私たちの生活とも根深くかかわりのある場所だった。


「おー、ここがローディスか」


 馬車を進めて街中に入る。さっそく建ち並ぶ赤い屋根の家々がお出迎え。ルシエラの情報では単純な街の面積はあの王都よりも大きいらしい。


「でも、外壁はないんだね」

「いいえ、ありますわ。ここはまだ()()ですの。もう少し中心のほうにいけば見えてきますわよ」


 スカーレットの話では、ローディスには外街(そとまち)内街(うちまち)があるという。外街には庶民が、内街には貴族が。それぞれわかれて住んでるんだそうだ。

 ま、元々は貴族が造った街の周辺に、勝手にどんどん人が移住してきちゃったから外壁を立てたって話らしいんだけど。


「んじゃ、私たちはここまで?」

「……いえ、時間がありませんわ。このまま伯爵の邸宅まで直行させてくださいまし」


 とりあえず依頼料やら馬車の賃貸料はスカーレットの用事が済んでからという話になった。もしここで依頼終了ならルシエラと一緒にローディス観光でもしようかなって思ってたけど、そういうことならしかたないか。


 しばらく大きなとおりに沿ってまっすぐ馬車を走らせてると、やがてネズミ色の大きな壁が見えてきた。高さは王都の物と比べると半分ぐらいだけど、とっても頑丈そうだ。


「お2人とも、門兵さんに何か質問された場合は口裏合わせをお願いしますわ」


 ローズファリド家の客人として内街に入ることになった。怪しい目でジロジロ見られたけど、特に大きな問題もなく門を通過する。

 壁の中に入ると、外街と違って大きな屋敷ばかりが目立つようになった。それら一軒一軒が貴族の家らしい。


「うわ、同じ街なのに中と外じゃ別世界だね……」


 そんな感想を漏らしながらキョロキョロしてると、やがて目の前に一際大きな邸宅が見えてきた。


「あそこですわ」

「了解」


 ルシエラが黒い鉄扉の前で馬車を停める。近くには石造りの小屋があって、少しするとそこからメイドさんらしき女の人たちが出てきた。


「……スカーレット・ローズファリドですわ」

「はっ、スカーレット様。伯爵様よりお話は伺っております。どうぞこちらへ」


 ゆっくりと、左右に鉄扉が開いていく。

 未だ馬車の傍で待機してる様子を見るに、こっちの執事さんたちは誰もスカーレットについていかないみたいだ。

 もしかしたら、その家の使用人は別の家の敷地には入れないみたいなルールでもあるのかな? お世話する人が訪問する側と訪問される側で二重にいたら混乱しそうだもんね。



 ――ガシャン。



 黒い鉄扉が開く音。

 敷地の中にいるメイドさんたちと向かい合うスカーレット。



「………………」



 まるで時間が止まったように、そこで流れる沈黙。

 私も含めてみんなが待つ。

 けれど、いつまで経ってもスカーレットが動く気配はない。


 どうしたんだろ?

 気になったので後ろから声をかけてみる。

 近づくと、彼女の身体が小さく震えてるのが見えた。


「大丈夫?」

「……」


 返事はなかった。

 スカーレットは俯き加減で暗い表情を浮かべながら、何かに怯えるように地面の一点を見つめている。


「怖いの?」


 今度は返事を待たず、その手を握った。

 そのまま邸宅のほうにスカーレットを引っ張っていく。


「エ、エミカさん――!?」

「依頼のついでだし、私もついてっていいかな?」

「……」

「あ、それと私も呼び捨てでいいからね」


 スカーレットが断るようだったら戻るつもりだったけど、広い庭園を抜けて邸宅に入るまで彼女が私の爪を離すことはなかった。


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