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89.エスコート依頼


 戦闘終了後、渓谷の縁に階段を作って穴の底に下りた。

 まずは絶命したイエローワームから杭を回収しとく。全力モグラパンチでも壊れない貴重な宝石だからね。王都のあの怪物の時はだいぶ使っちゃったし、爪の中に戻せるならすぐに戻しておきたかった。



 ――プスプス、シュ~。



「はへー、近くで見るとまたでかいね……」


 イエローワームの身体はまだ燻ってて、近づくとナッツみたいな香ばしい匂いがした。

 ルシエラの話では防具の素材としてだけじゃなく、ポーションの材料にも使えるらしい。解体は大変そうだけど、これだけ大きいとすごい量が作れそうだ。


「お手柄」

「ルシエラがサポートしてくれたおかげだよ。てか、これって討伐数としては1匹って扱いになるのかな?」


 ロートシルトさんを破産させたいわけじゃないけど、ちょっと気になるところだ。貢献度を測る上で重要な指針にもなるからね。

 ま、大きな被害を出すことなく倒せたわけだし、1匹で換算されてもまったくゴネるつもりはないけど。


「さて、やりますかー」


 宝石を回収後、私は本格的に後片づけを開始した。

 まずはモグラウォールで穴底を押し上げて一気に渓谷を埋めていく。倒したイエローワームごと地上へ昇る形だ。これで巨大な死骸を引き上げる手間もなくなって回収もらくちん。ぱぱっと終わらせる。


「えいっ」


 次に平地に戻ってきた私は、確認のためモグラモドキブーツの先端で地面を蹴った。

 直後、抉れた土が数フィーメル先までバラバラと飛ぶ。


「やっぱ〝元に戻す〟ってイメージを強く持つと、固定化も解除されるみたいだね」


 リリースした土をただ穴に流すだけなら魔力栽培用の畑になるし、ブロックで綺麗に穴を塞いだとしても地表は固定化されたままの状態で残ってしまう。

 だから一度爪の影響を受けた場所から効果を完全に取り除くには、復元するイメージを持ちながら穴を埋める必要がある。それは、こないだの調査でわかったことの1つだった。


「重要法則」

「後始末は大事だもんね」


 爪の影響を受けた場所に干渉できるのは、たぶん私だけだ。

 なので無計画に穴を掘って残しておくと、あとあといろんな問題を生む可能性があった。


「あ、一応これも技名つけておいたほうがいいのかな?」


 覚えてる限り、今まで無意識に掘った穴を復元してたケースもかなりあったと思う。

 だけど、技を意識してやるとやらないとじゃ大違いだし、やっぱ名づけておいたほうが無難か。


「提案。〝モグラリカバリー〟では?」

「んじゃ、それで」


 ルシエラにさくっと決めてもらって、私たちは歩いて後方部隊のほうに戻る。今度はイエローワームを打ち上げた土柱を壊さないとだった。


「お、英雄のご帰還だ!」

「嬢ちゃんたち、見てたぜー!」

「がはは、まさかアレをあんな方法で倒しちまうなんてな!」

「よっ、救世主!!」

「女神様ー!!」

「ありがとよ!!」

「助かったぜ!!」

「ブラボー!!」


「うわっ……」


 横転した馬車のところまでくると、待ち構えてたたくさんの冒険者に囲まれた。拍手喝采の中、戸惑いながら柱に向かう。


「どうもどうも……」

「フッ、喝采感謝」


 こういう扱いには慣れてるのか、サムズアップしながら周囲の歓声に堂々と応えるルシエラ。

 一方、こういう扱いに慣れてない私はその陰に隠れて進む。


 ヤバい、なんだろこれ。

 嬉しいけど、超恥ずかしい。


 油断すると顔がニヤけそうになるので、さっさと用事を済ませる。目の前の土柱を縦長に何度かにわけて掘削。なんか歓声がどよめきに変わったけど、無理やり気にしないことにする。そのままサクッと作業を終えた。


「よう、お疲れさん」


 念のため地面の確認をしてると、大きな斧を持った筋骨隆々のオジさんが私たちに声をかけてきた。


「あんたらのおかげでこっちは軽傷者数名で済んだ。ここにいるメンバーを代表して礼をいうぜ」


 やたら風格があると思ったら、どうやら後方部隊のまとめ役をしてる人らしい。オジさんの話では軽傷者の治療と馬車を修復するのにまだ少し時間がかかるんで、ガスケさんたち先行部隊の状況を確認しておきたいんだそうだ。


 あれ? そういえばガスケさんたち、なんでこっちこないんだろ? まだ乗客の人たちの治療が終わってないとか? いや、もしかしたら後方部隊がくるのを待ってるのかも?

 ま、200フィーメルも離れてないし、直接確認しにいけばいいか。向こう側で浅く掘った段差も、モグラリカバリーで元に戻しておかなきゃだしね。


「こっちの馬車、1台借りてもいいですか?」


 こっちのことはこっちに任せて、あっちは私とルシエラで様子を見にいくことになった。

 馬車を飛ばしてすぐに到着。

 御者台を降りてみんなのほうに向かってると、言い争うような声が聞こえた。なんか揉めてるみたいだ。さっきの綺麗な女の子とガスケさんが険しい顔で睨み合ってた。


「みんな、ただいま」


 私が声を発すると一斉に注目された。状況が状況だし、ちょっと恐い。


「あ、2人ともおかえり~! さっきの活躍見てたよぉ、すごかったー!」

「……いや、あの、それより何があったんですか?」


 真っ先に駆け寄ってきたホワンホワンさんに訊くと、華やいだ笑顔も一転、彼女は気まずそうな表情になって言葉を濁した。


「ええっと、それがねぇ……」

「聞いてくれよ、姫さん! このお嬢ちゃんがいくらこっちが無理だっつっても耳を貸さねぇんだ。さっきからローディスに帰る帰るの一点張りでよー!」


 女の子と向き合ってたガスケさんが助けを求めるように叫ぶ。詳しい事情を訊くと、安全のためアリスバレーに一度避難してもらいたいのに、女の子がそれを頑なに拒否してるという。


「どうしても明日の朝までには帰らなければなりませんの!」

「馬車もなしにどうやって帰るっていうんだ!?」

「ですから! それはあなた方の馬車を貸していただきたいと、先ほどから申してるじゃありませんか!」

「だからそれはこっちも何度もいってる! ここにある馬車はギルドの所有物で、俺たちの権限じゃ渡せねーって!!」

「こんなにあるんだから1台ぐらいいいじゃありませんか! お金ならあとできっちり払いますわ!」

「……ぐっ、だからなぁ~!」


 あの割りと優しいガスケさんが顔を真っ赤にして怒ってる。この様子を見るに、さっきからこの押し問答を何度も何度も繰り返してるみたいだ。相手がいいとこのお嬢様じゃ力尽くってのも無理だし、だいぶ押されてる印象を感じるね。


「わかったよ! んじゃ、100歩譲って馬車を貸したとしよう。だが、それでまたさっきみたいにモンスターに襲われたらどうすんだ? 無事にローディスに帰れるとは限らねぇってことを少しは理解してくれ!」

「それなら護衛として馬車ごとあなたたちも雇いますわ。冒険者は護衛の仕事も受けてくださるんでしょう?」

「いや、だからよ……そもそも馬車を貸すってのは仮定の話であって、しかも俺たちは別の依頼の途中で護衛を引き受けてる暇はな――」

「そうだわ、それが一番よ! そこのあなたたち!」

「ふぇ?」


 薄紫色の髪の女の子はガスケさんから離れると、なぜか突然私のほうに向かって歩いてきた。

 ジッとこちらを見据えたままの彼女。その瞳は緑色に輝いてる。


「あのモンスターを倒すところはここから拝見させていただきましたの。ローディスまでの護衛はあなた方2人にお願いするわ」

「あ、いや、私は――」

「そうと決まれば長居は無用ですわね! さっさと出発しますわよ!」

「え? ちょっ!?」


 そのままルシエラと2人、女の子にグイグイ腕を引っ張られる。どうやらこっちの話を聞くつもりはまったくないみたい。

 あまりの強引さに面食らって、私はしばらくされるがままになった。


「……ま、待って待って! いきなり意味がわかんないし!」

「わたくしはローディスに帰る。そしてあなた方はローディスまでわたくしを送り届ける。以上ですわ、よろしくて?」

「よろしくないよ! こっちにだって予定ってものがあるし……第一さ、なんでそんな急いでるわけ?」

「今それを詳しく説明している時間はありませんわ。ただ、どうしても明日の朝までにこの証書を持って、わたくしはとある人物と話をつけないといけませんの!」


 一枚の羊皮紙を広げながら力強い口調で明日の予定を話す女の子。証書には小麦の買いつけを証明する内容が記載されてるんだそうだ。

 よくわかんないけど、何かの交渉に臨むみたいだね。もしかしたら取り引きで大損する瀬戸際なのかも? だとしたら彼女が焦ってる理由もよくわかった。


「ねえ、悪いけど……」


 でもね、こっちにだって予定ってもんがある。それにいくら偉い家の子だったとしても、ちょっとこのやり方は強引すぎだよ。誰だってこんな扱いされたらいい気はしない。


「私たちも、大事な任務の途中なんだ。だから――」


 強引な相手にははっきり〝ノー〟と伝えるのが大事。依頼をきっぱり断るため、私は強い意思を持って言葉を紡いでいく。

 だけどその途中、女の子は忽然と姿を消した。


「あ、あれ……?」


 キョロキョロと辺りを見回すも見当たらない。

 それでも、なぜかみんなの視線が私の足元へ集中してる。

 いや、まさかね。そう思いながら下を見るとそのまさかだった。



「お願いしますわ! もうあなた方しか頼れる人がいませんの!!」



 女の子は地面に両手両膝をつけた状態で、深く頭を下げてた。なんかすごい小さく丸まってる。


「「「お嬢様っ――!?」」」


 女の子の〝土下座〟に驚いた執事さんたちが飛んできて、「お召し物が汚れてしまいます!」とか「高貴な御方がそのようなことを!」とかいって、必死にやめさせようとする。

 でもそのあいだも、女の子は一度だって顔すら上げなかった。


「わたくしのプライドなど気にしてる場合ですの!? ローズファリド家に仕える者なら今一番に何をすべきか、よくお考えなさい!!」

「「「お、お嬢様……」」」


 それどころか一喝した上、大人の執事さんたちも土下座仲間に加えてしまう。


「「「どうかお願い致します――!!」」」

「……」


 こうして私の前には平伏す人物が4名。

 みんな許しを請うように、ただ頭を下げ続けてる。


「え、えっと……」


 いや、何これ?

 別に悪いことしてないのに、すごい罪悪感だし。



「――はっ!?」



 ふと辺りを見渡すと、みんながなんともいえない顔でこっちを見てた。なんかこの状況を生んだ原因が、さも私にあるかのような空気を感じる。

 あれ、なんで?

 いや、私、巻きこまれただけだよ。みんなも見てたよね?


「……え、違う違う! 違うよっ!?」


 これはイカン。

 そう思い、何も強要してないことをアピールするため、慌てて顔の前で両爪を交差するようにブンブンと振る。


 ――ガシッ。


 直後、そんな私の肩をつかむ者。

 振り向くと魔女がいた。


「ルシエラ……」


 あ、そうか!

 彼女も私と同じ側で巻きこまれた立場の人間。つまり協力してこの状況の打開を図っていこうってわけだね。よし、わかった。それなら口下手な私は一旦引いてこの場は任せることにしよう。私たちはただ依頼を断りたいだけであって見返りなんて一切求めてない。それをいつものように理路整然と説明しちゃってくださいよ、ルシエラさん!


 そう瞬間的に理解した私と同じく、ルシエラもこちらの心の内を察してくれたようだった。


「んっ」


 私の目を見つめたまま力強く頷くと、悠然と土下座してる女の子の前まで進む。

 そして凛としたよくとおる声で、彼女ははっきりといってくれた。


「代弁。誠意を示す方法としてこのやり方は絶対的不正解」

「そうだそうだ! 土下座なんかしてもなんの意味もないよ!」

「エミカが求める誠意の形はただ1つ、それはお金」

「そうだそうだ! 土下座なんか1マネンの価値にも――って、ルシエラ!?」


 全然察してくれてなかった。


 結局、そのあとルシエラが勝手に依頼料の交渉を進めたりなんかして、もう一度落ち着いて話し合おうって雰囲気になった挙句、結論としてはなぜか女の子の依頼を受けることになった。


 あれ、おかしいな。

 受けるなんて私、一言もいってないんだけど……?


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