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85.爪の新たなヤバい能力


 お店でスクロールを売りはじめて1週間が経った。

 主婦から冒険者まで、客層の幅も広がり経営は順調そのもの。搬入・陳列・販売もソフィアを中心に熟練度が増してきてる。ミニゴブリンたちもいるし、通常業務についてはもう私がいなくても問題なさそうだ。


「本日も検分希望」

「あいよー」


 業務の合間を見て、ルシエラとの約束も果たした。

 お店で働く条件として引き受けた、モグラの爪の調査協力。

 最初はプニプニ触ったり、ツンツン突っついたりと、基本的な検査(?)だけだったけど、そのうちに教会近くの空き地に移動して本格的な調査が進められた。

 爪の威力に掘削能力、リリース時の加工技術など、基本技から派生技まで。私はルシエラの前で様々な能力を披露した。


 その中で取り分け彼女が注目したのは、モグラクローで地下道を掘ると距離が短縮される点だった。ざっくり歩数計算ではなく、地図系のスクロールを使用した上で初めて正確な距離が割り出された。


「ぴったり地上の1/4」

「へー、ぴったりなんだ? てか、最初は半分だったから、禁魔法(ドグラ・モグラ)のレベルが上がったらどんどん短縮される距離が長くなると思ってたんだけどね」

「レベルと短縮比率の情報求む」

「えっと、たしかレベル2になった段階で1/4になって、それからはそのまんまだね。そういえば一度に掘れる量も出せる量も、レベル2以降からは変わってないや」


 ま、何も変化がなかったからこそ、レベル3になった時点でモグラクリエイトって技に気づけたわけだけど。


「モグラクリエイトによる加工技術とレベルによる関連性は?」

「うーん。レベル3もレベル4()も違いはないような……? そもそもどのタイミングでレベルが上がったのかもわからなかったし。ただ、モグラクリエイトは使い続けるうちにどんどん使い勝手がよくなってる気がするよ。最初はシンプルな物しか作れなかったけど、今はそこそこ複雑な物も作れるようになったしね」


 それはモグラクローやモグラウォールにも当て嵌まることだった。イメージを繰り返すことで、最初は難しかったことが段々とできるようになっていく。


「意識を同調させることで本領を発揮。レベル値よりも、イメージ力が重要条件だと推測。エミカ、もう一度先ほど掘った地下道へ。試みたいことがある」


 その感覚がヒントになったのか、ルシエラは何かを思いついたようだった。そのまま2人で地下道に移動して、土壁を前にして3フィーメルほどの横穴を掘る。

 一見は普通のモグラクロー。

 ただし、ルシエラに従ってあるイメージをこめて放った。


「いわれたとおり、()()()()()()()()()()で掘ってみたよ」


 道をズズッと呑みこむ感覚といえばいいかな? 漠然としたイメージだけど、とにかくやってみた。

 すぐに掘った行き止まりの真上に穴を開けてジャンプして地上へ。

 ルシエラを引っ張り上げてから辺りを見渡すと、自分たちが教会からかなり離れた場所にいることがわかった。


「うわ、どんだけ縮めたんだこれ……?」

「実験は成功。速やかに距離の計測にかかる」


 再度ルシエラが地図系のスクロールを使用して正確な距離を測ったところ、地下の長さは地上の1/64(ぴったり)になってることがわかった。

 つまり地下で掘った3フィーメルが地上では200フィーメル近い距離に伸びたわけだ。爪の能力にはこれまで何度も驚かされてきたけど、いやもう今回もびっくりだった。

 そのあと確認のため、何度か同じことを試してみたけど結果は変わらなかった。

 どうやら現状では短縮距離を細かく調整することも無理みたい。

 最低でも最大でも1/64。

 ま、調整できたとしても利点はなさそうだし、すごい能力であることに変わりはないけど。


「よし、この技は〝モグラショートカット〟と命名しよう!」

「短縮されているのは距離か時間か。それが問題……。距離が縮まれば地下空間内の時間にも影響が出るはず。だが、地上と地下の時の流れに差異は感じられない。これは一体……」


 モグラショートカットで作った横穴を往復しながら、ルシエラは何事かブツブツと呟いてる。せっかく新しい技が発見できたのに、それよりも疑問でいっぱいみたいだ。頭がいいってのも大変だね。


「ねえ、調査もいいけどさ、そろそろ穴を埋めて帰らない? お店も任せっぱなしだし」

「……()()()()()!?」


 私の言葉にぴくりと反応すると、ルシエラはパチンと両手を合わせた。


「エミカ、それ!」

「え、どれ……?」


 そのあと急かされて地上に戻ると、すぐに地面に穴を開けるよういわれた。深さは浅くてもいいそうだ。

 でも、モグラクローではなくモグラショートカットで掘れとのこと。

 とりあえず理由を訊くのも面倒だったので素直に従った。

 ボコッ、と膝ほどの深さの穴を開ける。


「こんなもんでいい?」

「可」


 短く答えると、ルシエラは大きな布袋から大小2つの砂時計を取り出した。そのまま両方とも逆様にして大きいほうを穴の底へ、小さいほうを地面の上に置く。サラサラと黄色っぽい砂が流れ落ちていく中、彼女は続いて穴の表面に蓋をするよう求めた。


「モグラリリースによる完全なる固定化が必須」

「おっけー。ようは中の砂時計を誰にも取られないようにしちゃえばいいわけね」


 大きさを合わせた四角い岩石のタイルを作り、それで穴をぴったりと塞いだ。モグラウォールのほうが手っ取り早いけど、岩の質感でわかりやすいようにあえて面倒なことをしてみた。


「んで、次は?」

「しばし待機」


 ルシエラが指差す先には小さな砂時計があった。

 数ミニット後、砂がすべて流れ落ちると急いで蓋を取り除くよういわれた。


「えいっ」


 蓋だけを取りこんでまた穴を出現させる。すぐにルシエラが中に手を突っこんで大きな砂時計を取り出した。

 大きな砂時計も小さな砂時計と同じく、すべて砂が落ちたあとだった。


「こ、これって……」

「小さな砂時計は3ミニット。大きな砂時計は6ミニット。逆様にしたのはほぼ同時刻。本来であれば、まだ大きな砂時計の砂は半分ほど残っているのが道理」

「えっと……つまりモグラショートカットで掘った穴を閉じちゃうと、中では時間が早く流れるってこと?」

「肯定。しかし、モグラショートカットに係わらず、通常のモグラクローでも同様のことが起こると推測。その上で内部で流れる時間の早さは縮めた距離と比例するとも予想」


 そのあと試してみたけど、ルシエラの推測どおりだった。普通に開けた穴を密閉しても時間は早く流れたのだ。

 そして、ルシエラがいろいろな計測器を持ち寄ってセカード単位で計ったところ、モグラクローでは4倍早く、モグラショートカットでは64倍早く、それぞれ時間が流れてるのがわかった。これもルシエラの予想どおりで、短縮する距離と高速化する時間には関連性があるみたいだった。


「以前、密閉された空間内に閉じこもったことは?」

「たぶんなかったと思うけど……」


 思いつくのは教会でモグラ農場を初めて作った時ぐらいかな?

 でも、あれはモグラクローで掘った穴じゃなくて、タイルで固定化した建物内部にいたわけだから、今回の条件には当て嵌まらなさそうだ。

 だけど、今後は十分に気をつけないと。

 この条件を忘れて密閉された穴の中で寝ちゃったりしたら、あっという間に時が過ぎてましたってことになっちゃったり……ん? いや、私が穴の中にいる限りは外の時間はゆっくりと流れてるからその心配はないのかな? あれ?


「エミカ自身が領域内に取り残されたとしても自力で脱出できる上、さほど問題はない。むしろ幾つか利点すらある。しかし、エミカが誤って誰かを閉じこめてしまった場合は悲劇が予想される」

「……悲劇?」

「内部の1日は外部では22ミニットと30セカード。

 1週間は2アワと37ミニットと30セカード。

 1ヶ月はおよそ11アワと15ミニット。

 1年はおよそ5日から6日。

 食料が何もなかった場合、半日助けが遅れた時点で常人の餓死は確定」

「おふっ……」


 たしかにそれは悲劇以外の何ものでもない。

 モグラショートカットを使う場合は特にだけど、今後は穴を閉じる時はよくよく注意しないとまずいね。


「ま、恐くて使わないかもだけど、とりあえずこの技は〝モグラストレージ〟って名づけておくか……」

「これまでの爪の能力を踏まえると、密閉中の内部の温度は適温が保たれると予想される。よってモグラストレージを利用すれば、干し肉やドライフルーツなどの保存食も早期での製造が可能と考えられる」

「おっ、それはいいかも。それ以外は何に使えそうかな?」

「子豚や子牛などの家畜をより早く出荷」

「んー、それはちょっと可哀想かも。魚とかならまだアレだけどさ」

「凶悪な罪人をヨボヨボに老いさせて罰を与える。無力化もできて一石二鳥」

「あ、うん。やっぱこの技、怖いね……」


 新技のモグラショートカットにモグラストレージ。

 いろいろ流用できて便利そうだけど、チキンな私はひとまずそれらを封印することに決めた。


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