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かつて彼らは英雄と呼ばれていた。

圧倒的な力を見せつけその地を制圧した彼ら。

その力を持ってしてこの地に平和をもたらした彼ら。

けれどその圧倒的な力を人々は恐れた。



そして今、彼らは戦争の悪魔と呼ばれている。





「はぁ、はぁ、はぁっ…」

「待て、小僧!」

乱れる息が嫌に耳につく。走り続ける足は気を抜けばすぐにでも砂に捕らわれてしまいそうになる。それでも障害物を避けながら入り込んだ路地の奥へ奥へと走り込む。

「なっ…」

目の前に突然現れた塊に足を捕られてしまう。勢いよく滑った身体。それと同時に大きな音を立てて積み荷が崩れ落ちた。

「いたか!?」

音を聞き付けた追っ手の声が近付いてくるのがわかる。逃げようと足を踏み出せば、刺すような痛みが左の足先から脳天まで突き抜ける。

「っ…」

「どこいった!?」

追っ手の声はどんどん近付いてくる。

どこか、隠れる場所は。

よく見ると積み荷と塊の間に隠れる隙間が出来ていた。慌ててその隙間に身を滑らせる。


ドクン、ドクンとまるで身体が心臓になったように煩く耳に響く。


「いたか」

「いや、いないようだ。此方に逃げた筈だが…」

「探せ。小僧を掴まえてあれを王宮に渡せば、俺たちは遊んで暮らせるようになるんだ!」

そう叫ぶ追っ手達。

早くここからいなくなれ…っ。祈るような思いで息を殺す。

数秒が数十分、数時間にも思えた。

祈りが届いたのか、追っ手は他の場所に向かって行った。

この時ばかりは、自らの幸運と信じてもいない神様ってヤツに感謝する。


からからに乾燥した口内を唾液で湿らせ、冷たくなった指先を握り締める。それと同時に熱を持った足はズキンズキンと存在を主張を始める。恐らく暫くはこの痛みとともに過ごすのだろう。

不快な痛みに眉を顰めながらも隙間から這い出て塊…ヒトの死体を見つめる。この死体さえなければ、逃げ切れたのに。

忌々しく思いながらも死体を見つめる。

赤…というほど鮮やかではなく、くすんだ錆色のような赤髪。投げ出された手足は長く、身長は170近くある自分よりも高そうだ。その投げ出された足のせいで…。

目立った傷もなくまるで眠っているようだった。けれど耳をすましても呼吸音は聞こえず、息はしている様子はない。

死体だ。


金目のものはパッと見ただけではなさそうだが、ポケットには少し膨らみが見え、近くには古ぼけたラジオが置かれている。だが、あまりにも古ぼけたラジオは―恐らく戦前のラジオだと思われる―パンを買うための一銭にもならなさそうだ。


「ちょっと失礼。」

そういってポケットを探る。ライターと幾ばくかの金銭。その二つとラジオを手に取る。

「死人に無用な金は有効に使ってあげるからさ。」

「それは困るな」

きびすを返した後ろから声がかけられ、腕を掴まれる。慌てて振り向けば先程まで閉じられていた赤銅色の瞳がこちらを突き刺すように見ていた。

「そのラジオ。預かりものなんだ。持っていかれたら困る。」

穏やかな声なのに有無を言わせぬ力がある。

「返してくれ」

差し出された左手に大人しくラジオを返す。男の手に渡ったラジオから突然ノイズが吐き出される。

「悪かった。」

そのノイズに答えるようなタイミングで男は謝罪の言葉を声に出す。

ざーっざーっとノイズは留まることを知らず周りに響き渡る。

「煩い」

男が停止ボタンを押せばノイズは収まった。その代わり、半透明の男がラジオから現れる。

『おい!何しやがる!お前がこんな所で身体を投げ出してるから俺が盗まれそうになってんだぞ!聞いてんのか!

小僧も小僧だ!お前のやったことは犯罪だぞ!この盗人!』

罵倒とともに風が身体に吹き付けられる。足を挫いていたため身体を支えられず尻餅をついてしまう。

「おい、団長。」

男の焦ったような声。

『あ?ただの仕置きだろうが』

「ごめんなさい」

「あんたは見えてねぇんだぞ…って、あ?」

『小僧、俺が見えてるのか?』

「左手に剣を携えた中年のおじさんがそうなら、見えてる」

顔立ちまではハッキリとは見えないが、強面の厳しそうな男性だ。

『誰がおじさんだ!』

「おい、団長。」

たしなめるような声で話を止めさせれば、こちらに向き直られる。真っ直ぐと見つめられるその瞳に肩を竦める。

「あー…悪い。睨んだつもりはなかった。」

「いい。」

左足を庇いながら立ち上がる。その姿を目敏く見つけたのか

『おい、小僧。足を怪我してるのか?べルフラム』

「ヴェルフラム。あんたはいつになったら俺の名前をまともに呼べるようになるんだ。」

『あ?もとを正せばお前がこんな所で…』

「あーはいはい悪かった。あんたも大丈夫か?家は。」

“団長”と呼ばれた中年男性の話を遮り“ヴェルフラム”と呼ばれた男はこちらを向く。

「別に、平気だから。」

自身の隠れ家を見つかるわけには行かなかった。

「悪かった。お兄さんもおっさんも。でも、こんなところで身体を投げ出すなんて自殺行為だから、気を付けた方がいい」

それだけ言えば今度こそきびすを返して走り出す。

「あ、おい!」

男の焦ったような声が聞こえてくるが知らない振り。

もう会うことさえない。その時はそう思っていた。

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