5
蒼は王となる道を選んだ。
王には興味がない。
でも戒がそれを望むのではれば、なってもいいと思った。
戒は王を選ぶ。
自分は戒に選ばれたのだ。
それならば王になってもいいのではないか。
何かを決意したように蒼が戒を見た。
「戒、王になるよ」
蒼がそう告げると戒は嬉しそうに笑った。
好きにしろと言ってもやはり王となるのは嬉しいのだろう。
「分かったわ。私があなたを守ってあげる。
立派な王にしてあげる」
蒼に頬を寄せ、戒は言う。
本当の親子のようだと静は思った。
「ああ、でもお嫁さんが足りないわね。
静さん、このまま蒼のお嫁さんになってよ」
急に話を振られ、静は慌てた。
「無謀だから断ってくれてかまわない」
蒼が苦笑しながら言う。
「…いいえ。私、なります。
傍にいさせてください」
静は蒼を見つめて言った。
やったー!と戒は飛び上がって喜んでいる。
「いいの?王妃になるんだよ!?」
はい、と静は頷いた。
隣で雷がため息をついているが静に逆らおうとはしない。
「でも、私は雷の守護を受けていて」
静の言葉に戒は微笑む。
「安心なさい。
私が蒼を守護してしまえば済む話よ。
何も問題は無いわ」
守護?と蒼は首をかしげた。
蒼は何も知らないらしい。
精霊に守護された人間は永遠の命を得る。
それは当然のことだが、あまり知られていない事実。
静は永遠の命のために一箇所に住み続けることが出来なかったのだ。
「問題は色々あると思うが…」
雷がはしゃぐ戒にツッコミを入れる。
戒には何も聞こえていないようだった。
「…君ってお人よしだよね」
蒼が呆れた声でつぶやく。
そうですね、と静は笑った。
あまりよく知らない男と結婚しようとしているのだから、そうなのだろう。
蒼の傍にいると決めたのは自分だ。
もっと色々と蒼のことを知りたくなった。
王となる蒼の支えになれればと思った。
王妃となるにはまだまだ未熟だし、その座に就くと思うなんて大それたことだ。
ただ純粋に傍にいたいと思った。
それだけで選んだのだ。
にこにこと笑う静を蒼は見た。
色々と巻き込んでしまったのに、今度は一生を左右することに巻き込んでしまった。
王になるのは大変だろう。
でも彼女がいてくれるなら、大丈夫かもしれない。
蒼はそっと静に手を差し出した。
「よろしくお願いします」
はい、と頷いて静は蒼の手を握った。
小さな手を握り締めて蒼は誓った。
ずっとこの手を離さないでいよう。
「これから支え合っていこう。
大丈夫、二人だけじゃない。
戒も雷もいるのだから」
何も不安に思うことはないよ。
そう言って蒼は静に微笑みかけた。
安住の地を得た喜びに静も微笑んだ。
雷との旅も悪いものではなかった。
でも同じ場所に住み続けることが出来ない悲しみは常にあった。
これからはここが故郷になる。
静は安堵した。
「だいたいお前は何も考えなさすぎるんだ!」
雷の声が聞こえる。
戒が怒ったように叫ぶ。
「何よ!それを言うならあなただってそうじゃない!」
仲のよさそうな言い合いに思わず笑う。
何も心配することはない、そう思える。
静は蒼にそっと寄り添って雷と戒を眺めていた。