表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラウン  作者: 東亭和子
3/5

「随分やつれたのね」

 戒はベッドに横たわる王であるシュウを見下ろして言った。

 愁はその声に反応して目を開けた。

「戒…戻ってきてくれたのか?」

 戒はにっこり笑った。

「いいえ、違うわ。

 さよならに来ただけよ。

 もうあなたに会うのはコレで最後だわ」

 戒の言葉に愁はため息をついた。

 少し苦しそうにしている。


「…蒼も一緒なのか?」

「ええ、連れてきたわ。

 もうすぐこの部屋へ来るでしょう。

 可愛い奥さんも一緒よ」

 そう言って戒はクスクス笑った。

「…なぜ、私を見捨てた?」

 愁は戒を見つめた。

 戒は肩をすくめて答えた。

「気まぐれに蒼に会いに行ったら可愛かったから、かしら。

 あなたの子供達よりも可愛いかったのよ!」

 蒼を産んだ母親は侍女であった。

 父親であった男は死んでしまったため、働きながら蒼を育てた。

 王宮での保育を戒がやった。


 ベビーベッドの中で小さな目が戒を捉えた。

 そうして笑った。

 その顔を可愛いと思った。

 そうして戒は蒼に向かって手を伸ばした。

 指先が小さな手に握られる。

 この子供を育てよう。

 母親代わりになるのも悪くない。

 戒は赤子を抱き上げた。

 柔らかく、今にも壊れてしまいそうに思えた。

「蒼、これからは私も母親よ」

 戒が言うと蒼は嬉しそうに笑ったのだった。


「まさかこんなに親ばかになるとは思っていなかったわ」

 可愛くて、愛おしくてしかたない。

 戒は苦笑した。

 愁はそんな戒をまぶしそうに見た。

「この国の王を決めなければならぬ。

 蒼が王になれば、お前は戻ってくるのか?」

「ええ、私は蒼の傍にいるわ」

「…では、次の王は蒼だ」

 愁は静かに告げた。

 

 初めて行った王都は素晴らしかった。

 活気で溢れ、この国が豊かであることがよく分かった。

 そうして王宮はまた豪勢だった。

 全ての権力を握る人がここにいるのだ。

 蒼と静が愁の寝室に入ると、愁は起きていた。

 しかし顔色は悪い。

「こちらへ」

 愁は二人を手招いた。

「お久しぶりです。

 危篤とうかがいましたが…」

「ああ、もう命が消えかけているようだ。

 時間がない。

 蒼、手短に話すぞ」

 蒼は頷いた。

「私の後を継ぐのはお前だ」

 愁の言葉に蒼は驚いた。


「私は王家の人間ではありません。

 あの小さな領主の子供です。

 だから、私はこの国の玉座に興味はありません」

「お前がこの国の王になるのだ」

「なぜですか?

 跡継ぎなら他にもいるでしょう。

 わざわざ私が王位に就く事は考えられません」

 愁は首を横に振った。

「他では駄目だ。

 お前でなければいけないのだ」

 愁はそう言うと苦しそうに顔を歪めた。

「横になった方が」

 静が愁に手を貸して横たえる。

「娘よ。お前が王妃になっても構わぬ。

 蒼を王にさせるのだ…」

 なぜ、これほど自分にこだわるのだろう?

 意味が分からず、蒼は無言で愁を見つめた。

 やがて愁は寝息を立て始めた。

 これ以上話すのは無理だった。

 二人は寝室をあとにした。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ