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屋敷の部屋は質素だった。
広い屋敷にもかかわらず、住んでいるのは二人しかいないようだ。
「ごめんなさいね。
蒼は王家と関係があるから、たまに刺客に狙われるのよ」
彼女、戒は静のために紅茶を入れてくれた。
いきなりのヘビーな話に驚く。
「刺客対策のためにここには私たちしか住んでいないの」
「かつては沢山の使用人が住んでいたんだけど。
今は必要ないからね。
今度改築でもしようか?
二人だけが住む、質素な家がいいな」
蒼は戒に向かって言った。
二人は恋人同士なのかだろうか?
仲の良い姿に自然と笑みがこぼれた。
「誤解なさらないでね。
蒼は私の子供なのよ」
戒は微笑んでいる。
子供?
だって戒は若く見える。
どう見たって二十歳後半だ。
驚いている静を面白そうに戒は見ている。
「そう。戒は母親なのです。
育ての母。
本当の母もいるんですけどね。
戒は何年たっても若いままに見えるんですよ」
でも結構歳なのは本当です、と蒼は静に耳打ちした。
その様子を楽しそうに見て戒は言った。
「今日はどこに泊まるつもり?
この村には宿はないわよ」
「町まで行こうと思っているので平気です」
「…今から町まで行くと夜になってしまうわ。
ここに泊まればいいわよ」
いい考えだわ!と戒は喜んでいる。
「それがいいと思います。
夜は危険です。
それに戒は一度決めたことは決して曲げない。
観念したほうがいいですよ」
蒼は苦笑しながら静に言った。
では、と静はここに泊まることを決めたのだった。
「とうとう王が危篤になったそうよ」
静がこの屋敷で過ごして一週間が過ぎた頃だった。
戒は眉をひそめて蒼に告げた。
「王都まで行かないと駄目か…」
蒼がため息をもらす。
「ええ、それが一番いいわね」
込み入った話になっている。
静はそろそろ屋敷を出て行こうと考えていた。
そんな静を察したのか、戒が静を見て微笑んだ。
「ごめんなさいね。
ちょっと身内のことでゴタゴタが発生してしまって」
「いいんです!
私こそ図々しくお世話になってしまって、申し訳ないです。
今日にでもこの屋敷を出て行きます」
静はそう言って頭を下げた。
「せっかく仲良くなれたのに残念だわ」
そう言って戒は静に抱きつき、頬を寄せる。
戒は静を気に入っていた。
「離れがたいわ~。
蒼のお嫁さんにでもなってもらおうと思ってたのに~」
戒はぶつぶつと呟いている。
おい、と蒼の突っ込む声が聞こえる。
「…そうだわ!
お嫁さんになってもらえばいいんだわ!
ねぇ、静さん?」
ニコニコと笑った戒が静を見ている。
「…え?」
「早速準備しなくちゃ。
王都までの道のりは長いものね」
ワクワクしながら戒は部屋を出て行った。
えっと、話についていけないのですが…?
呆然としている静に、蒼は苦笑しながら近づく。
「随分と気に入られたようですね。
もう、ああなった戒を止めることは出来ません。
申し訳ないのですが、しばらく戒につきあってはくれませんか?」
つきあうって…?
静は困った顔をした。
「大丈夫ですよ。
妻のフリをしてくれればいいだけですから」
そう言って蒼は笑った。