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クラウン  作者: 東亭和子
1/5

 シズカは鼻歌を歌いながら歩いていた。

 この村の空気は美味しい。

 なんだか気分が良くなる。

 目を閉じて、深呼吸する。

 これからいいことが起こりそうな予感がした。


 今、静が歩いているのは小さな村だ。

 道の両側には田園が広がり、民家はまばらにしか存在しない。

 典型的な田舎だ。

 それでもその風景を静は好ましく思った。

 しばらく歩くと道が二つに別れていた。

 左はまっすぐ奥へと続いている。

 そうして右は小さな森へと繋がっている。

 その森の先には建物の屋根がちらりと見えた。

 この村の長の家だろう。

 随分と立派に見えた。

 静は足を右へと向けた。


 それは何となくだった。

 少し深い森を歩いてみたい。

 そう思っただけだった。

 そうして屋敷も見てみたいと。

 森の中はシンとしている。

 鳥のさえずりさえも聞こえない。

 おかしい、と思った時だった。

 近くの木からいきなり人が飛び出してきた。


「!」

 飛び出してきた青年は驚いた顔をしている。

 そうして静を背後にかばった。

 青年の後ろからは何者かが追ってきているようだった。

 青年が何かを投げつけた。

 それは何者かに刺さったようだった。

 鈍い音とくぐもった男の声。

 静は背中にかばわれたためによく見えなかった。

 青年がそっと息を吐いて振り返る。


「大丈夫ですか?」

 青年は頬に怪我をしたようだ。

 血が一筋流れていた。

「ええ。私は平気です。

 それよりあなたの方が…」

 静は青年の頬の血をハンカチでぬぐった。

 青年は美しい顔立ちをしている。

 スラリと背が高く黒く少し長い髪を一つに束ねている。

「ありがとうございます」

 青年が微笑んだ。

 静はその笑顔をみて頬を染めた。


ソウ!」

 屋敷の方から一人の女性が走ってきた。

 金色の長い髪をゆるく巻いている、グレーの瞳をした美しい人だ。

 彼女は蒼の体を触り、無事を確かめると安堵のため息をついた。

「一人だけだったの?

 あまり危ないことは…」

 そう言うと初めて静の存在に気づいたようだった。

「この子は?」

 彼女が蒼に問いかける。

「巻き込んでしまった」

 申し訳なさそうに蒼は静の顔を見た。


「いいえ!怪我もしていないので、平気です!」

 静は慌てて首を横に振った。

 この先には屋敷しかない私道だ。

 そこを勝手に歩いている自分が悪いのだ。

「…怖い思いをさせたようね。

 少し時間はあるかしら?

 良かったらお茶でも飲まない?」

 彼女は優雅に微笑んで告げた。

 静は頷いた。


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