脱出
目が覚めたら薄暗い部屋のベッドの上に俺はいた。
(ここはどこだ...?)
起き上がろうと体を動かしたら体が痛む。
頭もズキズキと鈍い痛みがする。
それでもなんとか体を起こし、周りを見てみる。
そしたら、檻の中だということがわかった。向かいの部屋にも檻がある。
(俺はもしかして捕まったのか?記憶が曖昧だ...)
思い出そうとすると頭がズキズキ痛む。
とりあえず細かく周りを見てみる。
薄汚れたトイレ、ちっぽけな洗面所、鉄の長椅子、[42]と番号の書かれた服
(手がかりになりそうなものは無し...か)
落胆していたら、檻の外から声が聞こえてきた。
「起きろ愚図ども!朝だぞ!」
と野太い声が聞こえてきた。
すると、檻のドアの部分からピーッと音が鳴り、ガチャと檻のドアが開いた。
(電子ロックかよこれ...)
向かいの檻から誰かがのろりと出てくる。
(!?)
出てきたのは男だった。髪はボサボサ、体はやつれていて、目から生気が感じられない。
(いったいどうなってんだ...)
と、考えていたら
「42番!さっさと出てこい!」
と野太い声が怒鳴り散らしてる。
(さっき服に42番って書かれてたな...とりあえず出てみるか...)
俺はドアから出て、声のする方に向かった。
「遅ォーーーーーーーい!」
耳元で叫ばれる。
「うるさっ」
思わず声に出してしまう。
すると野太い声の主は驚いた顔をしたが、すぐに
「速く仕事へ行け!周りについていけばわかるだろう!」
と言って背を向けた。
「今は黙って従え」
そう小さく言い残してどこかへいった。
(仕事ってなんだろうか?とりあえず従っておくか...)
俺はそこらへんにいた、56番の男についていった。
薄暗い廊下を歩いていた。
(随分歩くな...ん?)
そこは地獄だった。
(なんだ...これ...)
重そうな荷物を一人で必死に運んでいる奴。
転んでる奴を鞭で打っている奴。
そこらへんで倒れている奴。
(もしかして俺らは奴隷にされてるのか?)
色々と考えていたら、
「おい、お前ら。お前らはあの仕事だ。」
と言って指を差す。
指差す方を見てみたら、鶴はしで壁を掘っている奴がいる。
「さぁ、わかったらはやくいけ!サボるんじゃないぞ!」
とムチを鳴らし言った。
何か聞こうと思ったが、
「今は黙って従え」
と言われたのを思い出しやめておいた。
カツーン、カツーン....
(めんどくせぇな...いつまで掘ればいいんだこれ。)
おそらく3時間位掘り続けてる。
(後ろで監視している奴は疲れないのかね。)
よくみたら監視している奴は変わっていた。
(さっきの野太い声のやつじゃん)
野太い声の奴がこちらに気付き、歩いてきた。
そして目の前まで来たと同時に、
「こっちにこい」
と小声で言ってきた。
(なんだ?なにかあるのか?)
と思いとりあえず付いていくことにした。
「ここらへんで大丈夫だろう...」
岩場の陰に連れてこられた。
「俺になんかようですか?」
俺はめんどくさそうに聞いた。
「やっぱり君は薬の効果が切れたんだね」
「は?どういうことすか?」
「一から説明するよ。俺の名前は後藤。後藤大地だ」
後藤と名乗る男はそのまま聞いた。
「まず、ここは政府が秘密裏にしてる工場だ。この工場でなにをしようとしてるのかは俺にもわからない...俺はこの工場が何をしているかを調べている。」
「え?は?なんでそんなことしてるんすか。」
「俺は特殊警察組織の一員で、政府の悪事を世間にばら撒いて腐った政府を潰すことを目的としてるんだ。」
「そ、そっすか...でもなんでそんなことを俺に?」
「協力者が欲しかったんだ。だから俺が飯の配給の時にこっそりと心を取り戻す薬を混ぜたんだ。」
「心を取り戻す薬?」
そう、と後藤さんは言った。
「ここの人間達が逆らわないように、政府が心を壊す薬を飲ませているらしいんだ。心が壊されたものは言われたことをやるだけのロボットになる。」
「俺も...そうだったのか...?」
後藤さんはうなずく。
「俺が混ぜた薬で君は君を取り戻したみたいだけどな。昔の記憶はあるか?」
「いや...昔のことを思い出そうとすると頭が痛くなって...」
「やはりか....」
後藤さんは考え込む。
「ところで...どうして俺を助けたんすか?もしかして、後藤さんの知り合いだったりします?」
俺は思っていた疑問を伝えた。
「いや、たまたま君だけが薬の効果があったみたいだ。他の人の飯にも混ぜたんだが、効果が無かったみたいだ...」
「どうして俺が心を取り戻したってわかったんすか?」
「それは簡単だ。君は俺の声に”うるさっ”と反応したからね。心が壊れた人間は反応しない」
「なるほど....」
「話を戻そうか。」
後藤さんは間を置き、また話し始めた。
「君にはここから抜け出して欲しいんだ。そして外にいる俺の仲間にこいつを渡して欲しいんだ。」
後藤さんは手から小型のUSBのようなものを取り出した。
(どこかで見たことある気がする...)
「これはこの工場の機密情報が入ったUSBだ。この情報から政府を叩くができるんだ。」
「どうやってここから抜け出せばいいんすか?」
「それは...俺にもわからない...」
後藤さんは悔しそうに言った。
「抜け出した人を知らないんだ...本当に出口があるのかも怪しいんだ。」
「そんな....ところで後藤さんは抜け出せないんすか?」
「俺はヘマしたせいで上のやつらに怪しまれてる。監視が厳しいんだ。」
後藤さんは俯く。
「だから君しか頼めない。脅しみたいになって嫌だが、君が断れば君は永遠にこの地獄の中だろうね。」
「....やるしかねぇのか」
俺は覚悟を決めた。
「すまない...チャンスがあれば飯に薬を入れて仲間を増やしてみようと思う。」
「わかりました。」
「そろそろ監視交代の時間だ。俺はもどるよ。なにかわかったら、また連絡する。」
後藤さんは歩き出した。
「あぁ、そうそう」
後藤さんは立ち止まった。
「心を取り戻したことはバレない方がいいかもしれない。また壊されるかもしれない。」
それじゃ、といい後藤さんは去っていった。
(さて、抜け出す方法はわからないって言われたが...どうしたもんか。)
俺はこれからのことを考えつつ仕事に戻った。
カツーン、カツーン...
(このまま掘ってれば外に出れるんじゃねぇの?)
後藤さんと話してから4時間ほど掘っている気がする。
(腹減ったな...)
そう思っていたら
「飯の時間だ!」
と監視している奴が言った。
俺は顔に出さないように喜んだ。
食堂らしき場所に来た。
(まぁそりゃそうっすよね...)
つかの間の喜びだった。
机の上には、質素な料理が並んでいた。
(食えるだけましか)
そう思い、周りのペースに合わせ飯を食べた。
飯を食ってまた仕事に戻る。
今度は掘ったもの(岩)を別の場所移す仕事だ。
仕事が終わり、夜になった。
晩飯は豪華...なんていうことはなく、質素なものだった。
また仕事があるのかと思いきや、もう就寝の時間らしい。
(岩を運んだ時に思ったがかなり広かったな...出口を探すのは骨が折れそうだ。)
硬いベッドの上で考える。
(俺が一体なにものだったのかも気になるな...)
だが、思い出そうとすると頭が痛む。
(後藤さんが情報を掴んでくれるのを待つしかねぇな...)
俺は瞼を閉じ、眠った。
一週間くらい同じ日々が続いた。
後藤さんとはたまに連絡を取っていた。
後藤さんは2つのことを新たに教えてくれた。
番号の数が大きくなるにつれ、新入り。つまり俺はかなりの古株であること。
そして俺が赤井迅という政府の重臣:赤井慎の息子であること…
俺らは今、出口と疑わしき場所に来ている。電子ロックのドアだ。
ここは監視している奴が行ったまま帰ってこないことが多く、外に繋がってるに違いないとふんでいる。
後藤さんは下っ端だからなのか、ここを通れる権利がないらしい。
「今日、俺の先輩がここを通るらしい...俺が隙を作ってみせるからその間に中に入って欲しい。」
「わかった。後藤さんはどうすんだ?」
「政府の悪事がバレたと同時に警察がこの工場にくるだろう。俺はそれを待つよ。」
後藤さんは微笑んだ。
「最後に聞くが...本当にいいのか?お前の親父は逮捕されるぞ?」
後藤さんは聞いてきた。
「あぁ、平気だ。俺の親父は俺をこんなところにぶち込んだんだろ?仕返ししてやらねぇとな。」
「恩に着る...これが情報だ。」
後藤さんは小型のUSBを取り出した。
「出口がなかったとしても戻ってくるな。そこ以外に可能性はもうないんだ。とにかく探してくれ。」
「あぁ....ありがとう後藤さん。」
「そろそろ...かな。隠れてくれ。」
俺は言われた通りに岩陰に隠れた。
10分くらいしたら後藤さんの先輩と思わしき人物がやってきた。
カードのようなものでドアを開けた。
「山田先輩、どうしたんすか?」
後藤さんが山田に話しかける。山田は後藤の方を向いた。
(今だっ...!!)
忍び足でドアに入る。
山田と後藤さんの話し声が遠くなっていく。
(光が見える...あそこか?)
光のある方に走る。
(空気の流れを感じる...)
さらに加速しようと思ったその時
「!?」
スポットライトのようなもので俺は照らされていた。
「ふははははは...残念だったな...息子よ...」
声が聞こえた。黒いスーツを着た男が立っていた。
俺はそいつが誰なのかすぐにわかった。
「赤井...慎!」
「おやおや、随分とご立腹のようだ。しかたない。アレを見せてやるか」
パチンッと指を鳴らすと別の場所がスポットライトで照らされた。
「!?」
そこには縛られた後藤さんがいた。
「後藤さんっ...」
「すまない...」
(いくらなんでも早すぎる...一体何故だ?)
「さて、いいことを教えてやろう...」
不敵な笑みを浮かべながら慎は言った。
「お前は自分のことを赤井迅と思っているようだが...」
ドクンドクンドクン...
胸騒ぎがする
「お前は特殊警察組織の後藤だ...そして今お前が思ってる後藤が迅なんだよ....」
「なんだと!?」
後藤さんが笑う。
「そうさ!俺が赤井迅。君を騙していたんだよ...なんせ君は特殊警察組織の一員だからなぁ。君が騙されてくれると組織にとっては好都合だったんだけどなぁ...」
「心を壊してからまた作り直したら、成功すると思ったのだけれどねぇ...残念だよ。」
そういいながら慎は懐から拳銃を取り出す。
「君は用済みだよ。」
パァンッ...
書きたいことがパッっと思いついて書いてたんですけど、途中で力尽きちゃいました...