第三話 なんてあっけないのだろう
「私は魔王になりたいんですよ、あのリア充ども・・・。勇者たちをぶっ殺してぇんで。」
笑顔で言うセリフじゃない。魔王になる動機がくだらない。いろいろ突っ込んでやりたい。お前言葉はかなり鋭いけどボケだな。って今言葉に出して言おうものならまだ俺の顔の上に這いつくばっている足がどう動くかわからない。
「だから、手伝いなさいっていう契約だったんですね。今の。」
そんな優しく言ってないだろ。コイツ今までよく勇者たちとパーティーという関係組んでいられたな。勇者尊敬するわ。いや、俺を倒しに来た時の雰囲気を見ると猫かぶっていやがったな。
「で、アンタはその契約を受けたんだから、この封印解いてあげますね。」
案外優しいやつかもしれなくなくなくなかった。あれどっちだ?
でも確実に指一本で俺にかけられた封印を解いてくれた。指一本っていうのはきっと嫌味だ。だが確実に封印を解いてくれている。体からパァァと光が出て体が自由に楽になるのがわかる。指一本っていうのはきっと嫌味ではなくて、ただ抵抗しても無駄だからっていう意味なのかもしれない。
「あ、一応面白い呪い・・、封印と。」
今コイツ呪いって言ったぞ、しかも面白いとか言ってたぞっ。やっぱり勇者たち面白半分に俺に呪いとかかけてたのか。最低野郎じゃん。
「魔力の封印は、解かないでおきますね。」
え?いやっ解けよ。そこは解いてよ。結構生活に魔力って必要でね、それに面白い呪いってなんだよっ。解けるならさっさと解けよ。面白い呪いって確実に一日何時間かショタ化する奴じゃねぇのっ。面白いとか楽しんでんじゃねぇかっ。
「いや、解けないんですよ。私は回復と暗殺術にかけてはチートです。」
お前暗殺術とかも覚えてたのかよ、チートとかマジ勘弁だろ。でも魔王vs勇者戦の時に使わなかったってことは、それも勇者たちに隠してたのか?未知のモンスターのほうがまだ信用できるわ。
「でもあの幼女この呪いに一番力入れてたみたいで、私魔法とかに限っちゃ普通の魔術師レベルだし・・。さーせんです。」
あの幼女やっぱり怖いわ。恐ろしいわ。魔女のくせに素手で俺殴ってきたし。
って、魔力の封印は解けよっ。
「貴方魔王だったんですよね。仲間とか助けてくれなかったんですか?なんか右腕とかいましたよね。」
おおっ、いたいた。幼馴染なんだけどさ、すっごいいいやつで。
「まっそんなことどうでもいいですけど。結局誰も助けに来てくれなかったんですね。」
俺のHPが0に近い。でも不憫に思ってくれたのか回復職は足をどけた。顔の上に置いてあった足が避けられたおかげではっきりと相手の顔が見える。
眉根は下がっているが、全く悲しんでも憐れんでもくれていない。ただまっすぐ当然かのように俺の目を見据えた。やっぱり顔だけはいいんだよな。
「まあ、動けるようにしてあげただけ感謝しろ。さっさとこんな場所から出たいです。」
こんな場所に封印したのはお前らだ。こんな場所だからこそ封印したのか?うわっ、やっぱりひどい奴らだ。
「服従の魔法とか、上級者しか使えないんですよ。っていうか禁止されたオリジナル魔法ですし、だから逆らったりしたら実力行使ですから。」
女の力なんてそんなに怖くはない。実力行使とか言われても全く怖くなんかないんだからねっ。回復職だからって侮ってはいけないようだ。
理由はどうであれコイツも勇者たちに復讐しようとしているのだ。いやこいつが勇者たちなのだが、まあ協力関係にあることは間違いない。
「だから、そういう対等な関係じゃなくて、お前が私に服従するんですよ。」
コイツ、プライドが高いんだろうな。平均並みに体力はあったが、ずっと動けなかったからうまく立てないし膝ががくがくする。
「早くたたないとマリオネットにしますよ。」
操り人形・・。人形のように服従しろ、とでも言われている気持ちになるな。そういう魔法は覚えているのかもしれない。うわあっおっかない女だ。魔力の封印さえ解いてくれれすぐに体は万全な状態となる。すっきりする。俺が朝すっきり目覚めることができるのは魔力のおかげといっても大げさではないのだ。
「全く早く立ってくださいよ。」
ガンガン蹴られる。立てよ、といっていることに矛盾して足首ばかり蹴ってくるのだ。
一種のいじめだと思う。勇者たちも入れた集団いじめ。俺、ルックス的には問題ないと思うのだが。
ガサガサっと、茂みをかき分ける音がする。まずい。今結界は解かれているから魔物なんかが着たとすればこの女は確実に俺を放置するだろう。体術で魔物を倒せる気はしない。
ガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサ
音はどんどん近づいてくる。あたりは日が当たらないせいでこの辺は全く者が見えない。何が出てくるのかは出てきてからのお楽しみというわけだ。
回復職の顔も少なからず引きつっているような気がする。
近づけるところまで近づいてきたそれは、お決まりのようにバッっと出てくるのではなくそのまま、カサカサカサカサと出てきた。
魔物ではない。もちろん人ではない。出てきたそれはムカデだった。普通より少し大きいムカデだ。
気持ち悪いその一言に尽きる。視覚的によろしくない。
「おいこら、魔王。さっさとコイツどうにかしちゃってくださいっ。」
素手でやれってのかっ。こっちはまだ立ててもないんだぞ。俺以上にムカデが怖いようで回復職は今にも泣きそうな顔でナイフを両腕で握ってる。そういう顔をしていると、さっきのサド女だと思えない・・。ギャップ萌えだ、そそられる?
「なら封印でもなんでも解きますよっ。」
指の一本も動かさずにパンっという音が響いて、俺の体がスゥッと動く。なんかすんなり封印解いてもらえた、かなりすんなり過ぎて不安になる。でも体中に力があふれることから本当に封印が解かれたことがわかる。すんなりと立てるようになる。心なしかさっき蹴られた足の痛みも消えた気がする。
顔は泥まみれだけど。
俺が手をかざすと、ムカデが縮む。そのまま小さくなるわけではなくバァンッと破裂した。
圧縮死だ。圧迫死か?よくわからないが。久々に快感だ。
俺は決して弱いわけじゃなかった。勇者たちが強すぎたんだ。