第二話 地べたの汚さ
巻き起こる雷雲。叫びをあげる豪雨。闇が光を飲み込んだかのように閉ざされた空間。
廃屋に囲まれた最悪の土地に俺は封じ込まれた。封印されたといえばかっこいいが事実上は墓に磔にされているのだ手足縛られて。
それに動けないようになんか魔法かけられてるみたいだし、他の物が近づけられないように結界とか張ってあるみたいだし。
たまに魔物とか近寄ってくるけど動物と話せるようなお決まりのステータスはないし、興味(食物的な)をもったのか近づいた動物たちは俺の目の前で血肉の塊になったし。
どんな呪い置き土産にしやがったんだよ、あの幼女がっ。(実年齢不明)
ああ、動けない。叫ぶことと、考えることしかできない。変な呪いをたくさんかけられた。
最近は一日の数時間を子供の姿で過ごさなくてはならなくなった。ショタ化という奴だ。
何より、退治されてから1か月。風呂に入ってないし、髪も洗っていない。
うわっ、俺きたねぇっ。
仮にも王だったんだぞっ。不潔すぎんだろ、ごらぁっ。
誰も近づかない、誰にも聞いてもらえない。すごい苦痛だ。すごい暇だ。
常にこんなに暇だったら、世界征服とか世界暗黒に染めるだとか考えたかもしれない。
かっこよく言って魔力も封印されてしまったが、魔力全快の時だってこの封印敗れねぇだろうなー。
弱気になってないし、ネガティブにもなっていない。あの幼女ガチで強かったし、もともと俺修行っぽいことなんてしたことないしさ、それに勇者たちに倒された時だってフルボッコだった。魔力が強いだけの冠、張りぼてだったんだなぁ俺って。
「そうですねー。貴方ガチで弱かった。」
本人に言われると凹むなー。本人って言ったって幼女魔女じゃない。
回復職だ。ヒーラーだ。勇者たちの中に含まれている、俺を凹らなかった唯一の勇者パーティーの一員だ。
俺のわずかな抵抗により、勇者たちにわずかながら与えたダメージを動作なしに笑顔で回復した奴だ。
先ほどから俺はずっと思ったことを寂しいので声に出していた。独り言だ。
そんなどうでもいい事実と比べて今この女は、ほほ笑みを浮かべながら俺を足蹴に、俺の頭に自分の足をのせている。そして何度もぐりぐりと踏み続ける。
こんな屈辱的で何かのプレイのようなものを具体的に話すなんてことは、きっとプライドが高いころの俺は死んでも言わなかった。でもここの長い拷問のような環境がそのプライドをも破り捨てた。破壊して破損して、ぼろっぼろに壊された。
「退屈でつまらないんでしょう?さっき何度も言っていましたよね。なら私に付き合いなさい。」
そうです。その通りですが、問答無用で俺をこんな状態にまでした奴の仲間にそう簡単に従う分けねぇだろ。俺は何もしていないのにお前らが俺を悪役にした。そのおかげで人間すべてにとって俺は最低で最悪のやつになった。初対面なんていうまでもなく、印象最悪ってことだ。
面接とか一発で終わりじゃん。
「そうですよね、まあ恨みますよね。ぶっ潰したいですよね。そのストレスは勇者にぶつけたいですよねー。」
そこらへんはとても好感が持てるため、私が面接官だったら合格ですね。と付け加える。
といいつつ、俺の頭の上に乗った足は今もなお、ぐりぐりと俺の頭を狂わせる。
好感を持っている、だなんて確実に嘘だ。封印も解いてくれないし。
でももちろんこのストレスは勇者にぶつけたい。
「そのためにあなたに頼みたいことは3つです。心して聞けよ。」
耳をふさげないこちらに拒否権なんてあるわけがない。
「一つ目―。魔王の資格を寄越せ。魔王になるには先代魔王の承諾が必要だと聞きました。」
文句なんていくらでも言ってやりたい。でもこちらは黙って聞いていることしかできない。いい加減何度も何度も踏まれているため頭はいたいし、靴の裏の泥とかいろいろ頭についているだろうから気持ち悪い。
今文句なんて言ったら俺の頭はこれ以上もたないだろう。
「二つ目―。私の右腕になって手伝いなさい。いや服従しろ。」
理不尽だ。いや俺の人生(最近)に理不尽でないことなんてなかった。
「三つ目―。えーと、何にしようかなー。いや何にしようかしらー。何にしましょうかー。」
ニヤニヤニヤニヤと満面の笑みを俺に見せる。どうせもう決めているに決まっている。
俺を倒しに来たときの印象、初対面の印象は、これこそ回復職っていうほど優しそうできれいな人だな。と思ったものだが今は全くそう見えない。顔が整っていることは認めよう。だがこの光景のどこが優しそうに見える?人を足蹴にしているのだぞ。恐ろしいサド女だ。
当時のワンピースのような服はなら足を全開で上げているから下着の一枚や二枚くらい見えそうなものだが、パンツルックに変えている。見えない。見えていれば屈辱的な気持ちも少しは晴れるかもしれない。
「承諾したのならば靴を舐めなさい。性格には靴の裏を舐めまわしなさい。」
断固拒否した。これからの人生に少しだけ光が差し込んできたと思えば、このことがトラウマで女性恐怖症になりかねない。
そもそも、靴を舐めるとか生理的に無理だし。この辺の土はぬかるんでいるから彼女の靴の裏もきっとぬめぬめの土でまみれている。プライドは壊れたがこれはさすがに無理だ。
こっちが黙っているからって、調子のるのもいい加減に・・。
「拒否権ないって言ってるでしょうが、さっさと舐めろよ。」
靴の裏を顔につけた。ベちょっという音がした。
汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い。
不快指数がはんぱねぇっ。
顔につくのも下につくのも一緒だっ、と靴の裏をわずかながら舐めてしまった。俺はどうかしている。俺が何したっていうんだよ。もうこのことは何回も考えた俺は本当に何もしていない。魔王の魔の字が付くだけでここまで変わっていいはずがない。
「そんなの知るわけないでしょう。でも貴方は今私の靴の裏をわずかながら舐めた。契約は成立ですよね。」
全く契約とか考えずに舐めてしまった。服従とか封印よりもマジ勘弁だろ。勇者は何物も殺さないとかいう、お決まりのルールで命だけは助けてもらったのに。っていうかこんな奴がいたのだから元から助ける、とかいう感情はなくて俺に苦痛を与えたかっただけなのかもしれない。あの勇者ども。