波の下からこんにちは
波の上で、人間のことを少し学んだ。
沈みゆく船から、気まぐれに救い上げた人。
宝物の石像によく似た人。
十五になったその夜に、私の心を奪った人。
物知りな魚達曰く、「王子様」と呼ばれる人なのだそう。
そして、その人に私はどうやら「恋」とやらをしてしまったらしい。
確かに最近変に胸が高鳴ることが多い。
人間にはよく起こることで、止めようがないのだと彼らはいう。
これが恋ならば、人間達はさぞや苦労しているのだろう。
今日、私はまた一つ人間のことを学んだ。
叶わぬ想い。
あれ以来、こっそり夜中に浅瀬に泳いでいくことが増えた。
王子様はしばしばお城の近くの浜辺を散歩している。
それを眺めるのが楽しみだった。
しかし、最近様子が変わった。
彼の隣に寄り添う若い娘。
「助けてくれてありがとう」
囁く王子様。
それは違うだろう。
初めて泣いた。
また一つ、人間のことを学んだ。
愚かな生き物。
魚達の噂話を聞いた。
王子様は「結婚」とやらをするそうだ。
推測するに、想いが叶った印ということだろうか。
あの夜のように、船が波の底に暗い影を落とす
。
私は久々に海の上に上がった。
船の上からは楽しい祝福の音楽が聞こえる。
私もそれに合わせて歌を歌ってみた。
強まる風に乗って、この歌が届いたらいいな。
大好きな王子様。
どうやらあの女とはうまくいかなかったみたい。
私の元に来てくれた。
これからは、ずっといっしょにいられるね。