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深夜2時のコンビニで、透明人間の君と半分こした肉まんの味が忘れられない。  作者: 無響室の告白


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第5話:世界の裏側、あるいは修正されるべきエラー

路地裏に漂っていた焦げ臭い硝煙の匂いが、夜風にさらわれて薄れていく。


「……バグ、だって?」


坂井湊は、乾いた喉でその単語を反芻した。


腕の中には、震える透明な少女の感触がある。


彼女がバグ? この温もりが、ただのエラーだと言うのか。


謎の男、冴島煌はリボルバーのシリンダーを慣れた手つきで確認し、コートの内側に収めると、冷徹な瞳を湊に向けた。


「悠長に立ち話をしている時間はない。奴らは『修復』のためにまた湧いてくる。


ここにいれば、俺たちごと座標ごと削除されるぞ」


「奴らって……さっきの黒い化け物のことか? あんたは何を知ってるんだ」


「説明は移動してからだ。ついてこい」


冴島は踵を返すと、路地裏の出口へと歩き出した。


湊は一瞬躊躇したが、透子の


「湊くん……」


という不安げな声に背中を押されるようにして、男の後を追った。


大通りに出ると、深夜2時半の静寂の中に、一台の黒塗りのワンボックスカーが異様な威圧感を放って路駐されていた。


窓ガラスには濃いスモークが貼られ、中の様子は一切窺えない。


「乗れ。この街で安全な場所は少ない」


促されるままに後部座席のスライドドアを開ける。


車内は外見からは想像もつかない空間が広がっていた。


運転席と後部座席を仕切るパーティション、そして壁面には数台の小型モニターと無線機が埋め込まれている。


まるで移動する指令室だ。


「うわ、なにこれ……スパイ映画みたい」


透子が緊張の糸が切れたように呟く。


湊もまた、非日常的な光景に息を呑んだ。


自分たちは、とんでもない領域に足を踏み入れてしまったのではないか。


車が発進すると、冴島はバックミラー越しに湊たちを一瞥し、淡々と語り始めた。


「この世界には、自浄作用がある。システムが異物を排除するように、世界にとって矛盾する存在を消し去ろうとする力が働く。さっきの黒い不定形は、その端末だ」


「それが、削除者……」


「俺たちはそう呼んでいる。そして彼女は、世界というプログラムから弾き出されたエラーコード、すなわちカテゴリーCの『バグ』だ。


放置すれば、周囲のデータ――つまりお前や、この街の風景ごと浸食して消滅する」


車窓の外を流れる景色が、不意に歪んで見えた。


見慣れたはずのコンビニ、信号機、街路樹。


それらが時折、テレビのノイズのようにざらつき、一瞬だけ輪郭を失う。


「気づいたか? 彼女の存在が引き金になって、このエリア一帯の『テクスチャ』が剥がれかけている」


「テクスチャ……? じゃあ、透子は……彼女はどうなるんだよ。あんたは彼女を助けてくれるのか、それとも狩るつもりなのか」


湊の問いに、冴島はしばらく沈黙したのち、短く答えた。


「俺の仕事はバグの処理だが、意思を持つ個体は稀だ。……とりあえず、俺のアジトへ向かう。そこで詳細な解析を行う」


車は市街地を抜け、湾岸エリアへと入っていく。


無機質な倉庫群と錆びついたパイプラインが並ぶ、**放棄された工業地帯**。


街灯もまばらなその場所は、煌々としたコンビニの明かりとは対極にある、世界の墓場のように見えた。


湊は強く拳を握りしめた。


日常はもう、とっくに崩れ去っていたのだ。


隣に座る見えない少女の手を、確かめるように強く握り返した。



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【場所】

- 黒塗りのワンボックスカー: 冴島が使用する移動車両。外見は一般的だが、内部にはモニターや通信機器が設置され、移動基地のような機能を持つ。


- 放棄された工業地帯: 湾岸エリアにある、倉庫やパイプラインが立ち並ぶひと気のない場所。冴島のアジトがあると思われる。


【アイテム・用語】

- テクスチャ: 世界の表面を覆う認識の膜のようなもの。透子の影響か、街の風景がノイズのように歪む現象が見られる。

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