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深夜2時のコンビニで、透明人間の君と半分こした肉まんの味が忘れられない。  作者: 無響室の告白


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第4話:世界のバグと削除のルール

硝煙の匂いと、鼻を突くようなオゾンの臭気が、湿った路地裏の空気を塗り替えていた。


目の前で起きた出来事を処理しきれず、俺はへたり込んだまま、その光景を凝視していた。


閃光に焼かれたはずの黒い不定形物体――『削除者』と呼ばれた怪物は、完全に消滅してはいなかった。


アスファルトの上で、タールのようにドロドロと蠢いている。


「ちっ、カテゴリーCにしてはしぶといな。座標が固定されかけてるのか」


銃を構えた男、冴島煌さえじまこうが忌々しげに舌打ちをした。


彼はリボルバーのシリンダーを乱暴に振り出し、煙を上げる薬莢のようなものを地面に捨てる。


カラン、と乾いた音が響くのと同時に、俺の背後で透子が小さく悲鳴を上げた。


「みなト……あれ、まだ動いてる」


彼女の指差す先、黒い粘液の一部が鎌首をもたげるように起き上がった。


殺気――いや、そんな生易しいものではない。


あれは純粋な『無』への渇望だ。


「動くなよ、一般人」


冴島の警告は一瞬遅かった。


黒い刃のような触手が、俺たちのすぐ横にあった不法投棄の錆びた自転車へと振り下ろされる。


ガシャン、という破壊音はしなかった。


「え……?」


自転車のフレームが、触手に触れた瞬間に抉り取られたように消失したのだ。


切断されたのではない。


まるで画像を修正液で塗りつぶすように、そこにあった質量そのものが世界から抜け落ちていた。


「な、んだよ、あれ……」


「『物理破壊』じゃない。


『データ削除』だ。


触れれば肉体どころか、お前の存在した痕跡ごと持ってかれるぞ」


冴島が新しいカートリッジを装填しながら淡々と言い放つ。


削除。


その言葉の意味を理解した瞬間、背筋が凍りついた。


もしあそこに俺が立っていたら。


俺という人間は死ぬのではなく、最初からいなかったことになるのか?


「ギギ……ギ……」


黒い塊が、今度は明確に透子を標的に定めたようだった。


濁った殺意が、透明な少女の方へ向く。


「きゃっ!?」


「透子!」


俺は咄嗟に透子の腕を掴み、横へと転がった。


直後、俺たちが座っていた地面のアスファルトが、半円状に『消去』される。


深さ数センチのクレーターが音もなく穿たれた。


逃げ場はない。


後ろは袋小路のフェンス、前にはあの化け物。


「伏せてろ!」


冴島の怒号と共に、リボルバーが再び火を噴いた。


ドォン!


狭い路地に暴風のような衝撃波が走る。


放たれたのは鉛の弾丸ではなく、まばゆい光の塊だった。


それは黒い粘液に着弾すると、激しい熱量と共に『削除者』を内側から食い破るように拡散させた。


断末魔のような不協和音が響き、黒い霧となって化け物が霧散していく。


静寂が戻った路地裏には、不自然に削り取られた地面と、消えた自転車のタイヤだけが転がっていた。


俺は荒い息を吐きながら、震える透子の肩を抱き寄せることしかできなかった。


「……運が良かったな。あの距離で『浸食』を受けなかったのは奇跡だ」


冴島がゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。


彼は俺の顔を一瞥した後、俺の腕の中にいるはずの――誰にも見えないはずの――透子へと視線を移した。


「それに、そっちのお嬢さん。……随分と進行してるじゃないか、バグが」


その目は、間違いなく透子を捉えていた。



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【アイテム・用語】

- 排熱カートリッジ: 冴島のリボルバーから排出される薬莢状の物体。高熱を帯びており、使用後は白煙を上げる。


- 浸食: 『削除者』に接触、または近接した際に発生する現象。物理的な傷ではなく、存在の情報が欠損することを示唆している。

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