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深夜2時のコンビニで、透明人間の君と半分こした肉まんの味が忘れられない。  作者: 無響室の告白


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第2話 浸食する空白と、掌のぬくもり

冬の深夜特有の、肌を刺すような冷気が漂うコンビニの店先。


俺、坂井湊は、半分に割った特製・極厚肉まんの片割れを、虚空へ向かって差し出した。


白い湯気が立ち上り、何もない空間に触れた途端、湯気の流れがふわりと乱れる。


「……ほら。熱いから気をつけろよ」


「わあ……! ありがとう、湊くん!」


そう名乗った覚えはないが、彼女――真白透子は、俺の名札でも見ていたのだろう。


肉まんが空中に浮き、半分ほどがスッと凹んだ。


どうやら、見えない指先でしっかり掴んだらしい。


俺は隣に座り直し、自分の分の肉まんを頬張った。


濃厚な肉汁の旨味と、皮の甘みが口いっぱいに広がる。


深夜のジャンクフードは、なぜこうも背徳的な味がするのか。


「ふあ、あっち! ……んん、美味しい……っ」


隣からは、咀嚼音と、心底嬉しそうな吐息が聞こえる。


彼女は確かに、ここに「在る」


「それで、いつからなんだ。その……透明人間状態は」


「昨日の朝から。最初はね、ママが私のおはようを無視したの。次は学校で、先生が出席確認で私を飛ばして……。スマホも圏外になっちゃうし、誰も私を見てくれない。まるで世界からエラーデータ扱いされてるみたいだった」


彼女の声色が、次第に震えを帯びていく。


「怖かった。このまま、私が『いなかったこと』にされちゃうんじゃないかって。


でも……湊くんが見つけてくれた」


空中に浮いた肉まんの残骸が、小さく揺れる。


「……俺も、なんで見えてるのかは分からん。ただ、俺も大概、世界から浮いてる人間だからな。波長が合ったのかもな」


自嘲気味に呟いた、その時だった。


ズズッ……。


不快な音が、鼓膜ではなく脳内に直接響いた。


テレビの砂嵐のような、あるいは濡れた雑巾を絞るような音。


「ひっ……」


透子が短く悲鳴を上げ、気配が硬直する。


「なんだ?」


「来ちゃった……。私を、『消し』に来たの」


彼女の視線を追って、交差点の方角を見る。


そこには、奇妙な光景があった。


街灯の光が届かない暗がりの中に、さらに濃い『黒』が蠢いている。


不定形のそれは、コールタールのような粘度でアスファルトを這い、道路脇にあった錆びたガードレールを飲み込んでいた。


いや、飲み込んだのではない。


黒い何かが通過したあと、ガードレールは根元から消失していた。


破壊された瓦礫が残るわけでもなく、最初からそこになかったかのように、空間ごと削り取られている。


「……おい、冗談だろ」


俺の背筋を、悪寒が駆け抜ける。


あれは幻覚や幽霊の類じゃない。


もっと物理的で、根源的な『削除』の力だ。


「逃げなきゃ。湊くん、離れて! 一緒にいたら巻き込まれちゃう!」


透子が叫び、ベンチから立ち上がる気配がした。


肉まんの包み紙が風に舞う。


「待て」


俺は反射的に手を伸ばし、彼女の腕があるはずの空間を掴んだ。


確かな質量と、微かな体温が掌に伝わる。


「湊、くん?」


「あんな訳の分からないモンに、お前ひとりで勝てるわけないだろ」


黒い『削除者』は、ズルズルと這いながら、確実にこちらへ向かってきている。


コンビニの店内の明かりが、チカチカと不安定に点滅を始めた。


俺は、震える彼女の見えない手を強く握り直す。


「行くぞ。とりあえず、あいつが追ってこれない場所まで走る」


「でも、私……」


「肉まんの借りは返してもらうぞ。まだ半分しか食ってないからな」


強引に理屈をこねて、俺は走り出した。


不眠症で鈍った体が悲鳴を上げるが、構っていられない。


深夜2時の静寂が、異形の足音によって破られる。


俺たちの逃避行は、唐突に、そして最悪の形で幕を開けた。



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【登場人物】

- 削除者(仮称): 敵対者。不定形の黒い存在で、物質や存在そのものを消滅させる能力を持つ。


【場所】

- 駅前の交差点: 『削除者』が出現した場所。街灯の光が届かず、ガードレールが消失する現象が確認された。


【アイテム・用語】

- 削除: 物理的な破壊ではなく、存在そのものを世界から完全に消し去る現象。

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