第三幕:ワトソンの冒険
やあ、君。いったん面倒を見ると言ったけど、意外と面倒くさいと感じたら、気軽に言った自分を殴りたくなるだろ?ーーそんな感じだーー。
第二幕では、ワトソンがホームズの代わりにメアリーの息子の相手をすることになった。そう、子守りだ。
ワトソンは辻馬車や汽車使って、メアリーの息子の屋敷に行く事になった。
イギリスのイースト・サセックス州にあるクロウバラのウィンドルシャム邸だ。そこは約40マイル離れていた。
どうやって行ったのかはーー省こう。
ーー費用は全部メアリー持ちだった。
金額を提示され、多少の前払いももらった。ホームズにも部屋代を渡したーー今月分だけ。
メアリーの依頼は、迷惑なものだった。依頼者を伏せてくれ、メアリーに関する質問はしないでくれとか、注文が多かったんだ。ワトソンは、どうやったら断ろうか迷ったけど、結局は屋敷に向かっていた。
なぜかって?
お金が欲しかったからーー。
「断ればよかったーー」
メアリーに息子の居場所を告げられた時、ホームズのニヤニヤは止まらなかった。
ワトソンは記憶の中でホームズの顔を思い出して、イラついた。
ワトソンは汽車の車室に座っていた。
景色を見る余裕はない。
向かい側の席には、
黒い帽子を被った顔をシワだらけにした老司祭が座ってブツブツとイタリア語を話していた。
ワトソンは彼を怪しいと思った。
なぜか、自分の方を意味深げに見たからだ。薄気味悪くなった彼は、外の景色に集中した。
しばらくすると、神父は彼に話しかけてきた。
「医者が行くなら、神父も必要だーー」
驚いて、ワトソンは神父の方に顔を向けた。
ーーなんて事だろう。ワトソンの目の前には、あのクソやろうがニヤニヤして座っていたーー。シャーロック・ホームズさ。
「ホームズ?君なのかいーーボクを心配してーーいや、違う。わざわざからかいに来たんだ。君は退屈してたからーー」とワトソンは呟くように言った。ワトソンが戸惑うのを見て、ホームズはニヤニヤし始めた。
「なぁに、あのクソババアのバカ息子がどんなのか興味が出ただけさ。
それにーー金払いもやけに良かったからな。
ーーお近づきになろうとも思った。」
ホームズの言葉を聞くと、ワトソンは寂しそうに視線を下に向けた。
「それでも、ボクは君が来てくてホッとしてるよ。ありがとう、ホームズ。」
その言葉を聞いた時、ホームズのニヤニヤは止まった。一瞬、目を見開いて、またすぐに元に戻ったんだ。
「ーーで、ワトソン。バカ息子になんて言うつもりだ?」
「ボクらは彼のことを何も分かってないよ。」
「いいや、わかるさ。彼は英国紳士だ。交霊会を頻繁にひらけるほどの経済力を持つ。名士だよ。それに母親を大事にしてる。メアリーのドレスが教えてくれたぜ。母親を大事にする奴は情が深い。交霊会も誰かに会いたいから何度もやっている。騙すつもりはないーー悪人ではない」
突然、汽車がガタンと揺れた。
二人の身体がひどく揺れた。
そして、揺れがおさまっていった。
「ーーさっきの揺れはなんだろう?」とワトソンがホームズに聞いた。
ホームズは、こう言った。
「線路に小石でも落ちてたんだろーーそれよりも、僕らは面倒な依頼を受けたようだ。英国紳士の決意は石より硬い。厄介だーー」
「ボクら?君は手伝わないんじゃ?」
「ーー気が変わったのさ」
ホームズは優しく微笑んだ。
(こうして、第三幕は名探偵の微笑みで幕を閉じる。)




