第9話 決着
会場内で戦力として残っているのは、ペルナとロイゼン二人となった。
二人とも、魔術により空中にいる。
目が眩むような稲光が走る。
重力により空気が歪む。
「強いな」
ロイゼンが言う。目が輝いている。
「まあね」
ペルナが笑う。
ロイゼンが雷を集め始める。
ペルナは空を見つめる。
重力操作により、雷の直撃を躱すことは出来るだろう。
だが。
ロイゼンの究極技は、断続的な無数の雷撃。
全部を受け止めることは難しいだろう。
さて、どうするか……。
――――一応、貴族子女であるペルナ。彼女の両親は、子どもにあまり関心がなかった。
ペルナの父は、国内外で特許をいくつも持つ、魔道具の製作者。
母は、魔術修行のため、国境を越えて旅する人。
ペルナが物心ついた頃には、二人ともほとんど邸にはいなかった。
父は領地で魔道具の開発にいそしみ、母はごくたまに、ペルナの元にやって来た。
ある日、珍しく母が帰ってきた。
「はい、おみやげ」
母は懐から、何やら動くものを出す。
「にゃあ」
それは、白地に茶と黒のブチ模様を持つ子猫だった。
ペルナは子猫を抱き上げる。
子猫は、温かかった。
「それと、コレ」
母はテーブルに、静かにカップを置く。
白い陶器だった。
「東にある島国で、猫とお茶碗を一緒に売っていたの。どっちも可愛いから、買ってきちゃった」
猫とお茶碗?
「このカップは優れものでね……」
カップの説明よりも、子猫に夢中になるペルナだった。
以来、ペルナは猫と寝食を共にする。
いつしか、ペルナの睡眠時間は、猫と同じになった。
――――ペルナとロイゼンの戦いは、最終局面になっていた。
ペルナは地面に降り立つ。
ロイゼンも続く。
ペルナが降り立った場所は、ヴェキシムの炎が熾火の如く赤く光り、白い煙が上がっていた。
ロイゼンの雷撃が放たれる直前、ペルナは静かに唱える。
「反転」
地面から土が舞い上がる。
ペルナの重力操作は、下へ向かうだけではない。
物体を、浮かび上がらせることも可能である。
「土煙如きで、俺の雷撃を躱せるとおもったか!」
ロイゼンが雷を集める。
彼は最大級の魔力を放出する。
雷光は空を白く染める。
「これで終わりだ。雷皇槍!」
無数の雷がペルナを襲う。
観客席から悲鳴が上がる。
しかし。
ペルナの周囲を舞う土により、すべての雷が弾かれた。
「何!」
土の欠片はそのまま、ロイゼンの体を貫いていく。
ペルナは指を鳴らす。
「重力付加」
土の欠片それぞれに、ペルナの重力がかかる。
血を吐きながら、ロイゼンは倒れた。
土煙が晴れた会場内、立っていたのはペルナ一人。
会場は静まりかえる。
審判が叫ぶ。
「ロイゼン選手、戦闘不能!」
観客席が爆発する。
実況が叫ぶ。
「王学は、五人全員、戦闘不能です。これ以上の競技の続行はできません。よって決着!! 勝者――」
「民営魔術学院!!」
会場が揺れた。
特別席で観戦していた、民学の学院長が万歳をする。
担架で運ばれていくロイゼンが、息を漏らしながらペルナに言う。
「なぜ……土ごときで雷が……」
「ああ。あれね。土の中に焼き物があったから」
「焼き物、だと?」
「うん。ヴェキシムが無駄に高温で魔法剣使ってくれたので、土の中に陶磁器が出来てた。陶器は電を通さないから」
「……そうか」
諦めたように、ロイゼンは言った。
「完敗だ、ペルナ。……君と、君の仲間たちに……」
ペルナは空を見る。青い空だ。
母が猫を連れて来た日と、同じ色。
あの日、母は言った。
『このカップは優れものでね、耐電性があるのよ』
『たい、でんせい?』
『雷も通さないってこと』
「楽しいかったね」
ロイゼンは目を閉じた。
「ああ……そうだな」
ペルナは欠伸をする。
「眠い。帰って寝よ」
観客席から歓声が続いている。
ラウジーが、ふらつきながらも、観客に手を振る。
ヴェキシムが、剣を掲げる。
サジェンヌが、ララちゃんを抱きしめる。
こうして――
民学は初めて、王学に勝ったのだ。
第一部 完
お付き合い下さいまして、ありがとうございました!!




