第6話 それぞれの戦い1
民学と王学の魔術決戦は続いている。
◇民学ラウジー対王学トップアルディオ◇
ラウジーの水魔術と、アルディオの雷がぶつかり合って、会場は水蒸気が立ち上る。
白く染まって視界が悪い。
観客席からも、戦況は見えない。
実況が叫ぶ。
「視界、不良! 何が起きているのか分かりません!」
霧の中で、ラウジーは膝をついた。
「はぁ……はぁ……」
魔力の使いすぎだろう。腕が震える。ラウジーは、両の掌を握ったり開いたりする。
指が動く。なら、まだ、まだ大丈夫だ。
――――ラウジーが、魔術を初めて使ったのは、六歳の頃だった。
王都外壁から離れた小さな町。
石畳は欠け、家々も古い。
貴族の屋敷が並ぶ場所とは、まるで違う所で、両親は小さな店を営んでいた。
ラウジーの父と母は、異国から移り住んで来た。
元の国では爵位持ちだったと、たまに父は呟いた。
繕い物と洗濯物を請け負う店で、幼い頃からラウジーは両親を助けた。
洗濯物の汚れを落とすために、丘に登り、木に巻き付く豆を集めて砕いた。
手荒れの酷い母に代わり、一生懸命布を洗う。
水の冷たさで手が動かなくなると、指先を噛んだ。
いつでも、水が必要な仕事だ。ラウジーの朝は、水汲みから始まる。
日照りが続き、近くの井戸が枯れそうになった時、ラウジーは思った。
水が欲しい。
水が、水が水が……。
パシャリと。
ラウジーの手から、水が零れた。
それはコップ一杯にも満たない、僅かなものだったけれど。
ラウジーが水魔術に覚醒したのは、この時である。
魔術の才能があると分かると、父は喜んだ。
この国で平民が成り上がるには、剣か魔法の道しかない。
小柄なラウジーに剣士は無理だが、魔術を極めることが出来るかもしれないと。
そして魔術適性が認められ、民学へと進んだ。
ラウジーは十三歳になっていた。
家の手伝いばかりしていたラウジーだったので、魔術以外の勉強も必要だった。
民学には、ちらほら男爵や子爵の子弟もいる。
低位と言っても彼らは貴族である。
基礎学力や言葉使いは整っていた。
「ああ、平民か」
「場違いだな」
そんな言葉も聞いた。
ラウジーは歯を食いしばった。生まれは変えられない。
でも、努力で越えていけるものもある、と。
魔術だけは誰にも負けない。負けたくない。
去年の民学対抗戦は、応援席から見ていた。
次々と繰り出される王学の高度な魔術に、ひたすら圧倒された。
努力が、結果に結びつかないこともあるのだと。
結局、高位貴族の優秀な人には、勝てないのだと。
打ちのめされた。
そんなある日。
王学から転入生がやって来た。
女生徒だ。
ふわふわの金髪がキラキラしている。
ひだまりの中にいる、猫みたいな人だった。
授業中は殆ど寝ている。
言葉使いも、平民より雑だ。
なんなんだ、この人。
関わらないようにしようと、ラウジーは決めた。
だがラウジーは見てしまった。
机に突っ伏して寝ている彼女のノートの端に、完璧な魔術式が描き出されていたのだ。
何、この人!
その日から、ラウジーは時々ペルナを観察するようになった。
特に実技の時間。
その時だけは、彼女も起きているから。
魔力の使い方が違う。
無駄がない。
まるで魔術そのものと対話しているような操作。
見習いたい。あの操作を学びたい。
一緒に、魔術を試してみたい!
――――会場。
ラウジーは立ち上がった。
目の前に影が揺らめく。
アルディオ。雷を纏った王学主席。
「面白い水魔術だった」
ラウジーは震える声で言う。
「まだ……終わってない」
アルディオは笑った。
「終わりだ」
雷が集まり、巨大な雷槍へ変化する。
ラウジーは目を閉じた。
ペルナの声が聞こえた。
『ラウジー、君の魔力は化け物だ』
『でも、制御は弱い、ていうか下手』
『……なら全部、出せばいい』
ラウジーは目を開く。
「……全部」
深く息を吸う。脳内で、完璧な魔術式を構築する。
ペルナの様に。
直後、ラウジーは魔力を解放する。
地面が震えた。
「水が!」
実況の、言葉にならない叫び。
闘技場の地面から水が噴き出す。
地下水脈を引き上げている。水に突き上げられた土塊が弾ける。
アルディオの顔が変わる。
「馬鹿な……!」
ラウジーが叫ぶ。
「行け!」
それは巨大な波。会場に、突然海が出現した。
波は校舎の屋根を越えるほどの高さにせり上がる。
アルディオの雷が消える。
波はすべてを溶かしていく。
がくりと力を失くしたアルディオも、水中に沈む。
観客席が総立ちになる。
「うおおお!」
実況が絶叫する。
「これはウルトラ級水魔術!!」
ラウジーは、王学主席を撃破した。




